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明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第三部
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??歳・14

 彫像の土台の入り口に、ようやく辿り着いた。立派な朱色の門が拵えてあるが、あれは人が作った後付けのものだろう。


 門の数メートル手前には白い鳥居があり、私の前後を挟んでいた護衛たちがその横にずらりと並ぶ。これまで横にいた守衛隊長もその列に加わり、彼女らは揃って頭を私へと下げた。


「私たちの役目はここまでです。皇城の中にも兵士がおりますので、ご用命があるならば、以後はその者たちに命じてくださいませ」


「そうか。ここまで助かったよ、ありがとう」


 私のほうも、軽く会釈をする。

 ……が、丁重に扱われることに慣れ、それを当然と思い込み始めている自分に、ふと気づいた。


「……そういえば、守衛隊長の名前を聞いていなかったな。教えてくれ」


 彼女は驚いて頭を上げ、そしておずおずと答える。


「ラ……ライリュウ・セセナと申します」


「ええと、ライリュウが苗字で、セセナが名前?」


「そうです」


「なんかカッコイイ名前だな。覚えとくよ」


 セセナは目を潤ませ、再び頭を大きく下げた。


「こ、光栄の至りであります! 私のほうこそ、貴重な時間をありがとうございました!」


 たっぷり五秒ほどお辞儀の姿勢を維持し、セセナはバッと頭を上げる。「では、これにて!」と言い残して、彼女は部下とともに去っていった。


「あの者のほうこそ、今日のことを生涯忘れぬでしょうな」


 ルミレイがなぜか得意気に言った。そして二人して歩き出し、鳥居をくぐる。


 正面にある門が、門衛たちの手によって開かれていく。さて、あの先に皇城とやらがあるらしいが……。



 彫像の土台内部に足を踏み入れると、意外にも豪勢な和風の屋敷があった。

 基本的には私が目覚めた神殿と同じような空間が広がっているのだが、その内部にすっぽりと木造建築が収まっている。おそらく、屋敷は人間たちが後から別途建てたものなのだろう。


 入り口以外からは一切外の光が入ってこない造りだが、床、壁、天井が白く発光しているため、土台内部は非常に明るい。それを光源とするためか、屋敷の一階部分は大きく開け放たれており、ここからでも縁側の茶色い床板がよく見える。

 しかし三階建ての大きな建物なのだが、三階のみ壁でぴっちり覆われており、外からは中が伺えない。壁の装飾も少し豪華だし、帝とやらは三階にいるのだろうか。


「――あの屋敷が皇城ってことでいいのか?」


 門を通ったところで一旦立ち止まり、周囲の観察を終えたところで、私はルミレイに確認した。


「そのとおりでございます。百年ほど前の帝が建立した、なんとも罰当たりな建物なのですが……」


「罰当たり?」


「はい。元々ここは、始祖様に祈りを捧げるための祭祀場だったのです。それを帝めが己の住まいとするために独占し、あのような異物を拵えてしまった次第でして」


「じゃあ、やっぱりルミレイは帝が嫌いなのか」


「好きか嫌いかと問われれば、無論嫌いでございます。……とはいえ、帝の地位は巫女と同じく、始祖様による祝福あってのもの。ゆえに、個人的感情のみで帝を否定するわけにはいかぬのです」


「なるほど、そういう関係か」


 これまで彼女が帝の話をしようとしなかった理由が、ようやくわかった。

 しかしそうなると、帝は始祖への信仰心が薄い可能性がある。ここまでとんとん拍子に進んできたが、そろそろ障害にぶち当たることを覚悟したほうがいいかもしれない。


 門から屋敷までの距離はおよそ十数メートルであり、それを真っ赤な絨毯の道が繋いでいる。中東の品を思わせる敷物であり、あまり和風っぽくない。

 まあ、文化は明美がもたらしたものだから、色々ごっちゃになっていても別に不思議ではないのだが。


 そうした道の両端には、これまた赤い具足に身を包んだ兵士たちがぎっしりと並んでいる。

 一矢乱れぬ整列っぷりで、総勢二十人ほどの彼女らは、さっきから槍を構えたまま微動だにしない。常時こんな状態のわけがないから、これは私たちへの歓待なのだろう。あるいは威嚇かもしれないが。


「では、参りましょう」


 そう言って歩き出したルミレイに、私も続く。


 屋敷の入り口をくぐると、一段高くなった床板に老女が膝をついていた。


「ルミレイ様。ようこそ、おいでくださいました」


「我の面会要請は届いておるな?」


 慇懃な態度の相手に、ルミレイは間髪入れずに言葉を返した。


「はい。なんでも帝に重要案件についてのお話があるとか……」


「ならば、早く案内せい」


「お、お待ちください。その前に、お連れ様の素性の確認をさせていただけませぬか。巫女の仮面を被っておられるようですが、現在の巫女はルミレイ様ただお一人のはず。そのような正体不明の人物を、帝の前に通すわけにはいかぬのです」


「はぁ……面倒をかけよる。では、申し訳ありませぬがレイ様」


「わかった」


 私はすぐさま仮面を外した。

 目を見開き、声を失う老婆。その場には使用人や兵士っぽいレイ族も数人いたが、彼女らも全員が例外なく私を凝視し、固まっている。


「私の名はレイ。お前たちレイ族の始祖だ。千年の眠りから目が覚めたので、とりあえず帝とやらに会いに来た」


 今度は自分で自己紹介した。他人任せのほうが大物っぽいのかもしれないが、やっぱりそういうのは性に合わない。


 私が喋った直後、何人かが腰が砕けたようにしゃがみこんだ。中には、口を両手で抑えて涙を浮かべている者もいる。

 ……やはり、私の容姿は彼女らにとって劇薬らしい。


 そのまま十秒ほどが経過したが、誰もが言葉を失って硬直しており、出迎えた老女も同様だった。たまりかねたのか、ルミレイがパンと手を叩く。


「なにをもたもたしておるのじゃ! このお方が始祖様であると理解したならば、さっさと案内せよ! これ以上無礼を重ねるでない!」


「はっ……はいぃ!」


 老女は半ば奇声をあげて返事し、「で、ではまず、履物をお脱ぎにっ」と言って、私たちのブーツを指し示してきた。どうやら、ここから先は土足厳禁らしい。


 私は仮面を装着しなおし、動き出した従者たちに靴を脱がせるのを任せた。

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