正義の所在
また四人組で集合して僕はアストレアという魔女と目を合わさないようにしていた。
というよりフリージアによって手で目隠しをされた状態で話を聞いてるからだ。
◇ ◇ ◇
おじさんとあの魔女が話し込んでるのを遠くから見ている僕とフリージア
「ガルム君!!あの人に向かってくのは危険だからやめて!」
思いのほか必死の叫びに驚きつつ僕では勝てないみたいなニュアンスに僕はムッとして言葉を返す。
「あんな奴どうってことないよ、僕たちと大して年も変わらないんだから勝てないなんてことはないはずだろ?」
そんな僕の生意気な言葉はフリージアの激しく首を振る事で全否定された。
「そんな次元じゃないの!あの人は!!無詠唱で魔法を使ってたのガルム君も見てたよね!?すごい事なんだよ!それに魔法を構築するまでの時間も、ものすごく速かった!!」
鼻息荒く力説するフリージア、魔法の知識がない僕には何がすごいのかがさっぱり分からず、腕を組んで納得できない顔を見せる。
そんな僕に気づいてるフリージアはさらに言葉を投げつける。
「ガルム君に分かりやすく説明してあげる!あの人とガルム君が100回戦ってもあの人には勝てないの!!」
「1000回なら?」
すご~くわかりやすい説明だったが、諦め悪く食い下がる。
「0!!!」
「1万」
「0!!!無限回やっても勝てないの!!」
はぁはぁと息荒く肩を揺らすフリージアと全否定されて気分の悪い僕。
「ガルム君あの人と目を合わせたら、また嚙みつきそうだから目を合わせないでね?」
「冗談でしょ!?あんないきなり殺してくるような奴から目を離すなんて考えられないよ!」
フリージアも僕の言い分も分かるのか少し唸りながら悩むと急に手をたたいて。
「いい方法思いついた!!」
と言ったのであった。
◇ ◇ ◇
フリージアさんこれがいい方法なんですか?僕が言った懸念点はなにも解決されてないのですが?
裸の状態でいつでも殺してくださいといってるような状態なんですが。
合流した瞬間に目隠しされて。
「これが解決策!!完璧だよね!!えへへ」
そんなことを言うフリージアに何も言えなかった僕も僕だが
何度でも言いたい、どこがいい方法なの?と
そんな僕の心配事などないかのようにアストレアからの説明が始まる。
「説明を始めるわよ?まずエルフ国の中心にまでいたのに攫われたことの説明ね。それはヴェイラム王国が坑道を開通させるのに必要な人材をもっと集めたかったから。正確に言えば手引きしたのは担当する貴族ね、道案内ははぐれエルフにでも頼んだんでしょう。」
「その事実を知ったエルフの王女はもちろん怒ったわ、王国は否定を続けてるけど、王国の仕業と決めかかるエルフの国はある条件を突きつけた。1、期限以内にさらったエルフを返すこと、2,今後エルフの住人が攫われるような事態が起き次第エルフ全軍とグラジオラス国でヴェイラム国に戦争を仕掛けると」
おじさんはなるほどといい頷きハッとしてフリージアを見る。
「聞いたことなかったが嬢ちゃんが坑道に来たのはどれくらい前からだったんだ?」
「えっと、今って何の夜なのでしょうか?」
僕は首をかしげる(おじさんも首をかしげてたらしい)
「今は海竜の夜よ」
淀みなくそんなことを言うアストレア、今は9月ではと思いながら黙って聞く。
「私は鎧象の夜に攫われたので5月ほどです」
5月は理解できたのだろうおじさんが慌てて確認する。
「アストレアさっき言ってた期限以内というのはどこまでなんだ?」
「半月が期限よ、よかったわね」
おじさんは胸をなでおろすがすぐに何かに思いついたのか慌ててアストレアに向き直る。
「ちょっと待てよ、最初の条件ってエルフ全員の奴隷を返すって意味じゃないのか?もしそうならそんな事不可能に近いぞ?それとも言葉通りに適当なそこら辺の奴隷のエルフを返すでもしろってか?」
確かにおじさんの言う通りだ、たくさんの奴隷が連れ込まれる中で正確な判別などできるのだろうか?
「よく気付いたわね、でもそこは気にしなくていいわ、もうその条件はクリアされてるから」
「そ、そうなのか?なら2番目ももうすでに解決してることになるな…俺たちの他にもエルフ側が動いてたって事か?」
その疑問に答える者はおらずアストレアは話の締めに入る。
「そういう事なんじゃない?あとはその子が帰れば解決って事」
最後に分かった?と言い話を終える
「あのさ、大体は分かったし、痛い痛い!!」
「ガルム君は喋っちゃだめ!メッ!!」
そう言いながら指に力を籠めるものだから目が押されて激痛が走る。
「いいわ、気になることがあるのなら話しなさい」
「いいんですか?ヨシ!!」
僕は犬か何かなんですかフリージアさん?
また目を潰されないかビクビクしつつ話始める。
「そもそも王国が坑道の人員を集めるために関わってるって言ったよね?それって噂じゃなく本当って事だよね」
「あら意外と頭はいいのかしら?そんなところに気づくなんて」
馬鹿にするような発言に思うところはあれど今はそれよりも聞きたいことが有る。
「おじさんにその可能性はあるって聞かされてたからね、僕が聞きたいのはどうしてあんたはそんなに詳しく知ってるのって事なんだけど?」
「おいアストレアそろそろ時間がないもう切り上げてくれるか?」
僕の質問を遮るようにおじさんが会話を終わらせようとする。
「あたしが王国軍の所属だからよ、調べようと思えばすぐに分かるのは当たり前のことよ」
おじさんがため息をつくのが分かる。
「じゃあこの件に関わってるって事?」
「直接的にも間接的にも関わってないわ、人さらいの連中がエルフを攫ってるのを見たから興味で調べてただけよ」
目隠しをされてる手がピクリと動くのが分かる。
抑えようとしてたものが徐々にこみ上がるのを感じるが、冷静に言葉を紡ぐ。
「攫われてるのを見てそのまま何もせずに見送ったの?」
「聞いてた?あたしは王国軍所属なの、そのあたしがそんな事やめろなんて言うと思う?私には何も関係がない事に関わる気はないわ」
「それで一生苦む人が生まれると分かっていてもか!」
この女はどこまでも非道なのだろう、目隠ししているフリージアの手を優しく剥がす、力などほとんど入っていなく何の抵抗もなく外せる。
「おい二人ともまた同じことをするつもりか!?もうやめろ!!」
おじさんが間に入って止めに入るが、アストレアは歩を進め、杖でおじさんを横にずれるように脇に当てる。
「どきなさい、ここでのお勉強に時間を割いてあげる」
おじさんにそう言う魔女だがおじさんは杖を掴みもう辞めるように再度言う。
アストレアはおじさんを見上げ大きく目を見開き体に紫色の雷を纏う。
先ほど殺されかけた時とは比べ物にならないほどの重圧だ。
「どけ!!お前が私にした頼み事はこういう事だろ!」
初めて感情が乗る声に僕は息を飲む、おじさんもしばらく止まり杖から手を放し横にずれる。
そして僕の目と鼻の先にまでその魔女は近づく、年が近いだとか、背が僕より小さいだとか感じさせてくれない迫力がある、フリージアの言った絶対勝てないの意味をようやくここに来て理解できた気がする。
「おいガキ、お前はあたしに見捨てるな、助けろといったな?」
僕は声を発さず、いや発することができず頷いて答えた。
「お前が言うようにあたしが正義感に燃えた正義の魔女だとしよう、そしてあたしは奴隷を救い出すだろう、そして奴隷たちをエルフの国に帰してあげてめでたしめでたし。その結果エルフが味方になってくれて更には強い武器まで与えてくれる。いつでもエルフの国に来ていいと大歓迎を受ける。フッ希望的観測マシマシでこんなものか?」
芝居がかったセリフで僕に語り掛ける。
「それで?その後はあたしはどうなる?」
「それは…」
ドン!
一瞬の出来事で理解ができなかったが魔女の杖が僕の体を押し尻もちを突く形で転ばされる。
そんな事をされても僕は痛みどころか怒りすら消え失せていた。
「答えろガキ!!お前が望んだ問答だろうが!」
そう言われても何も言えずに黙り込む僕に冷たい眼が強く僕を見下ろす。
「あたしが答えてやる、王国にたてついた一人の魔術師、当然お尋ね者だな、私ほどの人間なら討伐隊を引き連れてあたしを殺しにかかるだろうな、では戦うか?私は神ではないからな、限界が来る、却下だ。ではどこかに隠れて生活するか?いつ襲われるかもしれない緊張感を一生抱えながら?却下だ。他の国に逃げ込むか?先ほどの話のエルフが歓迎してくれたとしよう、それが原因で戦争が起きたら?あたしのせいで大勢を巻き込めと?あたしのために死んでくれと」
「国はなぜできる?それは強いものが弱い人間を守り、その対価として税や作物を得る、そして弱い者が自分たちの安全を得るために国に所属して守ってもらう、それはどこも変わらん。半端なものは悪さをすれば投獄か、国外追放だろうな、死罪もあるがな。だがな力を持つ者が過ちを犯したときに、その力を放っておくと思うか?脅威になる存在を見逃す奴はいないと思うがな?あたしなら確実に殺す。」
一気にまくしたてられるその言葉に、その結末を想像できてしまい地面に視線を落としてしまう。
僕のあごに杖を当てられ強制的に目を合わせられる。言葉は何も発さない、逃がさないというかの如く睨みつけられる。
「私は今平穏に暮らしている、私にも夢や目標がある、やらなければならないこともな、それを一時の正義感でお前はすべて諦めろと言ってるんだぞ?」
そうだ本当にその通りだ、自分の何も考えずに発言した言葉が恥ずかしく思う。
「それで一生苦しむ人がいると分かっていても…か、お前の言葉だ、ほう?お前はあたしなら一生苦しんでもいいと?」
「違う!!そんなことは…思ってない」
本当にそんなことは思っていない、だが僕の発した言葉は本当にそう言われても仕方のない事だ。
今言われて気づきましたもう言いません、そこまで深く考えていませんでした次は気を付けます、
そんなに怒る事じゃないでしょ。
今僕がそんな言葉を言うとしよう、それは何てかっこ悪い事だろう。
「お前が何を思おうが自由だその発言もな、だがな、お前の正しいと思い込んでるものを他人に強制するな、それをしていいのは強者だけだ。」
小さくはいと言うしかなかった。
「いいか?あたしはお前の発言を否定してるわけじゃない」
「え?」
全否定して何を言ってるんだと思いながら見る。
「さっきはあたし目線で物語を展開したな?じゃあ今度はお前の番だ、お前は今先を考えることを学んだな?そのうえで聞く、お前はエルフの奴隷を救うか?」
僕は5秒と考えずに結論を出す。
「うん、必ず助ける」
おじさんは笑い、フリージアも微笑む。
そこに迷いは何もなかった、馬鹿だと言われるのかもしれない、魔女の眼は何の感情も映さない。そうかとだけ言いあごに当てていた杖を離しおじさんに「終わりだ」とだけ言い残し去っていった。
おじさんはアストレアにやりすぎと言い
フリージアは何も言わずに後ろから強く抱きしめてきた。
結構な時間引きずるだろうなこりゃ、と思いながら晴天を仰ぎ見た。
ここは曇りであってくれよとしょうもない事を考えるのであった。




