??歳・13
大府という都市は中央に富が集まっているらしく、山に近づくにつれて町並みは豪華になっていった。
傾斜が始まったあたりからその傾向は強くなり、角度がきつくなってきた山の間際においては、貴族の邸宅だとかいう煌びやかな屋敷が幾つも連なっている。朱色を基調としたそれら山際の建造物は、坂に沿って立体的かつ上に伸びる形で造られているため、和風の拵えでありながらもどこか異国めいた情緒を醸し出していた。
まるでテーマパークに迷い込んだような気分を味わいつつ、さらに目抜き通りを進む。
坂を上っていくと道は階段となり、やがては右に折れた。そこから進むとすぐに山の螺旋通路へと到達し、山をぐるりと回る形で道は上へ登っていく。
岸壁をくり貫く形の螺旋通路は、驚くほど整備されていた。坂の地面はもちろん、内側の壁や天井にさえも白い建材が敷き詰められており、土や岩はまったく見えない。馬車も毎日上り下りしているそうで、道は幅も高さも大きく、始点から終点まで広さは一定だった。
聞けば、螺旋型の通路そのものは元から存在していたらしく、人が掘ったのではないらしい。
こうした創造主の作為を感じる地形は、造化六花の世界には数多くあるようで、それらは概ね人間の営みに役立つような造形になっているのだとか。
それらも、たぶん明美の仕業なのだろう。アイツは物事を大きな視点から考えて、人々を意のままに動かすのが得意だった。世界創造とかいう事業に、そうした技能や経験も役に立っているのかもしれない。
螺旋の通路を登りきると、山の天辺へと辿り着いた。
下の平地との高低差は五百メートルほどといったところか。頂上の広さは東京ドームとかのスタジアムと同程度で、横からスパッと切り取られたかのごとく平らな地形となっている。
目の前の視界の大半を占めているのは、真っ白で巨大な立方体だ。滑らかな金属でできており、おそらくは私が目覚めた神殿と同様、創造主の手で造られたものだと思われる。
正面向かいには門があり、そこから中に入れるようだ。ずっと歩いてきた道は門――立方体内部へと続いているから、皇城というのはその先のスペースにあるのだろう。
立方体の周囲には木造の家屋がびっしりと並んでいる。どういう施設かはわからないが、どれも街の家屋と違って白く塗られており、装飾も少ない。メインの建造物に合わせ、景観を害さないようにしているのかもしれない。
巨大な立方体を土台として屹立しているのが、例のどでかい彫像だ。
始祖の像は長い薄布を雑に体に巻きつけてはいるが、ほぼ全裸で、手を軽く広げた包容力を感じるポーズをしている。全高はおよそ百五十メートルで、土台と同じく色は純白。足元を軽く見下ろしているので、真下から顔がはっきりと見える。
……私だ。思いっきり、像は私と同じ顔をしている。
美化も誇張もされておらず、色が無い以外は私そのものとしか言いようがない。
気づけば、先を歩く五人の兵士が土下座をしていた。
何事かと思って見ていたら、彼らは体を起こし、膝をついたまま真上を見上げ、両手を合わせた。……どうやら、像に向かって挨拶をしていたらしい。
彼らが立ち上がって先へ進んだので、止まっていた私たちも歩き出す。見ると、そこいら一帯の地面に白い木材が敷かれていた。膝をついても服が汚れないようにするための配慮だろうか。
その真ん中に辿り着いたところで、手前を歩いていたルミレイと守衛隊長が歩を止め、やはり土下座をしだす。
……なるほど。まったく教えられなかったが、ああして彫像に挨拶するルールがあるらしい。
まったく、大した信仰心だ。あんなちょっと美人なだけの普通の女に、あそこまで礼儀を尽くせるとは。
両脇の二人が額を地面にこすり付けている間、私はそうして複雑な気分のまま像を見上げていた。無論、自分の似姿に土下座などしない。
――レイ族の始祖への信仰心は、あの像ほどに大きいのだろうか?
私の中に、鉛のごとく重々しい責任感が徐々に芽生え始めていた。




