56歳・10
なんとも不思議な気分だ。
日本列島を数分で横断できるくらいの速さで移動してるのに、全然動いている感じがしない。周りの風景が一切変わらず、空気抵抗を受けなければ、どうやら速さという概念は体感できないらしい。
私と仲間の男三人は、牽引ロケットに引っ張られる形で敵の宇宙ステーションを目指している。
が、周りが気が狂うほどの殺風景だからか、思った以上に精神負荷が大きい。でもって、到着するまであと十数分はかかるだろう。
というわけで、私たちはお喋りをして気を紛らわせていた。
『ほう、ミス二条は生身で前線に立った経験があるのですか』
「だいぶ昔だけどね。パワードスーツなんて、老人介護施設でしか見なかった時代さ」
『銃弾の飛び交ってるところに、ちっちゃいヘルメットと防弾チョッキだけで飛び込むんだろ? 自殺行為としか思えないけどな』
『それはてめぇが若いからだろ。俺も昔、アフリカの紛争に旧型パワードスーツで参加したことがあるが、なかなかにエキサイティングだったぜ。生と死の狭間ってやつをクソほど実感できた』
有線を介した通信によって、男たちの声がヘルメット内で響いている。
急造の部隊とはいえ、誰もが未経験のミッションということもあり、私たちは割と上下関係なく打ち解けていた。
まあ、女で、歳食ってて、アメリカ軍人じゃなくて、なのに戦力としては一番強いっていう変な立場の私は、やや浮いてはいたが。
『なんだよ、その理屈。ご年配は生と死の狭間とやらを楽しめるってことかい?』
『ちげぇ、慣れと度胸がつくって話だ。だろ? 二条の婆さん。あんたの落ち着きっぷりは、さっきから堂に入ってる。相当な修羅場をくぐってきたか、単に神経がぶっ壊れてるかのどっちかだ。いい武勇伝があるなら、ぜひとも聞かせてくれ』
「おいおい、年寄りに期待しすぎんなよ。私はフリーの傭兵だったから、自慢できるほど戦場には立っちゃいないぞ。武勇伝なんて大層な経験は……」
いや、待てよ。あるっちゃあるか。
「ふむ。相方と一緒にテロリストと戦って、核兵器の爆発を阻止したって話ならあるけど、聞く?」
『おい、マジか』
『それ本当なら、メチャクチャ凄くない!?』
『拝聴しましょう。とても興味深い話です』
私たちはこれまで四十時間ほどの共同訓練しかしておらず、互いのことを話す余裕すらなかった。
ゆえに会話で気を紛らわせるとともに親睦を深め、私と仲間は宇宙空間を突き進んでいく。




