距離
物見櫓の下に肩を上下させるガルムと涼しい顔をしたミオが夜の闇に紛れていた。
「結構時間かかるな」
「30分~1時間って所だと思うよ」
全力で往復しても三十分。
村に何かあれば、まだ戻れる距離だった。
調べる事は調べた、後は街にどう入るかだ。
村長が来るのを待つつもりもなければ一緒に行くつもりもない。
僕からの手紙をここに残し先に行く事を伝える。
街に近づいてみて分かった事は周りを高い街壁に覆われ、
入り口が限られている事だ。
僕が見たのはここからでも見える入り口と左方向にあった入り口の2つ。
周りを見たわけじゃないから何とも言えないが多分4方向だ。
「ミオの魔法でバレずに街に入る事って出来ない?」
「楽勝だね!得意分野だし」
ミオの魔法を思い出し心で頷く、だけど心配でもある。
「昨日みたいに倒れるって事にはならないのか?
もしそうなら別の方法を考えたいんだけど」
「昨日のは範囲と人が多すぎたから、
今回はウチとガルム2人の認識を分からなくするだけだから大丈夫!」
「そっか……ならお願いするよ」
2人で顔を見合わせ頷き合う。
人が深く寝静まる時間を狙うように草原を歩き出す。
●
街まで30分くらいの距離に差し掛かり僕らの足が止まり2人して遠くの森の方へ顔を向ける。
微かに聞こえる声のような音、風が吹いていないのに大きく揺れる木々に目を細める。
その音はどんどんと大きくなり、森の闇の中に赤い眼や黄色い眼が次々と浮かぶ。
「緑の……子供?」
「あれはゴブリンだよ、それ以外にもトロールとヘルハウンドもいる……」
(へぇ、あれがそうなのか)
森の中から大量の魔物が並び始め街を見つめたまま止まっている。
遠くに見える光景を見つめ、手で右側から遠回りして街に行く事をミオに伝える。
難しい顔をして魔物の集団を見つめるミオにどうしたのか聞く。
「うーん、あいつら統率されてるね」
「統率?普通の事じゃないの?」
左側の魔物に顔を向けつつミオに説明を促す。
「魔物は普通、あんなふうに並ばないよ。別種がいるならなおさら」
「確かに敵対してる感じはないな、指示を待ってるようにも見えるし」
街を見つめたまま動かない魔物の集団を見る。
街を見に来ただけ、そんな事もあるはずがない。
「魔物は強い奴に従う事もある、今の所それらしいのは見当たらないけど……」
「どうするの?」
「様子見でいいんじゃないか?あいつらが隙を作ってくれれば僕らもやりやすいしな」
「ガルムとうちで魔物をやっつけたら招いてくれるんじゃない?」
まぁ、それも考えたけど、招き入れてもらえなかった時が面倒すぎる。
僕らは人間の考えを理解できてない、
その状態での安易な判断は危険すぎる。
むしろ………。
「魔物側について街を襲う事の方が今の僕らには正解だとも思ってる」
「なら仲間に入れてもらう?従える奴がいるなら話は通じると思うよ」
首を横に振りそれを否定する。
「いや……街に入る事を優先しよう」
「うちは人の姿のままでいいの?」
ミオに頷きで返し、
進路上にあった隠れられる大岩の後ろで止まる。
瞬間――
カンカンカンカン!!!!
街の方からけたたましい音が聞こえ、
止まっていた闇が揺れる。
次の瞬間、魔物の群れが一斉に駆け出した。
魔物が怒号をあげ地響きを響かせる。
近くにある小さな森の中からも魔獣が飛び出す光景に思わず声が出てしまった。
多くの黄眼がこちらを捉える。
だが次の瞬間、獲物ではないとでも言うように視線を切られた。
僕たちは眼中にない、それか何か目的があるのか……。
「同時に動いてるのか」
右側からも街へ走る魔物を確認し、街を見ると人が続々と外に出始めているところだ。
「なんか昨日と同じ感じだな」
「鎧着てる人が少ないけどね」
ミオの言葉で僕も気づく。
軽装と言えばいいのか、3~6人のそれぞれの集団が固まっている。
駆け出すのが見え――
魔物たちと衝突する。
城壁の上で光る魔法陣から炎や雷が飛び出し、魔物の群れに着弾する。
ドゴーン!!
その音が連続で響き、地響きと共に爆風を浴びせてくる。
魔法の攻撃を受けてなお魔物達は足を止める事はなかった。
むしろ城壁の上に矢が飛び始め対処に追われていた。
多分これは全方向から襲われてるな。
魔物と人が混じりあう光景を見て、ミオに視線を移す。
「ミオ、この混戦でバレずに侵入できる?」
「体が触れちゃうとさすがにバレちゃうから……」
難しいと。
街の扉は開けられたまま、そこから続々と人が出てきている。
紛れればわからなそうではあるけど……。
「ミオは毛玉になるとして、僕が全速力で門まで走ったらどうなると思う?」
「目立つだろうね、ガルムの速さ尋常じゃないし、仮面だし、魔物側と思われて攻撃されるかも」
「攻撃されるか?人間が逃げて来たって思ってくれないかな?」
ミオに疑問を投げかけるとミオが門を指さすのでそちらを見る。
「外に皆出てきてる所だよね?その中で1人だけ街に入ろうとするのは怪しすぎる」
「……確かにな」
僕らがいる大岩の反対側からも人の声が聞こえ始め、バレない様に顔をのぞかせる。
ミオが背中を合わせ後ろを警戒してくれる。
それに安心感を覚えつつ近くで戦う若い集団を見つめる。
「多分ギルドの連中だと思うよ」
ミオの言葉に頭の中の知識を引っ張り出す。
ギルドに所属する冒険者。
魔物の襲撃は”何でも屋”の仕事ってわけなのか?
若い男3人女2人のパーティを見ながら考えているが……。
(突っ込み過ぎだろ)
街から離れどんどん後続との距離を離している。
正確に言えばヘルハウンドに誘い込まれてる。
「ま、待って!街から離れすぎてるからいったん戻ろ!?」
「大丈夫だよ!こっちにはトロールがいない、ヘルハウンドなんて何匹も狩ってきただろうが!」
「そうじゃなくて孤立しちゃうから!!」
「だから大丈夫って言ってんだろ!このパーティのリーダーは俺なんだ、黙って従え!」
騒ぎ合ってる間に魔物の包囲が完了する。
後列の女性二人に襲い掛かり悲鳴を上げるが前衛の盾を持った2人が間に入り攻撃を防ぐ。
「へぇ、分断もするんだな」
「うわぁぁぁ!」
前衛の男が1人になった瞬間に5匹が同時に襲い掛かる。
飛び掛かる3匹を弾くが足元の2匹が足を噛みパーティから離すように引きずり、
僕らがいる大岩の後ろにまで連れて来られる。
地面を引きずられる男と目が合う。
「あ、あんた助けてくれ!!頼む!!」
僕が動かない事を理解した瞬間男の顔が怒りに染まる。
「な!お、おい!ふざけんなよお前!やだ!死にたく――」
男の叫びと魔物の歯が男の首に向かい――
断末魔の悲鳴を上げるのを見つめる。
冒険者の男達が名前を叫び女性の悲鳴も聞こえてくる。
「許さねぇ!!」
「待って!1人で行かないで!」
先ほどと似たようなやり取りに無意識に首を横に振ってしまう。
魔物に首を噛み切られ目に光が無い男と目が合う。
(優先順位があるんだ、恨んでくれていいよ)
「ミオ行こう」
「姿見してもいいの?」
「どうせこいつらはここで死ぬよ」
「まぁそれもそうだね」
岩陰から姿を見せ戦う冒険者の横を通り抜ける。
ヘルハウンドは僕らに興味を示さず、冒険者たちは驚きで目を見開いていた。
後ろに聞こえる助けを求める声を無視して歩き続ける。
男と女の悲鳴が聞こえ――
頭上を白い閃光が裂き――
爆音を響かせる。
後ろに出来たクレーターと尻もちを付く冒険者と固まる魔物を見た後、前を向く。
3人組が僕らの前で立ち止まり睨みつけてくる。
「お前……なんで助けないんだよ」
静かな声に怒りを滲ませる青髪の男が一歩踏み出し。
ミオもそれに合わせて一歩踏み出す。
周りの喧騒が嘘のように聞こえなくなり、張りつめた空気が僕らを包み込む。
心に余裕があればガルム君は冒険者を助けていました。
タイミングが悪かったのでしょうがないです。




