56歳・20
三階の敵も、二階と同様の流れで処理した。
音響兵器で動けなくなったテロリストどもを、私はひとりひとり入念に、かつサクサクと殺していった。
十数人いた敵を残らず始末し、四階に向かう。
だが、そちらでは音響兵器は使わなかった。先んじて派遣していた索敵ドローンが、テロリストたちが自殺する様子を捉えていたからだ。
そんなわけで、辿り着いたフロアでは武装していない男女五人が泡を吹いて倒れていた。毒物でも飲んだらしい。
『あーあ。自殺とか、つまらんマネしてくれますね』
「……そうだな。で、これで上の階の敵は全部か? 明美」
『ええ、おそらく。でも隠れてる人間がいないかどうか調べさせてるから、ちょっと待って。その後に地下へ――』
明美が喋っている最中だった。突如、館内のスピーカーがボッボッ、と雑音を発する。
私たちがハッとして会話を止めると、それを見ていたかのようなタイミングで男の声が響いた。
『――とりあえずは見事、と言っておこう。黒いパワードスーツの諸君』
聞き覚えがある。間違いなく、テロ組織のボスを名乗っていたサディクとかいうやつの声だ。
『だが、よくわからんな。君たちは何者だ? 装備は一級品のようだが、たった二人だけというのが解せない。軍隊の人間ではないのか?』
サディクらしき男が話している中、私はそれには耳を傾けず明美に尋ねた。
「明美、どこから放送してるかわかるか?」
『おそらく地下一階のスタッフルームね。さっきまで放送機材には電源が入っていなかったのに、今は入ってる』
「やっぱり地下か」
天井のスピーカーからは、男の朗々とした語りが響き続けている。
『ともあれ、君たちには大いに計画を狂わされたよ。ゴドウィン邸でもファーマメントでも、少数精鋭の同志が国の軍隊と激闘を繰り広げる様を予定していたというのに。おかげで動画の撮れ高が――』
「うっとうしい声だ。明美」
『はーい』
明美が返事をし、それから三秒もせずに放送は途切れた。管理システム経由で、放送設備を使えなくしたのだろう。
が、ルウはそれに不満そうな反応を見せる。
『え……、いいんですか? 今けっこう、重要なこと話そうとしてましたけど』
「どうでもいい」
バッサリ切って捨てるが、それにルウは反論した。
『いや、気持ちはわかりますけど、だからって首謀者のサディクまで問答無用でぶち殺すのは反対ですね。それってある意味、相手の思う壺になりません? 復讐するならしっかり相手の目的を把握して、そっちも台無しにしてやるべきでしょ』
「…………ふむ」
確かに、そうかもしれない。
私にとって、テロリストどもはこの世から消すべき相手であり、もはや人ではない。だから話を聞く気にもならなかった。
けれど、そうした扱いをされることを敵が望んでいるなら、話は別だ。
私はしばし考え、ルウに同意した。
「ルウの指摘にも一理ある。私は殺すことばっかり考えてて、他の事情なんて頭になかった。敵を殺せたとしても、それで敵の目的が達成されたのなら、確かに面白くない」
でしょ? とルウは声を弾ませた。
『まあ、放送は別に聴かなくてもいいですよ。サディク本人を捕らえてから聞き出せばいいんですから。というわけで、発見、即射殺、なんてマネはしないでくださいね、玲さん』
「わかったよ。じゃあ情報を引き出すだけ引き出してから殺すのか?」
『そのへん、実は考えてあるんで任せてください。サディクとやらをアナーキストどもの英雄にしないよう、色々用意してきたんで』
「オーケー、任せる」
『母上もいいですか?』
『玲ちゃんの許可が出たのなら、なんでもいいわよ。ただ、二人とも戦勝気分になるのは早いんじゃない? 地下の強敵がまだ残ってるんだから』
「そうだったな。んじゃ、さっさと片付けるとするか」
こうして今後の方針をざっと話し合い、私たちは地下一階へと向かった。




