??歳・7
村の広場には、山にある集落とは思えないほど大勢が集まっていた。
そして誰もが、道を歩いてくる私たちに手を振ったり、歓声を上げたりしている。巫女はよほどの人気者らしい。
笛や打楽器による音楽の演奏も始まって、もはや祭りの様相を呈してきている。いい雰囲気ではあるが……さて、私はどう振舞うべきか。
「適当に巫女として振舞ってもられば」とルミレイは言っていたものの、村人の顰蹙を買うマネはしたくない。巫女ってのをよく理解していない以上、無難に無口を貫くのが一番とは思うが……。
――が、そうした逡巡は、広場に辿り着いたときに粉々になって消えた。
(…………マジかよ)
私は仮面の下で、ひたすらに唖然としていた。
子供、大人、老人と、広場には大勢の村人がいたのだが、そのすべてが私と同じ顔だったのである。
年齢や髪型、体型の差はある。左頬に、妙な模様が描かれてもいる。
だが、それでも顔の造形は皆一緒だし、聞こえてくる歓声の声も同じだ。全員が全員、私のクローンとしか思えなかった。
「お……おい、ルミレイ」
たまらず、隣を歩くルミレイに問いかける。
「なんでしょう?」
「お前、私に似てるのは自分だけって言ったじゃないか」
「ええ、申しましたが……それがいかがされました?」
「村人全員、私そっくりなんだが。話が違うぞ」
ルミレイは辺りを見回し、村人たちの顔を確認した。
「ええと……我にはどれも別人に見えますが……」
「……マジで?」
――いや、確かに間近から村人と村人を比べると、多少の顔の違いがある気はする。
けど、本当に微々たる差だ。私には双子の孫がいたが、あの子らくらいの違いしかない。
ひたすらに戸惑っていると、小学校低学年ほどの子供が三人、こちらに駆け寄ってきた。当然、その子らも私の少女時代そのまんまの姿をしている。
「巫女さまー! 巫女さまー!」
「ねぇ、なんで二人なの?」
「ルミレイ様じゃないほうは誰? 新しいやつ?」
足を止め、ルミレイは勢いよく子供らの方を向いた。
「おぬしら、無礼ぞ! このお方は、我よりも遥かに尊き貴人にあらせられる! 不躾な口を利くことは、断じて許さぬ!」
かなりの怒声だったが、子供たちの反応は「ふーん」、「へぇー」などと、極めて薄い。
……さてはこいつ、全然尊敬されてないな。また話が違う。
「ああ、申し訳ありません、ルミレイ様。ウチの子が無礼を……」
大人の女が出てきて、子供の一人を抱き寄せる。ふくよかで、着物からは乳がはみ出ているが、しかし顔はやはり私だ。歳は三十前後くらいか。
すると、今度は別の人間がこちらに寄ってきた。腰は九十度近くひん曲がってて、白髪で、肌は皺くちゃで、けれど私そっくりの老女が。
「もう一人の巫女様は、本当にどなたなのです? 先代は去年、亡くなられたはずでは……」
「残念だが、今は明かせぬ。このお方が、それを望んでおられるのでな」
老人の問いかけに、ルミレイはピシャリと答えを返した。そして私に顔を近づけると、小声でさっきの話を再開する。
「……始祖様は、この者たちとご自分が同じ顔に見えると仰るのですか?」
「多少の違いはあるようだが……まあ、だいたい」
「では、我は? 我も、この者たちと同類に見えると?」
私はしばし悩んだ。そう言われると、ルミレイほどに村人たちは私に似ていない。
「いや、似てる度合いなら、ルミレイがダントツだよ。それは間違いない」
「さ……さようでございますか」
ルミレイは胸を押さえ、ホッと息をつく。
――そうだった。この娘は、私と似ている事実に誇りや喜びを持っているのだった。
なら、自分が大勢の村人たちと同格とは、認めたくないだろう。今の私にルミレイは必要な存在だから、もう少しそのあたりをケアしてあげるべきかもしれない。
五秒ほど考え、いいアイデアが生まれたので即座にそれを実行に移す。
「ところでルミレイ、お前は私の名前を知ってるのか?」
「無論でございます。恐れ多くて口にはしづらいのですが――レイ様、であらせられるはず」
「そのとおり。じゃあ、今後はお前だけにその名前で呼ぶことを許す。人前で始祖様とか呼ばれたら、騒ぎになりそうだからな」
ルミレイは息を呑んだ。
「わ、私だけがお名前を? よろしいので?」
「二度言わせるな」
うーん、偉そうなふりがうまくなってきた。なんだかんだで、持ち上げられて気分がいいのかもしれない。
体を震わせ、ルミレイはガッツポーズを作って固まっている。思ったとおり、彼女の優越感を刺激できたらしい。
「で、では、これからはお名前で呼びかけさせていただきます! その……レ、レ、レイ様!」
私は若干ぎこちない笑みを浮かべ、頷いた。
「これからも頼むぞ、ルミレイ。私の巫女」
「はっ、はい!」
ルミレイは喜び一杯といった声で返事をする。仮面の下では、頬がゆるっゆるに緩んでいるに違いない。
と、気づけば子供たちが近くにいた。
「ねー、その人レレレイ様っていうの?」
「変な名前ー!」
「きゃはははは!」
またルミレイは体を震わせた。今度は喜びじゃなく、怒りによって。
「こんの餓鬼どもっ! 無礼を働くなと、何度言ったらわかるのじゃ! このお方と、そして我に、もっと敬意を払わんか!」
溢れんばかりの怒気だが、子供たちは笑いながら逃げていった。
……これはもう、元から舐められまくってるな。おそらく、以前にルミレイがなんかやらかしたのだろう。本人は気づいてないようだが。
ルミレイは溜め息を吐き、そして気を取り直してこちらを向く。
「民の度重なる無礼、まことに申し訳ありませぬ、し……レイ様。とはいえ、なにぶん子供の致したこと。大目に見ていただけると助かるのですが……」
お、子供をかばう度量はあるらしい。私の中のルミレイ評が少し上向いた。
「いいさ。それより、用を先に済ませよう。村人の歓迎はありがたいが、私は大府とやらに行かなきゃならないんだ」
「承知いたしました。では、顔役の家へともに参りましょう。すぐ済ませますので、そちらでお待ちくださいまし」
そうして人々が注目する中、私とルミレイは坂の上の大きい家を目指して歩き出す。




