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明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第二部
69/174

56歳・18

 月面ホテル全体の大きさは、日本の学校の校舎と大差ない。

 しかし、外観は立地に劣らず奇抜であり、遠くからだと黒い円錐の塊のように見えるだろう。骨組みだけの傘、と表現したほうが正しいか。

 傘の骨に見えるのは、細い直線の構造体だ。建物本体を防護するため、周囲をぐるりと取り囲んでおり、もろもろの事情で円錐型の覆いとなっているのである。


 建物部分は四階建てで、ガラス窓の類いはない。太陽光線が建材や電子機器に多大なダメージを与えてくるので、対策として壁を分厚くする必要があるからだ。

 周囲には月面観光のための車の格納庫、シャトルの離着陸場、アンテナ設備、建材置き場などがあり、その少し離れた場所には古の開拓基地が存在する。基地のほうには近づけないが、将来は整備して観光地化する予定もあるとのこと。


 ――無論、テロリストの蛮行によって、現在ホテルは運営していない。

 従業員は別の場所に捕らえられており、ここにいるのは私が殺すべき人間だけだ。

 碧が楽しむ予定だった場所を血で汚すのはやや心苦しいが、ホテルがいつか無事に再開できるよう、ゴミ掃除は入念にする必要があるだろう。



 テロリストたちは月面ホテルにいるはずだが、連中が外を監視しているのかどうかはわからない。

 月軌道の人工衛星を使っていた形跡はあったが、それらはすでに物理的に押さえている。空からの画像や動画はもう、入手できないはずだ。

 しかし裏を返せば、そうした干渉によってこちらの侵攻意図を察知されている可能性は高い。戦うか逃げるかする準備はすでに済んでいるだろう。


 問題は敵が屋外に出てくるかどうかだが、少なくとも監視衛星では動く物体は確認できなかった。

 つまり、この時点で逃走の可能性はもうない。着陸寸前の降下船をロケット弾とかで狙われたらやばいのだが、その危険もないようだ。敵は屋内で私たちを出迎えるつもりらしい。


 船はロケットの噴射によって減速し、大量の砂を巻き上げながら月面に着陸しようとしていた。

 本来、こうした宇宙船のランディング作業は細心の注意を払って行われる。最も船体に衝撃がかかる瞬間であり、ゆえにもっとも故障しやすいからだ。

 しかしさっきも触れたが、のんびりしていると敵の攻撃で故障どころじゃない損傷を追いかねない。そのため着地は荒っぽいものとなり、轟音と大振動を伴うものとなった。


 私とルウはすでにエアロックにおり、空間内の減圧も終わっている。

 なので、着地とほぼ同時に外へ飛び出した。

 背中のジェットパックによって地表すれすれを飛び、周囲を警戒しながら月面ホテル入り口へと全速力で向かう。


 明美の残った降下船は、すでに船体や噴射機構などを守る装甲版を展開させているはずだ。ゆえに、潜んでいた敵が船に不意打ちをかけたとしても、よほどの兵器を使われない限りは侵入も破壊もされない。上空の監視衛星が周辺を見張っているし、不意打ちを受けることもまずないだろう。


 ホテルの入り口は、非常用の防護シャッターによって閉ざされている。これに、私は地面と水平に飛び続けながらバズーカ砲を撃ち込んだ。筒状の砲身から砲弾が発射され、正面のシャッターに直撃したそれは大爆発を引き起こした。


 真空中なので、音や衝撃は伝播せず、爆炎もすぐに収まる。

 そしてバズーカ砲を捨て、空中に大量に漂う破片をかき分け、いよいよ私とルウは月面ホテルへと侵入した。

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