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明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第三部
98/174

??歳・12

 ルミレイと守衛隊長に横から挟まれる形で歩き、帝がいるという中央の山へと向かう。


 街は人で賑わっているが、私たちの周囲には誰も近寄ってこない。というのも、少し離れた前後に五人ずつの兵士が並んで歩いており、周りに睨みを利かせているためだ。

 巫女の仮面をつけた人間が二人いることもあって、通行人たちからは相当な注目を集めており、ちょっとした大名行列のようになってしまっている。すれ違う人全員にじろじろ見られるのはあまり居心地が良くないが、しばし我慢するしかないだろう。


 出発した直後は、隊長に始祖への信仰などの話をあらためて聞かせてもらった。ルミレイの語りには偏見や思い込みが混ざってそうだったし、別の形で一般常識を確認したかったからだ。

 が、意外にも二人の説明にはほとんど違いがなく、ルミレイから仕入れた知識が正しかったことが証明される形となる。


 ただ、さすがにすべてのレイ族が始祖を信奉しているわけではないらしい。隊長の話によると、始祖を信じないと公言する地方領主もいるとのこと。

 そうした人間に私の顔を見せたらどう反応するのか、実に興味深い。隊長のように泣いて感動するのか、あるいは信仰心がないからまったく動じないのか……さて、どちらだろう。

 始祖のオーラとやらの実体を把握するためにも、いつかはそういう実験をやってみたいものだ。


 ――とはいえ、レイ族の美醜の判断基準なら、ある程度はここで測ることができる。


「じゃあ、次。団子屋で座ってお茶飲んでる人は?」


「いまいちでございます。目元は悪くありませぬが」


「中の下、といったところです。ルミレイ様の言うとおり、目はいいんですけどねぇ」


 私が口頭で示した人物がどれだけ美人かを、連れの二人が答える――という問答を、私たちは道を歩きながら実行していた。

 やや趣味の悪い行いだが、レイ族との感覚のズレを早いとこ認識したいし、まあ仕方ない。


 石畳の道が木製の赤い橋に差し掛かり、足音が変わった。

 水源が近くにあるのか、この街には水路が多い。柳の木が並んで植えられているし、それに沿った道を散歩している人もたくさん見かける。

 余裕ができたら、思うままに街を探検しても面白いかもしれない。


 橋の端に、こちらを見て立ち止まっている太った女を見つけた。鮮やかな着物やかんざしをつけていて、荷物持ちのような連れもいることから、察するにかなりの金持ちだろう。


「左の端、太い女」


「贅肉がよろしくありませぬ。醜い。しかし顔はそこそこかと」


「痩せたら美人かなぁ。それを加味して、中の下としましょう」


「じゃあ、隣の荷物持ち」


「割と美人と言えまする。しかし姿勢が悪いし、表情も間が抜けている。髪が変に短いのも減点対象でございます」


「私としては、中の上といったところです。美人が否かは、やはり顔だけでなく体型や佇まいも関わってきますからね。あの娘は顔はいいですが、全体の骨格がいまいちに思えます」


 骨格がいまいちと言われても、荷物持ちの女に特に変なところはない。私と比べると猫背気味で、内股っぽい感じではあるが……。


 橋を渡り終え、比較に良さそうな顔を探す。

 すると、こちらに気づいて店の脇へと寄ったメガネの女がいた。フレームがまん丸のいかにも古臭いメガネだが、そうしたものが作られる程度の技術はあるらしい。

 が、じっと見ていて気づいた。そのメガネの女、かなり私と顔が違う。

 明らかに垂れ目だし、唇はぽってりしてるし、こちらを見ている目――瞳もなんか青っぽい。そして細身ではあるもの、おっぱいがでかい。

 普通に美人だし、エロい体型だし、私がいた世界だったら確実に私よりモテるだろう。


「布売ってる店の脇、メガネの女」


 私が指定すると、ルミレイと守衛隊長は揃って酷評を下した。


「うげぇ……あれは酷い。とんでもない醜女にございます。我が見た人間の中でも一、二を争う醜さかもしれませぬ。顔はぐちゃぐちゃに崩れておりますし、太ってもいないのに乳が膨れているのも気持ちが悪い。……なんとまあ、哀れな」


「確かに、見ていて吐き気を催すような顔と体です。あの娘の人生は、生きづらいでしょうなぁ……」


 ……マジか。

 私基準だと相当な美人なのに、こいつら基準だと超絶ブサイクに見えるらしい。


 なるほど、なんとなくわかってきた。薄っすらと気づいていたことだが……。


「もしかしてさ、私に近いほど美人で、私からかけ離れてるほど醜いってこと?」


「――よくわかりませぬが、他に美醜の基準がございましょうか? 我らにとって、尊き始祖様のお顔こそがもっとも美しいものであり、それは幼子でさえも持つ、根源的な感覚なのですが」


「……やっぱりそうなのか」


 私に近けりゃ近いほど美しい――という法則が、レイ族にはあるようだ。

 そりゃまあ、だったら基準である私は完全無欠の美人になるわな。


 ……まったく、明美め。変な世界を作りやがって。

 自分に都合が良すぎて、喜んでいいのか、白けるべきなのか、よくわからん。ちやほやされるのは気分いいけど、私以外の人間が催眠術にでもかかってるみたいで、少し気持ちが悪い。



 ともあれ、レイ族独特の美的価値観は理解できたので、以降は趣味の悪い美人判定はせずに歩を進めた。

 店先の商品や大府の名所などの説明を聞きつつ、私は山の上の城を目指して歩き続ける。

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