56歳・6
庭の近くにあるベンチにて、私はヘルメットを脱いで座っていた。
邸宅には軍の人間らが出入りしており、軽く現場検証などを行っている。
で、彼らが監視カメラを調べた結果、傭兵どもが互いを撃って集団自殺をした事実が明らかとなった。邸宅には他に誰もいないし、そのうえ、死体の中にはなんとゴドウィンも混じっていたのである。
つまり、この件は完全に終了したということだ。
『傭兵を一人も死なせずにゴドウィンを捕縛する』という私の作戦目標も、見事に失敗に終わってしまったわけだが。
背もたれに背を預け、足を組み、盛大にでかい息を吐き出す。
「ずいぶん大きな溜め息ね、玲ちゃん」
直に声が聞こえると思ったら、真横に明美が立っていた。こいつは忍者のように気配と足音を消せるから、気づけばこうして近くにいることが多い。
「そりゃ、不完全燃焼にもほどがあるからな。で、お偉いさんとの協議は終わったか?」
「ええ、一応。かなりの高評価だったわよ、そのスーツ。玲ちゃんが派手に暴れてくれたおかげね」
「だから暴れ足りないんだっつーの」
再度溜め息を吐き、私はヘルメットを持って立ち上がった。そして死体が散乱している邸宅の方へ目を向ける。
「……結局なにがしたかったんだ、あいつら。そのへん、はっきりしたのか?」
「いいえ、まだ。玲ちゃんが捕らえた連中が回復すれば、詳細は聞けると思うけど」
「……いや、聞いといてなんだが、判明しても教えてくれなくていいや。どうでもいいし、知る必要ないだろ」
そうね、と明美はサラリと答えた。
一呼吸置き、顎をくいっと前へ向ける。
「じゃ、トラックへ戻りましょう。ここでの仕事は終わったわ」
私は頷き、明美と並んで歩き出した。庭園迷路の外縁をなぞる形で、邸宅の外へと向かう。
「……さっきから凄いしかめっ面よ、玲ちゃん。機嫌悪い?」
そう言われて、ようやく眉間に皺が寄っていることに気づいた。目をパチクリさせ、どうにかして顔の筋肉から力を抜く。
そして今日何度目か知れない、大きな溜め息を吐いた
「はぁー……。死ぬなら私の関係ないとこで死ねってんだよ。後味悪いったらない」
半ば独り言で呟いたのだが、それを明美は丁寧に拾う。
「意外と死生観は保守的なのよね、玲ちゃんって。死をすごく嫌悪してる」
「……別に普通だろ。死体なんて、見ないに越したことはない」
「そうなの? じゃあ、私も死ぬときは人知れず死のうかしら」
私はすぐさま立ち止まった。
つられて足を止めた明美に真正面から向かい合い、そして断言する。
「だめだ。お前は私の見えるとこで死ね。死に方はどうでもいいが、ともかく私の知らないところで死ぬな。そんな死なれ方したら、一生すっきりしない」
明美はわずかに目を見開き、そしてすぐ朗らかに笑った。
「わかったわ。死ぬときは玲ちゃんのそばで死ぬ。約束する」
――その言葉が私の死に様を決めることになるとは、このときは夢にも思わなかった。




