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明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第三部
96/174

??歳・10

 村を出てから二時間半ほどで、大府という都に到着した。


 想定より時間がかからなかったのは、一度も休憩を挟まなかったのと、馬をかなりの速度で走らせたからだろう。そのせいでルミレイの乗る黒い馬はしょっちゅう息を切らし、後半はそのためにペースを落とさざるを得ないほどだったが。


 一方で、私の馬はなぜか全力疾走の直後でさえも呼吸を乱さず、そのあたりはルミレイも驚いていた。始祖の祝福とかなんとか言っていたが……まあ、すごい馬を運よく選べたということなのだろう。


 ともかく馬のことはいい。それより重要なのは、目の前に広がる大都市だ。



 今、私の眼下には四方をなだらかな山に囲まれた盆地がある。

 これだけなら地球の日本でもよくある地形なのだが、宇宙人と明美が作った世界の主要都市であるだけに、やはり一筋縄ではいかない。


 盆地中央の地面は急激に盛り上がっており、ロケットのような形の山が堂々と聳え立っていた。私の神殿があった山に似て、その表面にはネジを思わせる溝がぐるりと走っている。しかし、こちらは地面に近づくにつれて裾が広がっており、ゆえに盆地は中央の山に近づくにつれて傾斜となっていた。


 また、盆地の左側にはでかい亀裂が走っており、急峻な谷の様相を呈している。あんなのも地球の都市じゃそうそう見られないだろう。逆に言えば、こうした変な場所が国の首都として栄えるほどに、まともに住める土地が少ないのかもしれないが。


 文明レベルは中世相当というだけあり、高層建築は見られない。しかし周囲の山裾から盆地、盆地から中央の山のふもとまでは、びっしりと建物がひしめき合っている。道を歩く人や馬車も多く見られるし、人口はかなり多そうだ。

 中央からは一定間隔で放射状に大きい道が通っており、計画的に建設された都市だということがわかる。もしかすると、土台は明美が用意したのかもしれない。


 都市の中央部は華やかな朱色で彩られているが、一方で外縁部は色あせ、建物もごちゃごちゃしている。でかい街だから貧困層が存在し、そうした人間が住まうスラムがあるのだろう。外延部や谷の周辺あたりには、上から見ると明らかにアンダーグラウンドな空気が漂っていた。


 人の手は中央の山にも及んでおり、山を螺旋のように回る溝からは煌びやかな垂れ幕が無数に垂れ下がっている。ところどころに柱が挟まっているのも見えるし、あれらの道もきっちり整備されていると思われる。


 大府でもっとも目を引くのは、なんと言っても山の上に聳え立つ巨大な像だ。薄布をまとった半裸の女で、柔らかに直立したうえで眼下の都市を見下ろしており、まるで守護神のような佇まいをしている。

 顔は遠くてよく見えないが……たぶんアレ、私だな。

 体型や髪がまんま私だし、神殿にもあんな感じの像があったし、始祖以外に神はいないって話だし(邪神明美は除く)。

 神殿にあったものと似てるから、おそらくあの像は人間が建てたものではないのだろう。となると、明美が世界創造時に作ったのだろうが……まったく、趣味の悪いことをしてくれる。



「いかがでございますか? 我らレイ族の最大都市、大府は」


 じっくりと眼下の大都市や自分っぽい像を眺めている私に、馬上のルミレイは得意気に尋ねてきた。


「……けっこうすごいな。規模がでかくて、広がりかたに歴史も感じる。全体的に赤いのも、鮮やかでかっこいいし」


「レイ様にそう言っていただければ、歴代の帝や民も報われる思いでしょう。ま、所詮は人の身が作った家屋敷の集合体であり、神力で生み出された山上の像、そして我らの社などの壮麗さには到底敵いませぬが」


 どうでもいいマウントはさておき、私は私似の巨像を凝視しつつ、気になっていることを尋ねた。


「……あらためて聞くけど、やっぱり始祖ってのはレイ族の信仰対象なのか?」


「無論です。すべてのレイ族が、あなた様を心の髄より崇拝しております。その慈愛は我らを生涯包み込み、死後は皆、魂となって始祖様の御許に赴くと信じられてきましたから」


「………………」


「ゆえにレイ様は長らく、伝承に謡われるのみの存在でした。――が、しかし! いまや我れの偉大なる始祖は、こうしてご降臨なされた! その事実を知れば、全レイ族は歓喜に涙し、この時代に生まれた我が身の幸運さに打ち震えることでしょう!」


 ……なんとも言えない。

 当然、私は会ったこともない人間に慈愛など抱かないし、魂云々も寝耳に水だ。現状、ルミレイの言っている信仰内容は、完全なでたらめだと断定せざるを得ない。


 ……とはいえ、それを馬鹿正直に言ったら、間違いなくルミレイは傷つく。

 熱の入った語りから察するに、他のレイ族にもそれなりの失望感を与えるだろう。やはり当面は嘘をついてでも、人々には始祖として振舞うべきかもしれない。


「……えっとさ、魂ってのは目に見えたりするもんなの?」


「いえ、少なくとも我ら尋常の人間には感知できませぬ。神たるレイ様のみが掌握し、その流転を司ると言われておりますが……」


 気になったのか、ルミレイはこちらをじっと見てきた。今の私にそうした能力が無い場合、死者の魂が始祖に戻るとかいう話に、矛盾が出てくるからだろう。


 私はざっと考え、どうにかそれっぽい言い訳をひねり出した。


「もしかすると……魂の操作は私本人じゃなく、私が残した神力? が担当しているのかもしれない。寝てる間は意識がないわけだし、だから眠る直前にそうした仕組みを残したのかも」


「な、なるほど! そういうことでしたか! ならばレイ様ご本人を煩わせずとも、我らの魂はあなた様の元へ還れるのですね!」


 よほど納得したらしく、ルミレイはぶんぶんと何度も頷いている。……ああ、いつかボロが出なきゃいいが。


「――で、大府に着いたわけだけど、これからどうするんだ?」


 私は話を元に戻した。ルミレイは興奮を抑え、咳払いをして答える。


「やはり、まずは帝の元に赴くべきでしょう。始祖様が復活なされたという重大事を、国の為政者に伝えないわけにはいきませぬゆえ」


「そうか。でも権力を移譲させるとか、そういうのはさせなくていいぞ。私の最優先事項は黒の御柱って場所に行くことであり、政治をやってる暇はないんだ」


「……さようでございますか。では、当分の間は帝に民の統治を任せる――という形で、よろしいですね?」


「うん? んー、まあ」


 先のことはわからないものの、とりあえず適当に返事をした。

 どうも帝ってのが独裁をしてるようだが、そいつが有能なら、今後も政治全般を任せて問題ないだろう。無能だったら……まあ、そのときはそのときで考えるとするか。


「承知しました。では、当面は穏便に進めるといたしましょう。なので手続き等を逐一挟むことになりますが……ご容赦くださいませ」


「了解。ぜんぶ任せる」


 ルミレイは恭しく頷いた。


「今後の流れですが、まず馬を預け、警邏隊本部に赴いて護衛をつけ、そうして皇城へと向かいます。我が巫女として面会を申し出ますので、帝が留守でなければすぐに話ができるでしょう。ちなみに――帝とはレイ様ご本人がお話しなさいますか? 我が代理として事情を説明しても構いませぬが」


「んー……」


 少し悩んだ。ルミレイに任せたら事態が変な方向に行きそうだが、かといって自分では説明しきれないかもしれない。

 ま、これも勢いでどうにかしてみるか。最悪、帝とか政治とかは全部放り出して塔に向かえばいいんだし。


「わかった、私が話してみよう。援護は任せるかもしれないが」


「御意にございます。それまでの些事は一切お任せくださいませ。では、いざ参ると致しましょう」


 ルミレイが馬を進ませたので、私もそれに続く。


 ……帝との面会か。無事に済めばいいが、さて、どうなることやら。

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