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明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第二部
57/174

56歳・6

 庭の近くにあるベンチにて、私はヘルメットを脱いで座っていた。


 邸宅には軍の人間らが出入りしており、軽く現場検証などを行っている。

 で、彼らが監視カメラを調べた結果、傭兵どもが互いを撃って集団自殺をした事実が明らかとなった。邸宅には他に誰もいないし、そのうえ、死体の中にはなんとゴドウィンも混じっていたのである。


 つまり、この件は完全に終了したということだ。

 『傭兵を一人も死なせずにゴドウィンを捕縛する』という私の作戦目標も、見事に失敗に終わってしまったわけだが。


 背もたれに背を預け、足を組み、盛大にでかい息を吐き出す。


「ずいぶん大きな溜め息ね、玲ちゃん」


 直に声が聞こえると思ったら、真横に明美が立っていた。こいつは忍者のように気配と足音を消せるから、気づけばこうして近くにいることが多い。


「そりゃ、不完全燃焼にもほどがあるからな。で、お偉いさんとの協議は終わったか?」


「ええ、一応。かなりの高評価だったわよ、そのスーツ。玲ちゃんが派手に暴れてくれたおかげね」


「だから暴れ足りないんだっつーの」


 再度溜め息を吐き、私はヘルメットを持って立ち上がった。そして死体が散乱している邸宅の方へ目を向ける。


「……結局なにがしたかったんだ、あいつら。そのへん、はっきりしたのか?」


「いいえ、まだ。玲ちゃんが捕らえた連中が回復すれば、詳細は聞けると思うけど」


「……いや、聞いといてなんだが、判明しても教えてくれなくていいや。どうでもいいし、知る必要ないだろ」


 そうね、と明美はサラリと答えた。

 一呼吸置き、顎をくいっと前へ向ける。


「じゃ、トラックへ戻りましょう。ここでの仕事は終わったわ」


 私は頷き、明美と並んで歩き出した。庭園迷路の外縁をなぞる形で、邸宅の外へと向かう。


「……さっきから凄いしかめっ面よ、玲ちゃん。機嫌悪い?」


 そう言われて、ようやく眉間に皺が寄っていることに気づいた。目をパチクリさせ、どうにかして顔の筋肉から力を抜く。

 そして今日何度目か知れない、大きな溜め息を吐いた


「はぁー……。死ぬなら私の関係ないとこで死ねってんだよ。後味悪いったらない」


 半ば独り言で呟いたのだが、それを明美は丁寧に拾う。


「意外と死生観は保守的なのよね、玲ちゃんって。死をすごく嫌悪してる」


「……別に普通だろ。死体なんて、見ないに越したことはない」


「そうなの? じゃあ、私も死ぬときは人知れず死のうかしら」


 私はすぐさま立ち止まった。

 つられて足を止めた明美に真正面から向かい合い、そして断言する。


「だめだ。お前は私の見えるとこで死ね。死に方はどうでもいいが、ともかく私の知らないところで死ぬな。そんな死なれ方したら、一生すっきりしない」


 明美はわずかに目を見開き、そしてすぐ朗らかに笑った。


「わかったわ。死ぬときは玲ちゃんのそばで死ぬ。約束する」


 ――その言葉が私の死に様を決めることになるとは、このときは夢にも思わなかった。

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