??歳+324歳・3(裏)
干草によってウィニーが滅ぼされた後、私は玲ちゃんと協力して造化六花の人類を統治した。
レイ族は玲ちゃんに、アケミ族は私に心を奪われる本能を持っている。そのうえ私たちには既存の人類を超越した技術や力があったので、両種族を統べることはさほど難しくはなかった。
問題は、数百年後に訪れる世界の終焉だった。
この星系には二つの恒星があり、それらは徐々に距離を縮めていっている。ゆえに、恒星と恒星の間にある私たちの星が滅びることは、避けようもない必然だったのだ。
そうした死活的問題を解決するため、私と玲ちゃんは二つのアプローチを取った。
ひとつは、造化六花の人間すべてを星外へ脱出させること。もうひとつが、二つの太陽をコントロールして双方の間隔を元に戻すことだ。
後者の手段は、私の本体――人間の私と区別するために『イメカ』と名づけられた――が、ウィニーの残した情報を分析したことによって判明した。
連中は太陽の質量を操作でき、それによって重力変動を意図的に引き起こしていたのだ。私たちが住む星周辺の重力がおかしいのも、こうした処置が原因だと思われる。
二つの太陽と適切な距離が取れれば、私たちはこのまま星に住み続けられる。が、肝心の太陽の質量操作の手法が分からず、イメカの予想だと判明まで軽く百年はかかるとのことだった。
ゆえに、私たちは星外脱出による解決方法を主軸としつつ、それを『巣立ち作戦』と名づけ(命名は玲ちゃん)、人類統治と並行して押し進めていく。
およそ二百五十年前、太陽の質量をゼロにする方法が見つかった。が、できる操作はそれのみであり、不可逆的なため、問題解決とはならない。
とはいえ、太陽の重力が喪失すれば宇宙船を飛ばす難易度が極めて低くなるので、私たちはその手段で星を脱出することを本格的に目指していく。
七十年前、星間飛行用宇宙船の建造がおおよそ完了した。
造化六花に住まう人類すべてを収容し、宇宙の彼方へと運ぶ船であり、その全長は二千キロを超える。形は円盤状で、内部には造化六花(あるいは地球)と同等の環境が再現されており、居住区の外には山や湖も存在する。
映像投影によって空さえも本物と遜色なく、当然重力もあるため、あらゆる人間が不自由なく暮らすことができるだろう。
なにせ、候補となる移住先の星は気の遠くなるほど離れた場所にある。
短く見積もっても三百五十年ほどの移動時間が必要で、ゆえに宇宙船内に人類が生活できる環境を用意したのだ。
……実を言うと、私はそのやり方には反対だった。
レイ族とアケミ族すべてを連れて行くのはいい。
だが、果たして生活環境を用意する必要はあるのか。全員を冷凍睡眠させて詰め込めば、手間や空間が劇的に省けるというのに。
しかし、玲ちゃんが上に挙げた方法で巣立ち作戦を進めることを主張し、なんとイメカがその案に同調した。理想にかなった宇宙船の建造は、技術的にも資源的にも時間的にも可能であり、ゆえに民の暮らしを優先すべきだと。
私はもっと堅実にいきたかったが、そうして二人の説得に押され、折れたのである。
太陽質量をゼロにして星を脱出する方針が決まった後に、宇宙船の建造も始まった。
そうして百八十年をかけ、私たちは星間飛行用宇宙船――『新・造化六花』(これも命名は玲ちゃん)を創り上げたのである。
新・造化六花完成後、それまで公にしていなかった巣立ち作戦の詳細を、改めて民に開示。さらに、船内の生活環境や社会システムを早々に確立するべく、民の船への移住を急速に進めていった。
――このような経緯を経て、私たちは現在へと到った。
星に残っている人間は、すでに一人たりともいない。
大多数の民にとって、船の中での生活は当たり前のものだ。いまや、星生まれの者のほうが遥かに数が少ないのだから。
無数にあった問題点を改善し、新・造化六花の生活環境は完璧に近いものとなりつつある。あとは発進時の状況変化にさえ対応できれば、レイ族とアケミ族の暮らしは数百年安泰のものとなるだろう。
そしてついさっき、星の環境調整機構も停止させた。
今頃、造化六花の気温は軽く摂氏百度を超えているはずであり、もう地上に戻ることはできない。よほどの問題が発生しない限り、私たちはこのまま宇宙に飛び立つほかないのだ。
いよいよ、巣立ちのときが迫ってきた。




