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始原の裁定者と終結の器  作者: 解放さん
1章 モース村

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撃退③

ギシっという階段が軋む音を聞き慌てて目元を拭う。


どれだけの時間泣いていたのか分からない。

長い様にも短い様にも感じる。


ミオなら音なんて出さないからエリザベスさんだ。


(顔、合わせたくないな…)


顔を伏せて待っているとエリザベスさんの足が視界に入る。


「エリザベスさんミオは?」

「ついさっき寝始めた所よ、

【帰って来た】って言ってたから匂いで安心したんだと思うわ」

「そんな臭いのかな?なんてね…

そっか、大丈夫そうなら良かった。エリザベスさんも診てくれてありがとうございます」


無理しておちゃらけようと思ったが続ける事が出来ず頭を下げお礼を告げる。


「………ガルム君、どうしてずっと下を向いているの?」

「返り血が凄くてさ、村の皆に顔を見せたくなくて、気にしないでくれると………助かります。

エリザベスさん、後は僕が見ておくから大丈夫!

ラインやトーマスさんが家で待ってるって言ってから早く帰ってあげて?」


早く1人になりたくてそんな嘘をつき階段を上るために彼女の横を抜ける。



「………どうしたの?

手、汚れちゃうよ」


急に腕を掴まれ足を止める。


「ガルム君も怪我してるから私に診させて?」

「え?いや僕は怪我してないよ?これは全部返り血だから大丈夫。

離してくれますか?」


無理やり振りほどくことも出来ないので階段を視界に納め、

後ろのエリザベスさんに話しかける。



「あの?」


一向に手を放してくれないので下を向きながら振り返る。

ふわりと花の香りと柔らかい感触に包み込まれ目を見開く。


「ちょ!なんで抱き着くんですか!汚れるから離れてください!」

強い力で抱きしめられてるので、無理に押し返す事も出来ず困ってしまう。


「ガルム君は、人を殺してきたの?」


おっとりとした口調から急にその言葉を言われ動揺で目が泳いでしまう。

その声色からはエリザベスさんの考えが分からない、

それが余計に怖い。


なんて答えればいいんだろう………僕の姿を見れば察する人はいたはずだ。

だけど自分の口から【人を殺した】


それを言った時の皆の反応が恐い。


「………なんで、そんな事を聞くの?」

「言ったでしょ?今ガルム君の傷を治せるように頑張ってる所なの、

だから正直に答えてくれると嬉しいかな?」

「………僕は怪我してないって」

「体じゃないわ…………心が、傷ついてるでしょ?」


見てわかるほどに落ち込んでるのかな………。

だとしても、今日の事は話したくない。


これ以上ーー


傷つきたくない。



「言いたくない、それに村長に呼ばれてるんだ、だから離して………」


ヘンリーと時と同じだな。

何も言わないで抱え込んで、自分だけで解決しようとしてる。


心配をかけたくない、危険に巻き込みたくない。


それに、皆に今僕がしてる事を言って何になるのかと言う思いも、ある。

戦えるウィリアムさんには言った、だけどウィリアムさんは明日以降動けなくなるかもしれない、

ミオも動けるかも分からない。


(誰かを守り続けて戦う事は、今の僕には出来ない………むしろ………邪魔になる)


「私は殺したことがあるわ」

「え?」


エリザベスさんの急な言葉に頭が真っ白になる。

なんで急にそんな事を?

しかも優しいエリザベスさんが人を殺したという事が衝撃をさらに強くする。



「自分の両親、正確に言えば義理の両親を自分の意思で殺した。

それを聞いてガルム君は私を嫌いになる?」

「………ならないよ、だけどびっくりは、してるかな」


「ふぅ………良かった、これは2人だけの秘密ね?誰にも言った事なんてなかったの、家族にもね」


抱きしめられていた体を腕で押され、少し距離が出来る。

僕の肩に両手を置かれ、

下を向き大きな息を吐きだす彼女を見つめ続ける。


「どうして、それを僕に………」

「義両親を殺したことを後悔したことは一度もない、だけど………それを誰かに言うのが凄く怖い。

それを知った皆に拒絶されるかもしれない、関係が変わってしまうかもしれない。

それが凄く怖いの………」


肩に置かれた手が震えてるのが分かる。

そしてそれは僕と全く同じ悩みでもあった。


「どうして義両親を殺したのか聞いてもいい?」

「ただ利用され続けた、それだけよ………その話はまた今度ね?

今はガルム君が話す時なの!」


肩に置かれた手から震えは止まり、今度は力強く肩を掴まれる。

エリザベスさんの笑顔と覚悟を受けて、喋らないなんて事は僕にはできなかった。


「人を殺してきた、この村に近づこうとしてくる奴らを」

「人を殺してみて、どんなこと思った?」

「………別に何も、村を守れたって言う達成感以外はなかーー」

笑顔で僕の話を聞く彼女を見て言葉を止める。


「いや………少し楽しいって感じてた、と思う」

あの時感じた感情が本当に楽しさだったのか、違う感情なのか分からない。

だけど少しはそう思う自分がいるのも確かだ。


「人を殺して楽しいって思う事は嫌だった?」

「嫌ではない…かな、だけどウィリアムさんと話してズレみたいなのを感じてる。

多分それは他の皆と話してもそうだと思う。

魔族である僕は人とは分かり合えないんじゃないかって………それを考えるのは、辛い」


「私はガルム君は正しい事をしたと思うわ、あなたがした事にはちゃんと《意味》がある。

だけど意味なく誰かを傷つける、自分の利益だけを求めて相手を傷つける。

それは私は悪だと思ってるわ、ガルム君は違うでしょ?」


意味もなく人を傷つける………か。

両手を力強くにっぎりこむ。


(僕の中で意味はあった、だけどあれは………)

人を踏み潰した感覚が足に蘇る。


その事を口に出すことは、出来なかった。


「他にもあるでしょ?」

「ッ!どうしてそう思うの?」

「まだ苦しそうな顔をしてるもの」


………


「ヘンリーに………、ヘンリーと喧嘩しちゃって。

でももういいんだ、もう………」


精一杯の笑顔を作り、会話を終わらせる。

エリザベスさんのおかげで心が少し軽くなったのは本当だ。

だけど、それだけだ。


アストレアが帰って来るまでは安心なんて出来ない、

エリザベスさんが言うように、僕の行動が《意味》のあるものにするためには。

立ち止まる事が出来ない。




体が壊れてもーー


心が壊れてもーー


嫌われたとしてもーー




【ガルムの夢には、お前自身は入っていないんだな】


不意にアストレアに言われた言葉が蘇る。



(本当にその通りだな………僕自身を夢に入れる、か)



僕も笑顔になって、僕も自由に生きられる事………

それが出来たらどれほど良かったか。



もう嫌われることを恐れるな。


僕に必要なのは”許し”じゃない。



目を強く瞑り、肩に置かれた両手を払いのける。


「ガルム君………」

「もう行くよ」(ありがとう、エリザベスさん)


早歩きで階段を上る。

ミオの顔を一目見たかった。


「僕が人に戻れなくても………皆は奪わせないから」

魔族として生まれた僕だけが出来る事もあるはずだから。




部屋の扉を開けベットの上で眠るミオに近寄る。


「ミオがいないと、もうダメかもしれないわ………」

ミオの寝顔を見つめ心を奮い立たせる。



「よし!まずは風呂からだな」


静かに部屋を出て階段を下りる。


「………頑張ってね?」

「………」


まだ家にいるエリザベスさんの横を無言で通り抜け外に出る。


広場には村長だけが座っている。

焚火を見つめていた顔が僕を向く。


「どれだけ待たせるんじゃ!早う風呂に入って来い!」

「すぐに向かうからまってて」

「すぐ出なくていいから、体をちゃんと洗うんじゃぞ~」


その言葉を背に受け風呂小屋へと入る。


「村長ありがとう」


いつも通りに接してくれる村長に感謝を告げ服を脱ぐ。



◇ ◇ ◇

ガルム君が家を出て静寂だけが包み込んでくる。


「頑張ってね………か」


全てを背負おうとする彼に、送れる言葉がそれしか思いつかなかった。


「優しいあの子1人に背負わせて、応援をする事しか、傷を癒す事さえできない」


ガルム君を救おうとして、救われてるのは私の方だ。

私の過去を彼に話して、それで心を軽くしてる自分に嫌気がさす。


「アストレアちゃん………早く帰ってきて」


誰かにすがる事しかできない、子供の時から自分の意思を示さず流されて生きてきた事を今更ながらに後悔する。


(おそい、遅すぎるのよ………)


、私も魔族であれば………彼のように行動が出来たのだろうか。

いや、きっと出来ないだろう。


「はぁ」


旦那と息子が待つ家に帰るため扉を開けようとして、立ち止まる。

木の板に点々とできた黒いシミを見つめ、最後に見せたガルム君の顔がちらつく。


「………ガルム君、私は何があろうとあなたの味方であり続ける。

それが私に出来る唯一の事」


自分に言い聞かせるように呟き玄関の扉を開ける。


◇ ◇ ◇









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