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明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第二部
73/174

56歳・22

 月面ホテルの階段は右側通行となっており、床にはそれを厳守するよう注意書きが書かれている。ジャンプひとつで余裕で十段抜かしとかできるから、こうでもしないと衝突事故が多発してしまうらしい。

 そのため壁や天井にも手すりがたくさんついており、これだけでアトラクション的な新鮮さがある。


 私とルウは、そうした月特有の階段の踊り場にいた。


 真っ直ぐ降りたところには地下一階フロアへの入り口があるが、そこには機械の破片が足の踏み場もないほどに散乱している。

 あれらは、私たちが送り込んだ索敵ドローンの残骸だ。どうやら階段を下りきったあたりで、中にいるLAWSから銃撃を受けたらしい。

 つまり、私たちも三、四メートルほど下に降りれば、同じように撃たれるということだ。相手は固定砲台だから、逆に射線に入らない限りは安全だと思うが。


 ちなみに、このホテルにはエレベーターがない。重力の弱さゆえに上下の移動がしやすく、開発が後回しにされていたためだ。

 また、スパイ映画なんかでよくある、人が通れるような通気口も皆無となっている。

 だから地下に行くには、階段を通るしかない。死角からの不意打ちなどできず、真正面から戦いを挑むしかないのだ。



 準備を五分ほどで終え、いよいよLAWSに挑むときがきた。


 コンテナの中にはホテル入り口の庭園から採取した土をぎっしり詰めており、私はそれを両手で持ち、盾にしている。凄まじい重さなのだろうが、月の低重力とスーツの人口筋肉の補助があれば、正面に掲げ続けることは容易い。


 また、私の腰にはカーボンナノチューブ製の紐がくくりつけられており、その端はルウが持っている。これは、私がやばくなったときに後方のルウが紐を引っ張って救出するための保険だ。

 役立つかどうかはわからんし、使ったとしても、その場合戻ってくるのは私の死体かもしれないが。


 ルウには私を盾にして射撃させる案もあったが、明美の反対で却下となった。敵のAIは危険な相手を優先して攻撃するので、ルウに銃を持たせると彼女のほうに狙いがいってしまうらしい。

 それに、LAWSは射線が通ると同時に正確無比な射撃を行う。遮蔽物からわずかに銃口を出した時点でアウトであり、必ず相手に先手を打たれる。

 なので、身を隠しながら射撃するという試みは、効果がないどころか危険なだけ、とのこと。


 さらに言えば、LAWSは自分に飛んできた銃弾さえ、それに自らが撃った銃弾をぶつけて弾ける。手榴弾などの投擲物は言わずもがな。

 そんなわけで、大概の遠隔武器は通用しないと考えていい。


 じゃあ、そんな化け物をどうやって倒すか。

 明美が可能性として提案したのは、以下の三つだ。


 1、弾切れを待つ。

 2、銃弾で跳ね返せない非固有物(大量の強酸、固まる前のコンクリートなど)で遠隔攻撃する。

 3、接近して直接攻撃を仕掛ける。


 1は最も堅実だが、LAWSの足元には銃弾の詰まったカートリッジが山のように積まれている。銃の弾が切れた場合、敵はおそらく空いている腕を使ってカートリッジの交換を行うだろう。

 床の銃弾は数千発あるから、つまり数千発は撃たせなければ弾切れは起こらない。時間がかかるのはもちろん、それだけの攻撃を凌ぐのは不可能に近いと思われる。


 2は有効そうではあるものの、そもそも短時間で用意するのが現実的ではない。ホテルの一階をざっと捜索したけど使えそうなものはなかったし、コンテナの中にもなかった。ゆえに不採用。


 接近して直接攻撃するという3の案は、一見無謀ではある。

 だが敵の腕の構造からして、密着すれば銃撃は食らわない。近距離用の武器を隠していないとは限らないが、懐に入れば一方的に攻撃できる可能性が高いのだ。

 危険ではあるが、LAWSを倒せるとしたらこれしかないというのが、私たちの議論の結果だった。


 しかし、3の案でいくにしても、問題がある。敵の至近距離に達するまで、何十、何百発もの銃弾に耐えなければならないという点だ。


 明美の見立てでは、軽量徹甲弾を同じ箇所に立て続けに打ち込まれれば、パワードスーツが貫通される危険があるらしい。

 が、小刻みに横に移動するなどすれば、寸分違わない位置に連続で弾を打ち込まれることはないはず。さらには、即席の盾で完全に防げるかもしれないし、AIの性能が想定より低いかもしれない。

 気休めだが対処方法はあるし、うまくいく可能性は決して低くないのだ。



「よし、じゃあいくぞ」


 コンテナの盾を構え、私は仲間二人に宣言した。


『……焦らないでね、玲ちゃん。まずは接近するよりも、敵の射撃性能を確かめることを優先してちょうだい』


「ああ、わかってる」


『ヤバいと思ったら、私の判断ですぐ引っ張り戻しますからね。そのときは文句言わないでくださいよ』


「了解。命綱は任せたぞ、ルウ」


 出来うる限りの準備をし、覚悟もサクッと決めた。

 あとはもう、思い切って挑むだけだ。


 私は両手で盾を構えつつ、階段の下へと身を投げた。地球の六分の一の重力によって、体がふわりと浮く。

 そして軽くジェットパックのガスを噴射させ、LAWSが待ち受けるフロアへと突入した。

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