表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第三部
174/174

??歳+324歳・4(裏)

「――というわけで、いよいよ出発のときがきた! 私たちは育った星を離れ、この新・造化六花とともに新天地へと向かう!」


 船の居住区は立体的な複層構造となっており、百階以上の階層を誇る無数のビルとそれらを繋ぐ橋が乱立している。

 そして、都市の中央には巨大な半透明の球があった。これは各種催しのために造られた集会場のような施設で、外殻内側には底から天頂までびっしりと観客席が設けれられている。


 その中心部に浮かび、玲ちゃんは民に向かって演説を行っていた。


「今日、このときのために、私たちは気の遠くなるほどの努力を重ねてきた! お前たちの母の母、そのまた母も同様だ! すべては造化六花の人類が生き残るためであり、その積み重ねがようやく形となる!」


 新・造化六花に住まう人間の数は一億人を越えているが、集会場の最大収容人数は二十八万人であり、当然ここにすべての民がいるわけではない。大多数は離れた場所から、立体映像やVRなどの形で玲ちゃんの言葉を聞いていることだろう。


 しかし演説も半分まできたので、そこから先は私の受け持ちとなる。

 玲ちゃんの隣に浮かぶ私は、打って変わって落ち着いた口調で民に語りかけた。


「不安を感じている子も多いと思うわ。けれど心配しないで。私と玲は、全存在をかけてあなたたちを守る。だから事前の取り決め通りに、落ち着いて行動してちょうだい。出発に当たって役目のある者はそれを全うし、ない者は安全な場所で航行が安定するまで待つこと。そうして各々が適切に動いてくれることを、私は切に望むわ。たったそれだけで、巣立ちは問題なく行えるはずだから」


 最初は玲ちゃんがボスで、私はその参謀という位置づけだった。

 しかしこの立場関係は、新・造化六花への民の移住が進むにつれて問題となる。二つの種族の距離が近くなると、『偉いのはレイ族』と思い込む一部のレイ族が、多数のトラブルを生むようになったからだ。


 ゆえに、私たちは『明美と玲は同等』とはっきり宣言し、以後は二人がともにトップとして人類を率いる体制となった。


「およそ半日後、新・造化六花はメインエンジンを点火し、出発するわ。同時に二つの太陽の質量をゼロにし、重力を消失させ、そして星の周囲を回って速度をつけた後、星を離れる。船内の人口重力にも多大な影響があるから、下手したら天井や床に勢いよく叩きつけられる可能性もあるでしょう。だから待機人員は絶対に屋外には出ず、指定された場所に居続けなさい。でないと、大事故に繋がりかねないわ」


 そんな私の言葉に、玲ちゃんがすかさず言い足す。


「つまり、お祭り気分で浮かれてルールを守らない人間は、普通に死ぬかもって話だ。お前たちを守る汎用粒子にだって、防げるダメージに限界があるからな。そこんとこ、肝に銘じておくように」


「厳かに過ごすことを勧めるわ。これは祝すべき巣立ちだけれど、同時に人類を育んできた世界との別れでもあるのだから。私たちが発った後、古い造化六花は滅びる。もう、そこには二度と戻ってはこれない。――だから、私としては喜びよりも悲しみのほうが大きいわ。あなたたちの祖先と過ごした思い出の地が、消えてなくなるということなのだから」


 玲ちゃんの演説中、聴衆には想定していた以上に熱があった。しかし先に述べたとおり、過度に浮かれる人間が出てくると事故が発生しかねない。

 なので、私がこうしてクールダウンさせたのである。


 良い意味で民のテンションが下がったことを確認し、私は演説を締めくくる。


「盛り下げることを言って、ごめんなさいね。でも数日後には安全が確保されているだろうし、そのときに改めてお祝いをしましょう。だから今しばらくは、巣立ち作戦に協力してちょうだい。皆の安全と無事こそが、私と玲がなによりも望むものなのだから」



 ――およそ半日後。


 私と玲ちゃんは星間宇宙船の屋根に座っていた。平たい円盤の外縁左端に当たる部分であり、足元では銀色の惑星がほのかに輝いている。

 当然、真空の宇宙空間にいるわけだが、今の私たちは普段の格好のままだ。肉体構造を変化させる術を会得しているため、いちいち特殊なスーツなど着用せずとも、問題なく真空に適応できるのである。


 仕事も落ち着いたし、出発の実務はそれぞれ担当者たちが担ってくれる。

 私たちはもしもの備えとして待機中であり、ゆえに数時間ぶりにこうして腰を落ち着けていたのだった。


『はぁ……やっぱり失敗だったわ。もっと盛り上げることを言えば良かった』


『まだ後悔してんのか』


 しょげている私に、玲ちゃんが呆れた視線を向けてくる。さすがに空気がないと声は伝わらないので、私たちは念話で話をしていた。


『だって、あの演説はきっと歴史にも残るわ。なのに私ったら、目先の都合ばかり考えて……』


『私のときはけっこう盛り上がってたんだし、いいだろ。全体のバランスは問題なかったと思うが』


『でも、それだと玲ちゃんばっかりイイとこ取りじゃない。私も格好つけて、民にキャーキャー言われたかった』


『……お前、ほんとに最近俗っぽくなってきたな。大丈夫か? ストレス溜まってんのか?』


『なによ。変化も良いことだって言ったのは玲ちゃんじゃない。なのに、それを否定するわけ?』


『いつの話か知らんが、変化を全肯定した覚えはないぞ。病気とか故障とか悪い変わり方だってあるし、私はそういうのを心配してんだ』


 互いに渋い顔をし、私たちはしばし見つめ合う。


 真空中に溜め息を吐き、私は続けた。


『…………ストレスは別に感じてないわ。ただ……昔の夢ばっかり見るのよ、最近。そのせいだと思う』


『……イメカはなんて?』


『思春期みたいなものだから気にするなって。数百年生きてりゃ価値観がゲシュタルト崩壊してもおかしくない、だから玲ちゃんとよく話せ――だそうよ』


『そうか。なら、当分はこうやって話す時間を増やすか』


『ええ、お願いする――』


 そのとき、私たち二人へと通信が入った。


『緊急事態ではありませんが、ひとつ報告があります』


『なに?』


 私が訪ねると、オペレーターの隊長は明朗な口調で説明する。


『進行ルート近辺を通過すると思われていた彗星が、一時間ほど前に消失しました。何の前触れも痕跡もなく、極めて不自然な消え方だったので、念のためにこうしてお知らせした次第でして』


『……そう、わかったわ。でも心当たりはあるから、大丈夫。その件は解決済みとして処理しておいて』


『了解しました』


 通信が切れたところで、玲ちゃんがしみじみと言った。


『干草がやってくれたっぽいな。よほどヤバイ彗星だったらしい』


『……まあ、そうなんでしょうね。今日は記念すべき日だから訪ねてくるかと思ってたけど……そっちで忙しかったのかしら』


 ウィニーを倒した後、『以後干渉しない』的な言葉を残して消えた干草。

 だが、意外にも彼女はちょくちょく現れた。単にお喋りをするだけだったり、動物の姿で子供たちと遊んだりと、宣言どおり直接的な助けは一切くれなかったが。


 しかし彗星を消したように、私たちではどうにもならない問題を干草は密かに処理してくれているらしい。

 ……これは、本当にありがたいことだ。

 本物の神に見守ってもらっているのと同義であり、彼女の庇護があれば私たちの繁栄は約束されていると言っても過言ではないだろう。


 と、船のエンジン点火のカウントダウンが始まった。これがゼロになると同時に、新・造化六花は発進することになる。


 私と玲ちゃんはしばし無言のまま、それぞれ船内カメラなどで民の様子のチェックを進める。

 ――さっきの厳しい演説が効いたのか、ヤンチャをしている人間はほぼいない。皆、大人しく室内で体を固定し、重力変動に備えている。


 カウントがゼロとなり、船の後部が凄まじい勢いで火を噴き始めた。

 船はかつての軌道エレベーターの終端部分に接続されていたが、すでに切り離しは済んでいる。発生した推進力によって船はするりと前進し、塔から離れ、星の周回軌道を進み出した。


 しばらくたって、二つの太陽の質量を喪失させるシグナルが発信される。

 途端、私たちと船を照らす光が消えた。周囲の宇宙空間は一瞬で真っ暗となり、船体の照明部分だけがぼんやりと光っている。

 造化六花を捕らえていた連星は、そのエネルギーを完全に失った。ガス燃焼による発光はもちろん、重力さえも消失している。


 星を回って勢いをつけ、いよいよ船はその軌道から抜け出す。今いる星系を抜け、はるか遠くの新天地を目指して。


 私と玲ちゃんは立ち上がり、遠ざかる雪の結晶形の大地を凝視する。光源は船のエンジンが吹いている火くらいだが、それでも輪郭程度はかろうじて認識できた。

 ふと、私の目から自然と涙が溢れ、星の方――こちらから見て前方へと流れていく。……自ら創世に携わったからか、私は星や大地そのものにも思いのほか愛着を感じていたらしい。


『そういえば、なんで雪の形だったんだ?』


 隣の玲ちゃんが訪ねてきた。表情に変化はなく、割と淡白な表情で造化六花を眺めている。前向きな性格だからか、彼女はさほど郷愁などは感じていないらしい。


『半分は偶然よ。陸地を造ったら雪の結晶に似ていたから、後からそれを意識して形を整えていったの。なんとなく……綺麗なほうがいいと思って』


『深い意味はなかったのか。まあ、私はけっこう好きだったが』


 星はぐんぐん遠ざかっていき、もはや隣の玲ちゃんの頭より小さい。数分とせず砂粒大となり、いずれは完全に見えなくなるだろう。


 船の様々な部署から無数の報告が上がってきており、一旦それらに目を通す。

 ――やはり、深刻な問題はひとつとしてない。どうやら、巣立ち作戦は成功に終わったようだ。


 玲ちゃんはぐっと伸びをし、やや脱力気味に呟く。


『さて……移住先の星まで三百五十年か。長いな』


『あくまで第一候補だけどね。それがダメなら、第二候補までさらに百年以上かかるわ』


 「なっげぇ」と愚痴る玲ちゃん。そして腰に両手を当て、周囲の星々を眺める。


『あとどれくらい生きるんだろうな、私たちは。レイ族とアケミ族が存続する限りは死なないって決めてるが……果たして、どれだけ先になるのやら』


『軽く数万年はかかるかもね。干草がいるから、不慮の事故で絶滅することもないだろうし』


 私は見えなくなりつつある造化六花に視線を固定しつつ、遠い未来に思いを馳せる。が、それこそ事故のような不運で滅びた上位存在を、ふと思い出した。


『でも、終わりはいつか来るわ。あのウィニーでさえも、あっけなく滅んだんだもの。――で、玲ちゃんはそれを望んでいるの? それとも望んでないの?』


『どっちだっていいさ、別に。私はやるって決めたことを最後までやるだけだ。その後は知らん』


 ……実に玲ちゃんらしい答えだ。

 きっと彼女は、その言葉を一切違えずに実行するだろう。たとえ数万年、数億年の時が流れようとも。


『でも……そうだな』


 顎に手を当て、玲ちゃんは何かを考えこんでいる。

 そして十秒ほど考え込み、「決めた」と呟くと、彼女は横に立つ私をじっと凝視してきた。思わず私も顔を玲ちゃんに向け、二人は見つめ合う形となる。


『いざ最期のときが来たら、また私がお前を終わらせる。この手でぶっ殺す。そうすりゃ、前回みたいに次があるかもしれないだろ?』


 突然の提案に唖然としつつ、私はどうにか答えを返す。


『……玲ちゃんは、まだ「次」が欲しいの?』


『欲しいね。方向はともかく、私はずっとどこかに進みたい。当然、お前と一緒にな』


『それは……もう決めたこと?』


『ああ、決めた。だから絶対に死んでも実行する』


 なら、その約束は必ず達成されるだろう。玲ちゃんは、そういう運命の元に生まれている。


 ――今ここに、私という存在を貫く新たな軸が生まれた。

 永遠を、玲ちゃんと共に生きよう。玲ちゃんに殺されるために。


 私はカニ歩きで横に一歩動き、玲ちゃんに体をピタリとつける。そしてのぼせた頭を傾け、彼女の肩に乗せた。


『そのときが、すっごく楽しみ。次はどうなるのかしらね、私たち』


『つまらんことにはなんないだろ。なんたって、私とお前だからな』


 玲ちゃんは手を私の腰に回し、ぐっと引き寄せてくる。


『そうね。そのとおりだわ』


 幸福感に全身で浸りつつ、私は心の底から同意した。先ほどまであった些細な悩みなど、もう跡形もなく消え去っている。



 ――愛する人と、その気持ちを保ったまま永遠に生きられるなんて。

 私は人類史上、最高に幸せな人間に違いない。


 新・造化六花は、真っ暗な宇宙を何にも妨げられずに突き進む。


 大勢の娘たち、そして死への希望に満ちた私と玲ちゃんを乗せて。



 <おわり>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ