56歳・15
「まさか、ゲームの中の相棒が明美の娘だったとはな。驚いたよ、ルウちゃん」
『あ、気づきました?』
「そりゃあ、あんだけヒントがあればな」
ルウとは今、遠隔で話をしている。
忙しいのは本当だったようで、初対面以降の数時間、話す暇がなかった。で、出撃直前になってようやく、あちらから無線で話しかけてくれたというわけである。
いよいよ戦いが迫ったこともあり、こちらもバタバタしていた。私はゲートウェイのロッカールームにてひとり、パワードスーツの外装を身に着けている。
鎧となる外装は凄まじい重さだが、無重力下ならば単独でも装着できる。残るは左腕と頭部だけであり、私は慎重にジョイントや端子を繋いでいく。
「っていうか、あのゲームを始めたのは六年前だから、当時十三歳くらいか? 相手がそんな子供だなんて、気づかなかったわ」
『それは良かった。頑張って大人のフリしてた甲斐があったってもんです』
私が刑務所で数年間やっていたオンラインゲームの中で、『Ru u』という名の友人がいた。で、その正体が、ついさっき出会ったばかりのルウだと気づいたのである。
「一応聞くけど、学校とかは通ってたわけ?」
『ええ、そこそこ。学習効率が悪いから乗り気じゃなかったんですけど、母から「人を動かすための訓練場だと思いなさい」って言われたんで、そういう目的で行ってました』
「……やっぱ学校をそんなふうに思ってたんだな、あいつは」
ボス猿ギャルだった学生時代の明美を思い出し、懐かしさに手が止まりそうになる。
『だから当時は驚きましたよ。いきなりネットゲームをやるよう、刑務所にいる母に言われて。それで、玲さんならぬネナさんと知り合ったわけですけど』
「そういう経緯だったのか。……でも、よくわからんな。明美はなんだって、娘に私の遊び相手をさせたんだ?」
『たぶん、私が前々から頼んでたからだと思います。玲さんと話してみたいって。んで、さすがに私を刑務所に入れるわけにはいかないから、ああした迂遠な手段を提供してくれたのかと』
「ふーん……」
ふと思い立ち、私は少々荒っぽい質問をぶつけた。
「母親のこと、好きか?」
『なんという直球な質問。ん~、そうですねぇ。……まあ、普通の家庭の子供が、親に抱くくらいの情愛はあるんじゃないですか? 客観的、総合的に考えても、悪い母親ではないと思いますし』
「……そうなのか」
明美がまともに子育てをしていたという事実が、私としては驚きだった。碧の親であることを放棄したアイツが、まさか別の子供を育てていたとは。
明美には明美の事情があると思うようになり、碧を見限った事実は半ば許している。
……が、うまく言葉に出来ないものの、さすがに複雑な気分だ。
しばし絶句して固まっていると、ルウが早口気味で尋ねてくる。
『っていうか、今、玲さんどこにいるんです?』
「……ロッカールームでスーツ着てるけど」
『いや、一斉降下まで三十分切ってますよ。急いだほうがいいんじゃないですか』
「あ、もうそんなか」
時間をまったく見てなかった。どうりで、周りに人がいないわけだ。
とはいえ、もう外装の装着はほぼ完了している。私は慌てずにスーツの各部をチェックし、不備がないかを確認していく。
「ルウはどこにいんの? もう降下船の中?」
『そうです。とっくに準備も終わってますよ。なんなら手伝いに行きましょうか?』
「いや、あとチェックだけだから大丈夫」
そうして着実に準備を終え、私はヘルメットを持ってドッキングポートへと向かった。




