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明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第三部
170/174

??歳・84

 ステージセット上空に辿りつき、ミドリ国軍の駐留地へと降りていく。

 地上に着地すると、すぐにレイ族たちがこちらへ駆け寄ってきた。先頭を切って走ってきたのはルミレイであり、彼女は息を切らして叫んでくる。


「レ、レイ様っ! 無事でございますかっ!?」


 妙に切迫した表情であり、私は首を傾げて答えた。


「なんともないが、慌ててどうした? なにかあったか?」


「そ、空が凄まじいことになっておりましたゆえ、心配しておりました。炎の球が無数に見えたり、赤と青の線のようなものが上空を覆い尽くしてたりと、まるで世界の終わりのようで……」


 明美との戦いの様子が、ここからでも見えていたらしい。


 ……さて、どう説明するか。

 明美のことはともかく、ウィニーや干草の存在を細かく語るわけにはいかない。なにせ、私でもさっぱり把握できてないのだ。

 レイランやティレ、メノウなどの主要面子も駆けつけてきたので、私はざっと話を考え、それを語った。


「――実は、邪神明美を背後で操っていた極悪な神がいてな。そいつと戦ってきた」


 その場の人間が、一斉に息を呑む。


「さすがにきつくて、私は敗北寸前まで追い込まれてしまった。が、そのとき私の故郷から、別の神が救援に来てくれたんだ。そのおかげで邪悪な神に勝ち、邪神明美を救うこともできた。……で、一件落着したから戻ってきたってわけだ」


 おお……! と皆は興奮し、感嘆の声をあげた(ティレやオボロなどの無口組は除く)。

 その中で真っ先にメノウが手を上げ、目を輝かせて発言する。


「し、始祖様! 是非そのときの様子を後で教えていただけますか!? これはもう、絶対に後世に残すべき出来事です! 詳細を細かく記録し、神話として語り継がなければ!」


「うん……まあ、そうだな。話せることは、後で話すとしよう」


 ……まずいな。メノウみたいな頭のいいやつに話したら、ボロが出かねない。後でイクマとかと相談し、設定をしっかり詰めておくとしよう。


「――あの、レイ様」


 と、おずおずとルミレイが声を出す。


「なんだ?」


「その……レイ様が塔にあると仰っていた『大切なもの』は、見つけられたのでしょうか? 我としては、それが気がかりで……」


 ……大切なものか。そういえば、そんな話をルミレイにはしたな。

 私は口端を持ち上げ、軽く頷く。


「ああ……見つかった。色々と手こずったがな」


「嬉しいわ、玲ちゃん。それって私のことよね?」


 耳元から声がして、私はびくりと体を震わせる。振り向いた先にいたのは、やはりというか、当然明美だった。

 コイツ……今の私にも気づかれずに背後に回りこむとは。いったいどうやったんだ。


「ま、苦労させたのは謝るわ。でも私は私で必死だったんだし、それでチャラにしてちょうだい」


「それはいいが……お前、イクマのマンガはどうしたんだ。読むのやめたのか?」


「いいえ。思考を加速して、もう一気に全部読んじゃったわ。で、しっかり分析と批判の言葉をあの子にあげてから、ここに来たの。ま、厳しく言い過ぎたからか、ちょっとフリーズしちゃってるけど」


 明美が指差した先には、イクマが普通に立っていた。が、体はプルプルと振るえ、白目をむいてゾンビのような表情となっている。……よほどキツイ評価をもらったらしい。

 しかし、一方の明美はやけにスッキリした表情をしている。


「でも、マンガを一気読みしたおかげで、いい気分転換になったわ。重い感情を捨てて、一歩踏み出す気になった。……玲ちゃんの言うとおり、どうにもならない連中のことを考えても仕方ないものね」


「……そうか」


 まあ、気持ちが上向いてくれたのなら、それに越したことはない。私の中の明美はいつも飄々としていたから、ヤツの落ち込んだ姿を見てると、無性にそわそわして仕方なかったし。


「ってわけで、しばらく自由に過ごすことにするわ。彼女たちとも仲良くなりたいし」


 明美はぐるりと回りながら、周囲を手で指し示す。


 ――気づいていたが、私の周りにいたレイ族は皆、例外なく数歩下がって固まっていた。突然現れた明美の存在に、度肝を抜かされてしまったらしい。あるいは、その顔を見てなにかしらの本能が刺激されたのか……。


 さて、コイツをどう皆に紹介すべきか。

 などと考えていたら、突如、明美が大声で叫び出した。


「はい、レイ族の皆さんこんにちはっ! 私が邪神明美で~すっ! そしてぇ!」


 パンッ、といきなり明美は私にビンタをかました。今の私には痛くもかゆくもないが、普通の人間なら思わず顔を押さえるレベルの強さだろう。


 直後、周囲の人間たちが一斉に明美に襲い掛かった。中には剣を抜いている者もいる。

 ――懸念していたとおり、明美に殺意を抱いてしまったらしい。遠巻きで見ていた兵たちも殺到しているから、もうメチャクチャなことになっている。

 大勢から刺されたり殴られたりしつつ、明美は恍惚な表情を浮かべて叫んだ。


「ああっ! いい、いいわぁ~! 往年の玲ちゃんの殺意が、四方八方からっ!」


 ………………。


 まあ、いいか。私が失ってしまった殺意を、レイ族の皆から存分に受けてくれ。

 殺しにかかってる連中は同士討ちをしそうな勢いだが、明美は上手くあしらって怪我人が出ないようにしてるから、そこまで問題もないだろうし。


 とはいえ、殺意の本能が薄いルミレイやメノウまで明美に襲い掛かってるのは、少しショッキングだ。完全耐性があると思っていたオボロまで、困惑しながら殴りかかってる。

 やはり明美はアケミ族の始祖だから、レイ族に促す殺意も桁違いらしい。


 ……やっぱり、さすがに見てられなかった。

 私は少々強引に明美をレイ族から引き剥がし、ヤツの体を抱えて空へ飛び上がる。そしてジェットを吹かして二十メートルほどの高さまで来ると、一気に急降下して、人のいない離れた地面へと明美の頭を叩きつけた。


 アスファルトに頭から腰のあたりまで埋まり、明美は奇怪なオブジェと化した。

 こちらを凝視しているレイ族一同に向かって、私は声を張り上げる。


「皆、落ち着け! こいつは殺しても死なん! ゴキブリのようにしぶといヤツだから、殺意を向けるだけ無駄だ!」


「――玲ちゃん、この世界にゴキブリはいないわ」


 地面に埋まりつつ、くぐもった声で明美が注釈を入れてきた。そういえば、見たことなかったな……。


 ともかく、こちらに向かってくる人間はいない。

 明美の顔が隠れたからか、私が強力な一撃を入れて溜飲が下がったからか、ゴキブリという未知のワードに面食らったのか、なんであれ彼女たちは正気に戻ってくれたようだ。


 私は一息つき、摂政の名を呼ぶ。


「レイラン! 意識はあるか!」


「……ぁ……は、はいっ! 申し訳ありません! 私としたことが、殺意に飲まれてしまうとは……!」


 謝りつつ、レイランは私の方へ走ってくる。そんな彼女に私は手早く命令を出した。


「引き上げる準備を始めてくれ。もう、ここに用はない。さっさと大府に帰るとしよう」


「承知いたしました。しかし……なんというか、そこに埋まっているアケミ族はどうなさるのですか? 軍に同行するとなると、また先ほどのような……」


「大丈夫だ、私がなんとかする。お前は考えなくていい」


「はっ! では、早急に帰還の準備を整えますので、しばしお待ちを」


 そうしてレイランは踵を返し、方々に手早く指示を出していった。


「……驚いたわ、玲ちゃん。ずいぶん指導者が様になってるのね」


 明美は地面に埋まったまま、足をプラプラさせている。すぐに出られるはずだが、顔をレイ族に晒さないよう配慮しているのかもしれない。


 私はヤツの隣に腰を下ろし、小さく溜め息を吐いた。


「王様みたいだろ? でも、意外としっくりくるんだ、これが。この世界の人間全部を娘って思ってるからかもしれんが」


「元から、玲ちゃんには素質があったと思うわよ。行動力と決断力が並外れてるし、細かいことに揺らがないから、大勢を引っ張るのにもってこいの存在だもの。ただ、政治や部下の使い方は下手そうなんだけど……いいブレインでもいたのかしら」


「いや、全部私がやってた。っていうのも、干草が統治者マニュアルみたいのをくれたんで、それを参考にしてどうにか仕事をこなしてきたんだ」


「……そんなおせっかいもしてたのね、地球からの助っ人さんは。――ともかく、これからは細かいことに腐心する必要はないわ。玲ちゃんの補佐は、私がきっちり務めてあげるから」


 私は地面からにょっきり生えている足を、まじまじと見つめる。


「わかった。なら、これからは私がレイ族とアケミ族を支配する王になる。お前はそれを裏から支えてくれ」


「了解。――いいわね。ちょっとワクワクしてきたわ。実は生前から、玲ちゃんをトップに据えれば面白い組織ができるんじゃないかって、一人で妄想してたの。夢のひとつが叶うわ」


「言うまでもないが、遊びじゃないぞ。私たちにはタイムリミットがあるんだ。星が滅ぶ問題を、三、四百年以内になんとかしなきゃならないんだから」


「だいじょうぶ、きっと解決できるわよ。私とあなたが組めば、できないことなんてないもの。でしょ?」


「……そうだな」


 明美は半身が埋まったまま、ちょっとしか動かない腕で拳を作り、こちらへ差し出してきた。私はそれにこつんと拳を合わせ、答える。


 ――パズルのピースが、かっちりはまったような感覚だ。

 今なら、ヤツが言ったとおりなんでもできる気がする。迫りつつある滅びも、まったく怖くはなかった。


 寿命がない以上、長い仕事になるだろう。あるいは、終わりなどないのかもしれない。

 だが、明美となら永遠を生きたっていいし、事実そうなる気がする。少なくとも、レイ族とアケミ族の行き着く先くらいは、死んでも見届けなきゃならんし。


 私は自然な流れで明美の手を握った。ヤツも、足だけが地面にでている状態ではありつつ、握り返してくる。

 コイツとの日々が数億年続くのも、まあ、悪くはない。

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