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明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第三部
92/174

??歳・6

 私たちがいた神殿は、山の真上にどでかい金属の塊を乗せるような形で存在していたらしい。

 その中をくり貫くように通路や階段があり、それらを抜けてようやく土がむき出しのエリアに出た。そこが神殿の入り口なのだが、すぐ手前には明らかにはるか上の文明レベルで作られた門があり、戦闘ロボットのような彫像さえ置かれていた。

 が、ルミレイによると、無断侵入者はそれらの彫像が動き出して排除するとのことで、つまりはガチのロボットらしい。


 そういえば、私が寝てた大広間にも、あの彫像がいっぱいあった。

 おそらくは明美の采配なのだろうが……ずっと私は厳重に守られていたのかもしれない。


 周囲の山々同様、この山にも螺旋のような段というか溝があった。道とするためにあるような構造なので、私たちはそれを通り、山の外周を回る形で下へと降りていく。



 道中では、まず世界の地形についてルミレイに教えてもらった。


 このあたりは山地の上層に位置し、特に標高の高い地帯らしい。が、大陸全体を通して平地は少なく、起伏が多くて山や谷ばかりなのだとか。

 じゃあ数少ない平地に人が住んでいるのかと思ったら、そうではなかった。なんでも、夜になると低地では冷気の嵐が吹き荒れるとかで、そうした場所で暮らすのはほぼ不可能らしい。

 平たい土地のほとんどは低地にあるため、自然、人々はある程度以上の高地――つまり山々に居を構えるしかないとのこと。


 造化六花の世界は雪の結晶の形をしており、つまりは六つの直線部分に分けられる。このうちの『下』と『左下』は、ほとんどが低地だそうで、ゆえに人が住むことはできない。

 残る部分をレイ族とアケミ族が取り合ってきたらしいが、今現在、レイ族は『上』全部と『左上』の一部のみを有するに留まっている。他は『中央』も含めてアケミ族が占有しており、千年の歴史の中でもかなり劣勢に陥っているようだ。


「この苦難の時代、レイ族はアケミ族にさんざん煮え湯を飲まされてまいりました。が、それも昨日までのこと! 始祖様が復活なされたからには、もう連中の天下は終わったも同然! なので始祖様、どうか我らを導き、悪魔どもを駆逐なさってくださいまし!」


「んー……、まあ、やれたらやるわ」


 ルミレイは鼻息荒く語るが、悪いがさっぱりやる気が出ない。


  いや、彼女らが困っているなら、できる範囲で手は貸してやりたいと思う。けど、王とか神みたいに導くってのが、ちょっときつい。

 私は遊撃兵みたいな立ち位置でこそ活躍できる人間だから、リーダーなんて全然向いてないのだ。組織運営の経験だって、ほとんどないし。明美ならめちゃくちゃ得意なんだろうが……。



 そんな話をしながらも、私たちは山のだいぶ低いところまできた。

 山は竹の子のごとく大地から生えており、なので降りきった部分からはしばらく緩い傾斜が続くようだ。


 そしてこれまでも崖際から見えてたが、山のふもとには村があった。

 神殿とその周辺はSFチックな構造物が多かったためにピンとこなかったが、やはり文明レベルは中世並らしい。村には時代劇で見るような藁束屋根の家が並んでおり、傾斜の段々には田んぼが幾層も広がっている。


 村まではまだ数百メートルあるが、人々の姿が小さいながらも見える。広場っぽいとこで動いているのは、子供たちだろうか。田んぼのほうにもけっこういるし、家の数も多いから、軽く百人、二百人ほどは住んでいそうだ。


 馬がいるとのことだが、それっぽい生き物は見当たらない。おそらくは厩舎の中にいるのだろう。

 ――とか思ってたら、動物小屋っぽい匂いがそよ風に乗って漂ってきた。うーん、香ばしい。


「ああ、嫌じゃ嫌じゃ。下賎の匂いがいたしまする。始祖様、今しばらく我慢してくださいませ。我もどうにか耐えますゆえ」


 ルミレイは仮面の下に手を入れている。おそらく、鼻をつまんでいるのだろう。

 しかし……出会ったときにも思ったけど、ずいぶん偉そうだな、こいつ。


「なあ、巫女ってのはそんなに高い身分なのか? 俗世から離れて暮らしてるようだが」


「――確かに、財や権力の類いはいささかも有してはおりませぬ。しかし巫女には、始祖様の褥を生涯をかけて守護するという、帝さえも及ばぬ重大な責務がございます。ゆえに、権力はなくとも、権威はあるのです」


 ぐっと拳を握り、ルミレイは高らかに声をあげた。


「そして今、悠久の時を経て始祖様が復活なされました! こうなった以上、巫女の役目はさらに重々しく、さらに尊ばれるものとなるでしょう! つまり、我はあなた様に次いでこの世で二番目に偉いと言っても、過言ではないのですっ!」


 それは過言じゃないかな……。

 自分に自信があるのか、私を信望しているのかは知らんが、よくもまあ、この世で二番目に偉いとか言えるもんだ。一周回って、大したもんだとさえ思う。


 とはいえ、目下の相手に偉ぶる人間は好きじゃない。ずっと私に仕えるつもりみたいだけど、そのあたりが目に余るようなら、いつかは別れることになるだろう。


 そんなこちらの冷たい視線に気づかず、ルミレイは上機嫌でスキップしながら坂を降りていく。

 ……まったく、顔も声も私と同じだというのに、性格はずいぶんかけ離れている。私の遺伝子から創られたんだろうが、それならもっと、ルウくらいには似てほしいものだ。


(……ん? 待てよ)


 ――ふと気づいた。

 もしかして、レイ族って全部、私のクローンなんじゃないか? で、アケミ族は明美のクローン。

 私たちを元にして生み出されたのなら、その可能性は十分ありえるはず。


 唐突に思いついた疑念を解消すべく、すぐさまルミレイに尋ねてみた。


「あのさ、レイ族ってのは私から生まれた種族なんだよな?」


「無論でございます。あなた様は我らすべての母であり、神。覚えておられないようですが、その尊き玉体が古のレイ族を産み落とされたのです」


「ってことは、もしかして皆が皆、私に似てる? ルミレイみたいに」


 すると、ルミレイは足を止めてぎゅっと縮こまった。


「に……似てらっしゃいますか? 我は、あなた様に」


「どっからどう見ても、瓜二つだろ。声も顔もそっくり」


 ルミレイは「て、照れまする……!」とか言って体をくねらせた。

 ……どうやら、私に似ているという事実は、彼女にとって褒め言葉らしい。


 複雑な気持ちで見つめていると、ルミレイはハッとして咳払いをした。


「ご、ごほん、失礼しました。ええと……レイ族があなた様に似ているか、というご質問でしたね。――答えは『否』です。我は選びぬかれた巫女ゆえに始祖様に酷似しておりますが、これは例外中の例外。大多数のレイ族は、あなた様の美しさには遠く及びませぬ。似ても似つかぬ、と言って差しつかえないでしょう。無論、不細工極まりないアケミ族よりかは、はるかに近しいですが」


「ふむ……そうなのか」


 どうやらルミレイが特別私に似ているだけで、他のレイ族は普通に違う顔らしい。

 推測が外れた形だが、私はホッとしていた。本当にレイ族すべてが私のクローンだったら、これから出会う人間の多くが自分の顔ってことになってしまうからだ。


 ――気づいたが、なんか眼下の村人たちが走って中央の広場に集まってきている。こちらを指差しているようにも見えるし、どうも私たちを出迎えるつもりらしい。


「もうじき、村へ到着いたします。が、我は神殿を留守にするゆえ、村の顔役に少々話を通さねばなりませぬ。なので恐縮でありますが、五分ほどお待ちしていただいてよろしいでしょうか?」


「わかった。村人たちとお喋りでもして待ってるよ」


 ルミレイの申し出に快諾を返し、そうして私は村へと足を踏み入れていった。

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