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明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第一部
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24歳・2

 日が落ちたばかりの夜空を、二機の軍用ヘリが駆ける。


 明美を捕獲――もとい、保護するという目的を達し、私たちは軍事基地への帰還の途についていた。

 しかし、事態収集の目処がついたものの、まだ解決には到っていない。明美の証言次第では、更なる作戦行動が必要となるだろう。

 なにしろ、事態が最悪の形で進行してしまえば、数百万人の死という未曾有の人災が発生してしまうのだ。


 こんな事態とあっては、さすがに私としても明美殺しを脇に置かざるを得ない。

 ……まったく、何ゆえこんなことになったのか。



 現状をわかりやすく整理すると、以下のとおりになる。


 1、今は亡きロシアの指導者プーチンは、自分のDNAを起動コードとする核兵器を所有していた。

 ↓

 2、旧ロシアの残党である過激テロ組織『エルデーペーエル』が、その核兵器を盗み出す。

 ↓

 3、エルデーペーエルは、核兵器を使用するためにプーチンのDNAの複製を試みる。

 ↓

 4、闇社会で名の知れた遺伝子研究者――明美に、エルデーペーエルが接触。

 ↓

 5、DNAの複製が完成したあたりで、明美は取引相手がテロ組織であることに気づく。

 ↓

 6、明美はアメリカ当局に通報し、複製血液とともに逃亡。

 ↓

 7、エルデーペーエルは明美の裏切りに気づき、追っ手を差し向ける。

 ↓

 8、CIAは人材をかき集めて急遽チームを編成し、メキシコ国内にて作戦行動を開始。

 ↓

 9、明美を護衛するマフィアたちとテロリストの追っ手が戦闘を始め、CIAのチームがその現場に急行。

 ↓

 10、CIAはマフィアとテロリストたちを一掃し、明美の確保に成功する。


 ――で、現在に至るというわけである。



 一言でまとめるならば、『やばいテロリストが核兵器を悪用しようとしている』といったところか。

 それに明美が深く関わっているがゆえに、明美の専門家(?)とみなされている私が、教官経由でCIAからスカウトされたのである。


 過去に散々嫌な思いをしたから、私は当初、国と仕事をする気はまったくなかった。

 しかし、「テロリストは大都市にて核兵器を爆発させるつもりでいる。君の助けがなければ、それは現実のものとなるかもしれない」と説得されれば、さすがに力を貸さざるを得ない。

 私は数え切れないほど大勢の人間を殺した大悪人だが、それでも人並みの正義感は持ち合わせているつもりなのだ。


 ……が、ほぼ初対面とはいえチームの仲間を四人も殺されたことで、私のやる気はどん底まで落ち込んでいた。

 明美を確保するっていう仕事は果たしたんだから、正直もう、帰って寝たい。核爆弾の起動に必要な血液もこっちの手にあるから、テロリストが核を使用することもないはずだし。

 隣に座る明美も、借りてきた猫のように大人しくしてる。そんなわけで、疲れでウトウトしていた私だったが……。


 突如、けたたましいアラートがヘリの中で響き、すぐさま跳ね起きた。


(これは――レーダー照射の検知音? ミサイルにロックされた!?)


『回避行動を取る! 各員備えろ!』


 ヘッドフォンの無線を通して、パイロットの大声が響く。

 大丈夫か? かわせるのか? かなり古い機体だから、フレアとかジャミング装置とか搭載してないんじゃないの?


 ビクつきながらも、とりあえず手すりをがっちり掴む私。だが、そこに隣の明美が顔をグッと寄せてきた。


「玲ちゃん、パラシュートはある?」


「あ、あるが……」


 状況次第では緊急の降下が必要になるとのことで、前もってヘリにはパラシュートが座席の下に用意されていた。

 そして直後、明美は驚きの行動に出る。

 私の返答を聞くなり、なんとヤツはためらわずにヘリから飛び降りたのだ。


「なっ!?」


 声を出して驚く私。止める間すらなかった。

 明美の所持品はすべて没収されており、当然パラシュートなど持ってない。つまり、このままならヤツは普通に地面に激突して死ぬ。


 アイツは自殺でもしたいのか? あるいは飛んできたミサイルに関係している?

 なんであれ、このタイミングで明美に死なれるわけには――。


 置かれた状況と自分がすべきことを瞬時に飲み込み、私はパラシュートを持って明美の後を追った。開け放たれたヘリのドアから、思い切って外に身を投げたのである。


(明美のこんちくしょうがぁーーっ!)


 脳内で絶叫し、突風による轟音と圧迫感に晒されながら、私は落下しつつも素早くパラシュートを着用していく。


 しかしそのとき、闇一色の視界に光が飛び込んでくる。瞬間、私は戦慄した。ヘリを狙っているであろうミサイルが、こともあろうに私の方へと飛んできていたのである。


 反射的に、私は上体を思いっきり逸らした。

 ミサイルは私の体をギリギリでかすめ、空気を切り裂く突風と破裂音を残して飛び去っていく。

 助かったが、安心している余裕など微塵もない。私はミサイルの行方を目で追いつつ、パラシュートの装着を即座に再開する。


 私を掠めたミサイルがヘリに近づくが、ヘリは絶妙のタイミングで横へとスライドし、回避に成功した。

 ホッとする私だったが、ぬか喜びだった。

 なんと別方向からもミサイルが地上から飛んできていて、一発目を回避した直後に二発目が迫ってきていたのである。


 果たして、二発目のミサイルはヘリに直撃してしまった。

 アクション映画で見たようなド派手な大爆発を起こし、ヘリは木っ端微塵となった。間違いなく、乗っていた人間はもれなく即死しただろう。


(マ、マジかよ……)


 とんでもない事態に全身から冷や汗を流しつつも、私はパラシュートの留め具を締め、雑ながらも装着を完了する。さて、次は――。


 ヘリのことは一旦忘れ、体を捻って地上へと視線を向ける。

 月夜だから、それなりに地上の荒野は見渡せた。かなりの高度を飛行していたから、パラシュートを開くタイムリミットには十秒から二十秒ほどの余裕がある。


 下方に目を凝らすと、明美が大の字になる形でバタバタと手足を動かしていた。そして突風の轟音にかき消されつつも、「玲ちゃーん!」と叫ぶ声が何度も聞こえてくる。

 このままだと墜落死するしかないから、さすがにヤツも必死なのだろう。少しいい気味だったが、かと言って助けないわけにはいかない。


 私は手足をたたんで空気抵抗を下げ、落下速度を上げた。

 ……正直、タイムリミットまでに明美をキャッチできるかどうかは、微妙だ。手間取るようなら、ヤツを見捨ててでもパラシュートを開くしかないだろう。


 夜の空を流星のごとく高速で落下し、明美に迫る。ゴーグルをつけてないから風圧で目が痛いが、我慢するしかない。

 体を弾丸のように縮めて速度を上げる私に対し、明美は体のバランスを取って位置の微調整を続けていた。――どうやらヤツにも、スカイダイビングの経験があるらしい。私の進行方向にピッタリ合うように横移動をしてるから、このままならスムーズに合流ができそうだ。


 互いの体が十数メートルに達したところで手足を開き、一気に減速。私は明美をキャッチする姿勢に入る。

 驚くほどスムーズに、私と明美は空中で抱き合った。すでに地上が近くに迫っているが、これならば十分間に合うだろう。


「開くぞっ!」


 私はパラシュートを開くことを明美に宣言した。

 二人の体は紐などで結ばれていないから、開いた傘に私の背中が引っ張られたときに、下手をすると明美は振り落とされてしまう。だから、明美にはしっかりと私につかまってもらう必要があったのだ。


 明美に痛いほどに抱き締められながら、私はバックパック底面の玉を思いっきり引いた。直後、こちらからも明美の体を思いっきりホールドする。

 まず小さい傘が開き、それに引っ張られる形でメインの傘が大きく展開した。発生した空気抵抗によって一気に体が上方向に引き寄せられ、明美を抱える両腕にも圧力がかかる。


 ――が、なんとか持ちこたえた。

 風を切るほどだった落下速度が緩やかになり、どうにか明美も振り落とされずに済んでいる。個人的にはためらいなく突き落としたいのだが、それは事情が許さない。私は我慢しつつも地面に目を向け、適切な降下場所を探すのだが――。

 スーハースーハーと、明美は私のうなじあたりに鼻を密着させ、狂ったように深呼吸を繰り返している。こんなときだってのに、コイツ……。


「あーっ! やめろ、うっとおしい!」


 私は二人の間に手を入れて、明美を突き放そうとする。


「ちょ、ちょ、玲ちゃん! やめて! 落ちちゃう!」


「だったらお前が匂い嗅ぐのやめろ! この変態化け物が!」


 ひと悶着あったものの、どうにかして明美に変態行為をやめさせ、私はパラシュートを操作してゆっくりと荒野へ降りていった。

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