ミオの強さ⑦
森と平原を交互に走り抜けているとミオから話かけられる。
「ガルム、一応報告」
「報告?」
「さっき逃げた3人の誰かは分からないんだけど、うちの攻撃を弾くやつがいたよ」
「……ミオよりつよいのか?」
「そこまでじゃないと思うけど、攻撃に反応できる奴なのは確かだね」
なら僕と同じかそれ以上って所か……。
正直に言えばそいつと戦ってみたい。
だけど遊びでやってるわけじゃない、
死ぬわけにもいかないしな。
「ミオ、またそいつが来ることがあれば頼めるか?」
「うん、任せて!」
ミオに頼もしさ感じていると森を抜け、
物見櫓の場所までたどり着く。
ミオが尻尾を使い見張り台にまで
一気に跳ね上がる。
「ミオ!追撃は来てないか?」
「……見たほうが早いかも」
その言葉に不穏な気配を感じ急いでハシゴを駆け上がる。
「勘弁してくれよ……」
夜の闇に不釣り合いな明るさに目を眇める。
たいまつの明かりが整然と並んでいた。
「何人いるんだよ…」
「まだ街から出てきてるけど、300くらいはいるんじゃない?」
クソ!
ウィリアムさん達にあの音の事を聞いておけば良かった。
流石にあの数は無理だ。
村の皆を避難させたほうがいいのか?
でもモース村まで来るとは限らない…。
モース村と街は距離もある、様子見してもーー
「な!」
「あいつらやばいかも!」
隊列から20人ほどが別々の方向に駆け出す。
驚いたのはそこじゃない。
「速すぎる…」
僕やミオと同じかそれ以上だ、
その速さで草原を走る姿に戦慄を覚える。
「偵察っぽいね…」
「……確か周りを探ってるって意味だったよな?」
ミオが頷き前を睨んでいる。
判断が遅れる。
それが致命的だと、嫌でも分かる。
(そんな事は後回しだ、
あいつらがどこまで来るか分からない、ミオに伝言を頼んで僕が足止めをするしかないか?)
歯を思い切り噛み締め考え続ける。
「うちに任せて、上手く出来るか分からないけど……やってみる」
「何をーー」
ミオが片手を前に出した瞬間空気が張り詰める。
ミオの足元に魔法陣に似た何かが現れ、
そこから光を放ちミオを包む込む。
「闇にあらず、光にあらず、
その狭間にて理を欺く。
五感を惑わし、魂を迷わせよ。
此処は既に、虚ろの帳。
目に映るすべてを虚へと還し、
認識を断ち、真実を喰らえ。」
【陰法・幻界覆転】
その声を合図に黒い影のようなものが体をすり抜け、その範囲を広げていく。
先ほど僕らが戦っていた場所にも影が広がり、
偵察の5人もその中に入り込む。
「止まった?」
モース村の方向に走っていた偵察の5人が急に後ろを振り向いたと思ったら、騒ぎ出して街の方へと戻って行く。
その出来事はこちらに来ていた偵察だけでなく、黒い影の内側に入った全員が同じ方向へと走り始める。
「何が起こってるんだよ…」
……違う、何かいる。
街の北東に黒くて分からないが人らしき無数の影がひしめいていた。
「ミオあれってーーえ?」
隣のミオに顔を向けるーー
歯を食いしばり苦しそうなミオが
そこにはいた。
「ミオ…………」
額に汗を浮かばせる姿を黙って見守る事しかできない。
クソ!
自分に激しく苛立つ。
僕の苛立ちなど関係なく物事は進んでいく。
ミオが出した影は街を包みこんだと同時に動きを止めた。
「ごめ、んガルム…………幻、だから、痛みは嘘、はぁ、だから…………我慢、して」
問いかける間もなく再びミオの体が光に包まれていく。
「刻まれし、傷は、うう!忘却にあらずーー
肉に、魂に、記憶に沈みし苦を呼び起こせ。
はぁ、過去、は終わらず、ッ!今ここに再び息づく。
逃れえぬ痛みよ、わが声に応えよ!!
【刻傷想起】!!」
刹那ーー
駆け巡るーー
「うわああああああああ!!!
やめろ!!!やめてくれぇぇ!!!」
僕の叫びだけじゃない。
無数の叫びが平原を埋めつくす。
痛い!やめろ!どこだ!苦しい!嫌だ!怖い!
身体的な痛みだけじゃない、
精神すら蝕んでくる!
涙があふれる。
分かる、これは…………この痛みは。
今まで僕が受けた全ての痛みだ。
食いしばる歯が小刻みにカチカチと音を鳴らす。
(無理だ、これは…………耐えられない)
絶叫の嵐が離れたこちらにまで届く。
自害したほうが楽なんじゃないか?
そんな考えが頭をよぎる。
「ぐうううううう!!」
口から涎が垂れ落ちる。
震える手で剣の柄を掴む。
カタカタと腰の剣から音が鳴る。
「はぁ!!!」
不意に痛みが消える。
頭が、回らない、何をすれば?
逃げる?えっと後は…………なんだっけ?
「ガルム、ごめん」
声の方へ顔を向ける。
ミオがいたーー
その体が不意に倒れるのを見つめーー
「ミオ!」
その姿に瞬間的に意識が覚醒し、ミオを抱き留める。
「大丈夫か!おい!」
「へへ、ちょっと無理しすぎた、頭痛い………割れる~」
「少し我慢してくれ、すぐに村に連れて帰るから!!」
「大声、やめ~」
「わ、わるい」
声を抑えミオを背中に背負う。
街の方を振り返るーー
松明は地面に落ち光が消えていた。
(今は祈るしか…………)
街から目を背け、梯子を急いで下りる。
「…………ミオ歩いた方がいいのか?それとも走ってもいいのか?」
「くう~、優しめで……」
どこかかみ合わない会話と思いながら早歩きで村へと急ぐ。
ついさっきの痛みが消えてくれない、
ミオの温もりがあるから持ち堪えてると言ってもいい。
もう、まともに眠れる気がしなかった。




