56歳・23
コンテナを縦に構えて体を隠し、床に水平となる形でジェットパックを噴かせ、地下一階へと勢いよく飛び込む。
フロアの入り口に差し掛かった瞬間、ズガガガッと前から連続で衝撃が来た。
視界の前方はコンテナの盾で覆われているから見えないが、LAWSによる攻撃が始まったのだろう。
だが、土を金属片と一緒にぎゅうぎゅうに詰めたのが功を奏したのか、コンテナに打ち込まれた軽量徹甲弾は私に届かなかった。貫通せずに土の中で止まってくれたようだ。
撃たれた衝撃によって後ろに吹っ飛ばされそうになるが、ジェットの噴射で勢いは相殺できている。とはいえ、全力でガスを噴かすのはやめたほうがいいだろう。バランスが崩れて、盾に隠れている体が敵に対して露出してしまうかもしれない。
なので減速してコンテナを地面にくっつけ、それに合わせて自分も着地する。
徹甲弾が打ち込まれる衝撃はジェット噴射だけでなく私の筋力でも吸収し、じりじりとすり足で着実に前進していく。
入室した直後から絶え間のない銃撃に襲われ続けたが、そのようにして状況は安定していた。
アレ? これ普通にいけるんじゃね?
と、楽観の気持ちが一気に私の中で膨らんでいく。
しかし、流れはすぐに変わった。嵐の如く撃ち込まれていた銃撃が、突如パタリと止んだのだ。
一瞬、弾切れを疑う。
だが山と積まれていた弾丸のカートリッジを思い出し、すぐにその線を消した。
代わって、別の疑念が浮かんできた。まさか……敵は銃弾の補充ができない? AIにそういう機能がないのか? 床にある予備の銃弾はブラフ?
そんなことを思いつつ、私は油断せずに盾を構えたままゆっくり前進する。
だが直後、弾切れの予想をあざ笑うかのごとく、再び敵の銃撃が私を襲った。
しかし、さっきまでと違ってコンテナ左側からの圧力があからさまに強い。被弾がコンテナの左に偏っているようだ。
三秒ほど、また銃撃が止む。その後、ふたたびコンテナ左側を集中的に弾丸が襲う。
そうした流れが、二度、三度と繰り返された。
……なんだ、これは? まさか同じ箇所に攻撃を繰り返して、コンテナを貫通することを狙ってる?
定期的に左から圧力がかかり、ゆえに私は左手に力を込め、その勢いを相殺する。
よくわからんが、今のところコンテナの盾が貫かれる様子はない。それに、左への銃撃は一定の間隔でやってくるから、タイミングを合わせれば問題なく姿勢を維持できる。
敵は入り口から三十メートルほどのところにいるが、もう半分くらいは距離を詰めただろう。この調子なら、問題なく敵の目の前までいけるんじゃないか?
そうして四度目の左側への銃撃を防いだとき、無線の向こうの明美が急に声を荒げた。
『玲ちゃん、ひいて! 敵の狙いがわか――』
言葉の途中だったが、左にまた衝撃が来るタイミングだったので、私はそれを受けるべく左手に力を込める。
――私はこの時点で、完全に敵の術中にはまっていた。
今度の衝撃は左ではなく、右からきたのだ。
前からはコンテナ右側を銃弾に押され、後ろからはコンテナ左側を私が押す。すると、どうなるか。
忍者屋敷のからくり扉のように、私とコンテナの位置がぐるりと入れ替わる。
こちらとLAWSの間を遮るものは一切なくなり、私はその瞬間、完全に無防備となった。
――極限まで集中しているからか、やけに時の流れがゆっくりに感じる。
そのとき初めて、私は正面に屹立するLAWSを見た。魚の骨のようなシルエットであり、頭部のカメラは真っ直ぐにこちらを向いている。
カメラは手のひら大の黒い真円をしており、悪魔の目玉のようだった。
どこまでも無慈悲で、冷酷で、まるで悪意という悪意の凝縮体。
――殺すべきだな、あいつ。
殺意が瞬間的に沸き、溢れ、私の中を満たしていった。
明美の必死な叫び声が響いている。
だが、耳に入るすべての音が妙に間延びしていて、よく聞き取れない。
すでに敵は、盾から露出した私に銃弾を放っている。狙いは頭部であり、四つの細長い弾丸が一直線に連なって向かってきている。
私はわずかに速く、反射的にジェットパックを真横へ全力噴射させていた。そのためコンマ一秒で間に合い、敵の弾丸の着弾点が数センチ逸れる。
ヘルメットの左端、耳の辺りに、一発目の徹甲弾が直撃する。
それが装甲に弾かれる前に、二発目の弾が一発目の尻に直撃。
三発目も同様に当たって、さらに四発目が連なり、一点に集中された力がとうとうパワードスーツの装甲を貫いた。
激痛が左耳の付け根に走る。もはや、左耳のほとんどは弾けて原型を留めていないだろう。
だが、私は一切怯まずに回避行動を取った。
ジェット噴射の勢いを活かしながら、コンテナを引っ張り、床を蹴って、全力で真横へと飛び退く。
そのまま六、七メートルほど右に全速力で移動したが、その間の追撃はなかった。私は空中で姿勢を素早く変え、再びコンテナの盾に身を隠す。
だが着地寸前、右足のつま先に敵の連続射撃が再び直撃した。足の甲を貫かれつつ、盾に隠れていない部分を狙われたのだと瞬間的に悟る。
さらなる回避のためにジェットパックを噴射させようとしたが、即座に思い直してやめた。腰に巻いている紐が、凄まじい勢いで私を後ろに引っ張っていたからだ。
なのでしゃがみこんで踏ん張り、盾を敵に向けつつ体を密着させ、姿勢を維持することに専念する。
コンテナに無数の弾丸を受けつつ、私はその状態のまま後方に引っ張られていく。
そしてようやくフロアの入り口を抜け、階段へと達し、ガツンガツンとコンテナを段にぶつけながら、上へと逃れた。
踊り場にたどり着き、コンテナをそこまで引っ張り上げ、さらには入り口から離れた死角に駆け寄り、ようやく私は力を抜いた。勢いよく壁に背中を預け、そのままずるずると腰を下ろしていく。
なんだか、まぶたが重い。




