??歳・4
自動で開いた出入り口から、部屋を出る。すると、待機していたルミレイがすぐさま詰め寄ってきた。
「し、始祖様。中でなにがあったのです? 力や記憶は、お戻りになられたのでしょうか?」
「ええと……そうだな、思い出せることはあった」
明美については話さないほうがいいかもしれない。この娘にとっては邪神らしいし。
「造化六花っていうんだっけ? この世界は」
「おお! そのとおりでございます! 世界創世において、あなた様から尊い名を真っ先に賜ったのが、まさに世界そのもの――造化六花なのです! 他にはどんなことを思い出されましたか? 我らレイ族のことなどは、いかがでしょう?」
なんか期待されてるようだが、そこまで具体的な情報を得られたわけじゃない。ボロを出さないよう、下手なことは言わないほうがいいだろう。
とはいえ、ひとつ気になることはあった。
「あのさ、ウィニーって知ってる?」
「うぃにぃ、でございますか? う~む……申し訳ありませぬ。博学な我といえど、かような言葉には覚えが……」
「そうか、わかった」
私は口に手を当て、じっくりと考え込んだ。
どうやら、世界を創った宇宙人たちのことは伝わってないらしい。文化の土台を作ったのは明美っぽいから、おそらくはヤツが意図的にウィニーの存在を伏せたのだろう。
となると、明美は明示していなかったが、ウィニーはこの世界に大きく干渉していないのかもしれない。少なくとも、人に認識が及ぶ範囲では。
明美の残した映像を見て再認識したが、現状でもっとも恐れるべきは、やはりウィニーだ。私の全存在が掌握されている以上、連中がその気になれば、いつでもこちらを殺すとか、記憶を書き換えるとか、そんなことは容易にできるはずだからだ。
私の思うに、明美は世界の中央にあるという塔で、ウィニーへの対抗策を用意しているのではなかろうか?
そう考えれば、ヤツが世界創世に携わったことも、安易に事情のすべてを話せないことも、おおむね理解できる。
最優先すべきは、私と明美の安全だ。
一度死んだ身とはいえ、意味不明な宇宙人に好き勝手に弄られるのは御免だし、できれば第二の生を平穏無事に過ごしたい。そのためにはなによりもまず、ウィニーの干渉を防ぐ手段を確立すべきだろう。はるか格上っぽい生物に、そんなことができるのかは、不明だが……。
なんであれ、明美がいる塔に一刻も早く到達しなくては。でないと、未来永劫ウィニーを恐れて過ごさなくちゃならなくなる。
私は顔を上げ、そわそわしながらこちらの言葉を待っているルミレイへと向き直った。
「聞きたいんだけどさ」
「は、はい! なんなりとどうぞ!」
「世界の中央にでっかい塔があるだろ? そこに行きたいんだけど、どうかな」
「黒の御柱でございますか。あそこら一帯は、口惜しいことにアケミ族が巣くっており、近づくことさえままなりませぬ。始祖様の神力でも用いない限り、到達するのは至極困難かと」
「――アケミ族。そんなのもいるのか」
で、ルミレイの口ぶりからして、レイ族との仲はよろしくないらしい。その事実を証明するかのごとく、ルミレイは苦虫を噛み潰すような表情を浮かべている。
「始祖様がご存じないは無理からぬことです。連中は邪神明美が生み出した、悪魔の申し子ども。清く正しい始祖様には縁遠い存在であり、おそらくはやつらの誕生にも一切関わっておらぬでしょう。ですので……あなた様が神力を取り戻されたら、あの忌々しくも醜いアケミ族を、是非とも滅ぼして頂きたい。それが全レイ族の、心からの望みなれば」
……仲が悪いというレベルではないらしい。種族の根絶さえ願うほどに、レイ族とアケミ族は激しい敵対関係にあるようだ。
私はルミレイにつられて渋い顔をし、腕を組んだ。
「とりあえず、私は塔に行ければいいんだ。だから黙って通してもられば、それで問題ないんだが……それも無理そうか?」
「否。と、断言させていただきましょう。かつては交流のあった時代もあったようですが、近年はとんと途絶えており、連中と交わすのは刃のみとなっております。なにより、黒の御柱付近のアケミ族は狂ったほどに凶暴でして、頭に脳ではなく筋肉が詰まっていると揶揄されるほどの狂人ぞろい。言語を介する知能の有無さえ定かでなく、ゆえに説得や交渉など不可能でしょう。犬猫に詩歌を吟じさせるほうが、まだ簡単かもしれませぬ」
……酷い言い様だな。本当に知能が低いのか、はたまたルミレイの偏見がでかいのか、よくわからんが。
ともかく、とりあえずは塔――黒の御柱とやらに向かってみるか。
ヤバイ連中のテリトリーだとしても、そいつらの目を逃れて塔に入る経路があるかもしれないし、ルミレイの語りに誇張があって意外と話が通じるかもしれないし。
などと考えていたら、ルミレイが新たな提案をしてきた。
「なにゆえ始祖様が黒の御柱を目指すのかわかりませぬが、まずはレイ族の中心地である大府に赴かれてはいかがでしょう。我は外界の出来事には通じておらず、ゆえに黒の御柱付近の現状にも疎いのです。しかるに、事情に詳しい別の者に話を聞かれるべきかと」
なるほど、確かにもっともな提案だ。どうもこの娘は偏見というか、知識に偏りがあるっぽいから、もっと多方面から情報を収集すべきだろう。
「わかった。なら、まずは大府ってとこにいこう。また案内を頼めるか?」
ルミレイは目を輝かせ、得意気に頷いた。
「無論でございます! 始祖様の巫女であるこのルミレイが、あなた様のご威光をあまねく在野に広めてご覧にいれましょう!」
普通に案内してくれるだけでいいんだが……まあ、いいか。当面は彼女のガイドに従うとしよう。
「では、まずは一旦母屋に戻りましょう。始祖様にふさわしい、端麗かつ煌びやかな装いを用意いたしますので、それに身を包んだ上で下界へご降臨を――」
「ま……待った。派手なのは好かないし、いちいち始祖ってのを宣伝して回るのは面倒なんだが」
「えっ。し、しかし、あなた様のご復活を民に知らせぬわけには……」
「知らせるのはいいけど、なんというか、まず一番偉いやつに私のことを伝えるべきじゃないか? で、そいつの権力とか組織力で、始祖復活の事実を広めてもらえばいい。誰かと会うたびにいちいち自己紹介してたら、キリないし」
面倒を回避したくて適当に言ったのだが、ルミレイは感心したように何度も頷いた。
「なるほど! さすがは始祖様、賢明なご判断です! 帝はあなた様の名代として国を治める者。ゆえに始祖様が再臨された以上、その力のすべてを始祖様にお返しするのが世の道理! しからば、真っ先に皇城へと赴いて、権力の譲渡を迫るとしましょう!」
「い、いや、別に私は権力とかは……」
「ふふふっ! いやぁ、実に楽しみでございます! 愚鈍な権力者どもを排除し、代わって始祖様がレイ族を支配なされれば、世界はより良く、素晴らしくなるでしょう! そして、その王道楽土への道筋を、巫女であるこのルミレイがお支えいたします! 我らの名前と栄光は造化六花の津々浦々に知れ渡り、未来永劫語り継がれることとなるのです! なーっはっはっはっ!」
……大丈夫だろうか、この子。なんか野心が見え隠れするんだが……。
私の心配など露知らず、「では、母屋へ戻りましょう!」とルミレイは声を弾ませ、上機嫌で階段を登っていくのだった。




