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明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第二部
63/174

56歳・12

 仕掛けた爆薬が起動すると同時に、私はスーツのジェットパックを噴かせた。

 爆発の衝撃と漏出する空気の流れをものともせず、すぐさまファーマメント内部に侵入。すると、入ってすぐの空間に人間がいた。


 驚愕して机にしがみついていたその男に、即座に銃を向ける。球体――ビリビリガムが発射され、男に直撃すると同時に潰れて張り付き、致死一歩手前の電流を食らわせた。

 本来なら普通にぶっ殺したいところだが……今はダメだ。それをやると私が仲間に拘束されるし、そうすると他の場所にいるテロリストと戦えない。クソども全員を殺せる目途が立つまでは、軍のルールと意向に従わなければならないのだ。


 痙攣して白目をむいた男を放置し、私と仲間はガス噴射によってモジュール内の奥へと進む。


 宇宙ステーションというと狭苦しいイメージだが、ファーマメントは従来のそれよりもだいぶ広い。連結部でも学校の廊下ほどの大きさがあり、それぞれのモジュールは教室くらいのスペースがある。

 当然、そうした内部構造は完全に把握していた。私たちが侵入したのは基地の端っこであり、ここからはすべてのモジュールをチェックする形で奥へと進んでいく。隅から隅までを洗い、出会った人間全部にビリビリガムを打ち込んで無力化すれば、晴れて制圧は完了となる。


 しかし当然、敵は爆発の衝撃によって私たちの侵入を察知しているだろう。すでに警報がうるさいほどに鳴り響いているし、思いもよらない手段で抵抗してくるかもしれない。

 普通に考えて負ける要素などまったくないが、私は一切油断せずに全力で突き進んだ。



 無重力の空間を、背中のジェットでひたすらに駆ける。


 私のジェットパックの噴出部は角度や方向を調節でき、ゆえに空中での動きは自在だ。減速せずに直角を曲がることも可能で、そのため仲間はこちらの速さについてこれない。モジュールへの侵入と襲撃は私一人のみが行い、彼は補助のために直線通路に留まるのみとなっている。

 本来、この基地を貫く直線通路には移動用の手すりがある。通路中央を登り棒のように通っている器具なのだが、都合の良いことに、それらはすべて撤去されていた。

 おかげで通路を飛び抜ける私を妨げるものはなく、敵の捜索はつつがなく進んだ。


 一気呵成の勢いで突き進み、三つのモジュールに入って五人を難なく無力化して、いよいよ中央の基部へと突入する。


 さすがに白兵戦を警戒していたらしく、パワードスーツを着込んだ人間たちが私を出迎えた。私の仲間が着用しているのと同タイプであり、機動性は低いが全身を剛材で覆われているために防御力は高い。

 そして敵が構えているでかい銃に反応し、スーツのAIが即座に警報を鳴らす。


 軽量徹甲弾だ。

 私のスーツなら問題ないが、仲間はあれを食らったらやられる。でもって、基地の壁に当たれば余裕で貫通して穴を開けてしまう。

 どちらの事態も避けたいので、私は空中に大の字となって止まった。敵の射撃の腕がクソザコナメクジでもない限り、これなら命中させてくれるだろう。


 直後、ズガガッ、と衝撃音がスーツ内に鳴り響き、後ろに吹っ飛ぶ。ダメージを相殺するのが精一杯だったようで、勢いまでは殺しきれなかったようだ。

 しかし、スーツにも体にも損傷はない。


 私はすぐさまガスを噴かせて動きを止め、銃を構えた。AIが相手のパワードスーツを瞬時に分析し、私が持つ特殊ライフルの銃口を変形させる。

 そうして細くすぼまった銃口から、針のように細い弾を連続で発射した。敵の装甲は分厚いため、表面で電撃を発生させても効果が薄い。ゆえに内部にダメージが通るよう、弾を球状から針状へと変化させたのである。


 四人の敵に発射した弾は、見事にすべて着弾した。

 それらは相手のパワードスーツの装甲を貫いたが、切っ先が入った時点で軟体へと性質変化させているため、人体には傷ひとつついていないはず。無論、電気パルスが中の人間を襲い、死ぬほどの激痛を与えているだろうが。


「連中の武装を解除しろ! 私は奥に進む!」


 仲間に向けて無線で指示を飛ばし、宣言どおり次のモジュールへと向かった。

 すでに互いの体は紐で繋がれておらず、もう敵に気づかれてるので電波通信を控える理由もない。明美のいる母艦にも、ファーマメントに攻め入った旨が仲間によって通達されているだろう。


 無重力の基地内をジェットを噴かして飛び回り、人影を徹底的に探す。

 が、さっきの武装組以降、誰もいない。もう全部片付けたのだろうか? あるいは見逃しがあった?

 疑念を抱いていると、ハッキング担当の仲間から通信が入った。


『二条サン、聞こえるか? 今しがた、非常用の脱出ポットにアクセスがあった。横槍を入れて使えないようにしたが、おそらくそこに敵がいる』


「オーケー、脱出ポットね」


 確か、位置は私らが突入したのとは逆の頂点部分だ。テロリストどもはそこから宇宙に脱出するつもりだったのだろう。


 ――バカどもめ。逃してなるものか。


 私はジェットパックの出力を上げ、連結部の通路を一気に飛び抜けた。

 が、すぐに気づく。進行方向の通路が、なにかで塞がっている。隔壁の制御は奪ってるから、閉じられないはずだが……。


 通路の終わりに到着したところで急ブレーキをかけ、障害物をざっと観察する。それは資料で見た隔壁とはまったく違い、銀色で妙にのっぺりしていた。

 そしてハッとする。向こうから、人の声が聞こえてきたからだ。


『ねえ、まだなの!』


『わかってる! でも外壁が開かないんだ!』


 スーツのマイクが拾った男女の声が、ヘルメットの中で響く。

 私はすぐさま、障害物に思い切り蹴りを入れた。どうやら、残りのゴキブリどもはここに集まっていたらしい。

 蹴っ飛ばした壁は、ほんの少し揺れた。隙間もわずかに空いている。連結部に固定されてる物体ではないようだ。


『き、きたっ!』


『ちくしょう、押さえろ!』


 向こうから焦った声が聞こえるとともに、壁の隙間がガツンと閉じる。

 そーいうことね。理解した。


 私は一旦そこから離れ、部屋の入り口から数メートルほど距離を取る。

 そしてジェットを最大出力で噴射させ、その勢いと人工筋肉による力をもってして、全身全霊の蹴りをバリケードにお見舞いした。


 どうやら敵は、備え付けの装置かなんかで通路を塞いでいたらしい。で、パワードスーツを着た何人かの人間が、それを直に押さえつけていたと。


 脱出ポットのある部屋に入って、私は自分の予測が正しかったことを確認した。

 モジュール内の無重力空間には、真ん中が大きくへこんだサーバーだかなんだかの物体と、パワードスーツを着た何人かが無軌道に浮いている。私があまりにも勢いよくバリケードを吹っ飛ばしたから、それらは反動で壁に叩きつけられたのだろう。

 痛みに呻いているやつもいたが、こちらの知ったことではない。そいつも含めて、視界にいる人間に容赦なくビリビリガムをぶち込んでいく。


『権力者どもの犬め! お前に弱者をいたぶってる自覚はあるのか!?』


 入り口脇の死角にいた女が、なにやらこちらに叫んできた。

 そいつで最後だったので、銃口は向けたものの引き金は引かない。他のテロリストの居場所を聞きたかったからだ。


「おい、他のお仲間はどこに――」


『我々は屈しない! 力では負けても、魂では絶対に負けはしない! お前たちが利用し、虐げ、踏みにじってきた同志たちのためにも!』


 すると、女は自分の腰の後ろに手を伸ばす。

 私は何が起こるかを察し、即座にガスを噴かせて女へと突進した。そいつを押さえつけると同時に、右手に持っていた拳銃をがっしりと掴む。この女は、銃で自分の頭を撃とうとしていたのだ。


「むかつくんだよ、それ。勝ち逃げみたいで。死ぬなら戦ってから死ね、卑怯者」


 特に深く考えず、そんな言葉が出てしまった。案の定、女は激昂する。


『ひ、卑怯? 卑怯だと? お前がそれを言うかっ! 権力の後ろ盾で力を得たくせに、お前は自分が強くて正々堂々とした存在だとでも――』


 うるさいからビリビリガムを食らわせてやった。女は悶絶し、泡を吹いて痙攣する。

 電気ショックで筋肉もまともに動かせないはずだから、意識が戻っても自殺はできないだろう。


『終わったようだな、婆さん』


 無線からの音声だ。振り向くと、私の補佐をしていた仲間がモジュールの入り口にいた。


「ここに一直線で来たから、途中のモジュールを調べてないんだけど、大丈夫?」


『ああ、俺が見てきた。もう他には残っていないはずだ。無論、再確認は必要だろうが』


「じゃあ、とりあえずは制圧完了ってことか。おつかれさん」


『……俺はなにもしてねぇから、たいして誇れないけどな。でも、あんたはすげぇよ。一人で軍事ステーションを制圧しちまった。大した女だ』


「そりゃどうも。……とはいえ、私の強さはほとんどスーツのおかげだし、大勢の助けがなきゃここまで来ることさえ不可能だった。一人だったら、なんもできなかったさ」


 ――そう、単独での行動を選んでいたら、私はいまだに地上をウロチョロしていただろう。

 国が、組織が、個人が、たくさんのものを積み上げたからこそ、私は今ここにいる。


 だが、人の繋がりの力は凄いなと実感しつつ、一方で申し訳もなく感じた。私は最終的にそうした協力者たちの意向や総意を無視して、個人的事情によってテロリストどもを殺し尽くすつもりだからだ。


 けれど、今はファーマメントの奪還が成功したことを、素直に喜ぼう。

 仲間たちを裏切る予定の私だが、それくらいは許されると思った。

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