表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第三部
93/174

??歳・7

 村の広場には、山にある集落とは思えないほど大勢が集まっていた。

 そして誰もが、道を歩いてくる私たちに手を振ったり、歓声を上げたりしている。巫女はよほどの人気者らしい。


 笛や打楽器による音楽の演奏も始まって、もはや祭りの様相を呈してきている。いい雰囲気ではあるが……さて、私はどう振舞うべきか。

 「適当に巫女として振舞ってもられば」とルミレイは言っていたものの、村人の顰蹙を買うマネはしたくない。巫女ってのをよく理解していない以上、無難に無口を貫くのが一番とは思うが……。


 ――が、そうした逡巡は、広場に辿り着いたときに粉々になって消えた。



(…………マジかよ)


 私は仮面の下で、ひたすらに唖然としていた。

 子供、大人、老人と、広場には大勢の村人がいたのだが、そのすべてが私と同じ顔だったのである。


 年齢や髪型、体型の差はある。左頬に、妙な模様が描かれてもいる。

 だが、それでも顔の造形は皆一緒だし、聞こえてくる歓声の声も同じだ。全員が全員、私のクローンとしか思えなかった。


「お……おい、ルミレイ」


 たまらず、隣を歩くルミレイに問いかける。


「なんでしょう?」


「お前、私に似てるのは自分だけって言ったじゃないか」


「ええ、申しましたが……それがいかがされました?」


「村人全員、私そっくりなんだが。話が違うぞ」


 ルミレイは辺りを見回し、村人たちの顔を確認した。


「ええと……我にはどれも別人に見えますが……」


「……マジで?」


 ――いや、確かに間近から村人と村人を比べると、多少の顔の違いがある気はする。

 けど、本当に微々たる差だ。私には双子の孫がいたが、あの子らくらいの違いしかない。


 ひたすらに戸惑っていると、小学校低学年ほどの子供が三人、こちらに駆け寄ってきた。当然、その子らも私の少女時代そのまんまの姿をしている。


「巫女さまー! 巫女さまー!」

「ねぇ、なんで二人なの?」

「ルミレイ様じゃないほうは誰? 新しいやつ?」


 足を止め、ルミレイは勢いよく子供らの方を向いた。


「おぬしら、無礼ぞ! このお方は、我よりも遥かに尊き貴人にあらせられる! 不躾な口を利くことは、断じて許さぬ!」


 かなりの怒声だったが、子供たちの反応は「ふーん」、「へぇー」などと、極めて薄い。

 ……さてはこいつ、全然尊敬されてないな。また話が違う。


「ああ、申し訳ありません、ルミレイ様。ウチの子が無礼を……」


 大人の女が出てきて、子供の一人を抱き寄せる。ふくよかで、着物からは乳がはみ出ているが、しかし顔はやはり私だ。歳は三十前後くらいか。

 すると、今度は別の人間がこちらに寄ってきた。腰は九十度近くひん曲がってて、白髪で、肌は皺くちゃで、けれど私そっくりの老女が。


「もう一人の巫女様は、本当にどなたなのです? 先代は去年、亡くなられたはずでは……」


「残念だが、今は明かせぬ。このお方が、それを望んでおられるのでな」


 老人の問いかけに、ルミレイはピシャリと答えを返した。そして私に顔を近づけると、小声でさっきの話を再開する。


「……始祖様は、この者たちとご自分が同じ顔に見えると仰るのですか?」


「多少の違いはあるようだが……まあ、だいたい」


「では、我は? 我も、この者たちと同類に見えると?」


 私はしばし悩んだ。そう言われると、ルミレイほどに村人たちは私に似ていない。


「いや、似てる度合いなら、ルミレイがダントツだよ。それは間違いない」


「さ……さようでございますか」


 ルミレイは胸を押さえ、ホッと息をつく。


 ――そうだった。この娘は、私と似ている事実に誇りや喜びを持っているのだった。

 なら、自分が大勢の村人たちと同格とは、認めたくないだろう。今の私にルミレイは必要な存在だから、もう少しそのあたりをケアしてあげるべきかもしれない。


 五秒ほど考え、いいアイデアが生まれたので即座にそれを実行に移す。


「ところでルミレイ、お前は私の名前を知ってるのか?」


「無論でございます。恐れ多くて口にはしづらいのですが――レイ様、であらせられるはず」


「そのとおり。じゃあ、今後はお前だけにその名前で呼ぶことを許す。人前で始祖様とか呼ばれたら、騒ぎになりそうだからな」


 ルミレイは息を呑んだ。


「わ、私だけがお名前を? よろしいので?」


「二度言わせるな」


 うーん、偉そうなふりがうまくなってきた。なんだかんだで、持ち上げられて気分がいいのかもしれない。


 体を震わせ、ルミレイはガッツポーズを作って固まっている。思ったとおり、彼女の優越感を刺激できたらしい。


「で、では、これからはお名前で呼びかけさせていただきます! その……レ、レ、レイ様!」


 私は若干ぎこちない笑みを浮かべ、頷いた。


「これからも頼むぞ、ルミレイ。私の巫女」


「はっ、はい!」


 ルミレイは喜び一杯といった声で返事をする。仮面の下では、頬がゆるっゆるに緩んでいるに違いない。


 と、気づけば子供たちが近くにいた。


「ねー、その人レレレイ様っていうの?」

「変な名前ー!」

「きゃはははは!」


 またルミレイは体を震わせた。今度は喜びじゃなく、怒りによって。


「こんの餓鬼どもっ! 無礼を働くなと、何度言ったらわかるのじゃ! このお方と、そして我に、もっと敬意を払わんか!」


 溢れんばかりの怒気だが、子供たちは笑いながら逃げていった。

 ……これはもう、元から舐められまくってるな。おそらく、以前にルミレイがなんかやらかしたのだろう。本人は気づいてないようだが。


 ルミレイは溜め息を吐き、そして気を取り直してこちらを向く。


「民の度重なる無礼、まことに申し訳ありませぬ、し……レイ様。とはいえ、なにぶん子供の致したこと。大目に見ていただけると助かるのですが……」


 お、子供をかばう度量はあるらしい。私の中のルミレイ評が少し上向いた。


「いいさ。それより、用を先に済ませよう。村人の歓迎はありがたいが、私は大府とやらに行かなきゃならないんだ」


「承知いたしました。では、顔役の家へともに参りましょう。すぐ済ませますので、そちらでお待ちくださいまし」


 そうして人々が注目する中、私とルミレイは坂の上の大きい家を目指して歩き出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ