??歳・77
数千人の兵たちは、天幕手前に集合していた。
そして空から降りてきた私を見て、彼女たちは一斉に地面に膝をつく。おそらく、そんな感じに出迎えるよう、レイランが前もって指示していたのだろう。
兵たちの正面に降り立つと、すかさずルミレイが駆け寄ってきた。
「レイ様、もう黒の御柱に向かわれますか?」
「ああ、すぐに行く」
他に用はないし、こうも見送りのために集まられてちゃ、それを無碍にするわけにもいかない。
側にレイランもいたので、顎でこちらに来るよう合図を送る。彼女は弾かれたように走り出し、私のそばにきた。
「レイラン。私はこれから塔に向かうが、正直なにがあるかわからん。もしかしたら、長期間帰れなくなる事態も起こりかねない。だから、私が明日の朝までに戻らなかった場合は、先に帰っててくれ。食糧にも限りがあるしな」
そう指示を出すと、レイランは眉根を寄せつつ慇懃に返事をする。
「……あなた様を伴わず帰還するのは心苦しいですが……承知しました。そのときはミドリ国へと戻り、先んじて部隊を解散させておきます」
「頼んだ」
すると、ルミレイが私の正面に回りこみ、あらためて膝をついた。こちらを見上げる顔には、晴れ渡った青空のごとく爽やかな笑顔を浮かべている。
「レイ様。ようやく黒の御柱へと赴かれるのですね。あなた様の大切なものがあるという、神の領域へ」
「……そうだな。一年もかかってしまったが」
この世界で目覚め、ルミレイたちと出会い、本当に色々なことがあった。
明美の待つ塔に行くために、遠回りや寄り道をしすぎてしまったかもしれない。だが……その苦労と手間が、ようやく報われる。
イクマの態度からするに、ヤツはろくでもないことを企んでいるのかもしれない。
だが、それでも、どんな形でも、明美に再会できるのは素直に嬉しかった。
「いってらっしゃいませ、レイ様! 我ら一同、あなた様の帰還を心よりお待ちしております!」
ルミレイはにっかりと笑い、そう言った。後ろの兵たちも次々とそれに続く。
「いってらっしゃいませ!」
「お早いお帰りを!」
「始祖様に栄光あれ!」
場は歓声と拍手に包まれ、ここにいる誰もが私を快く送り出そうとしてくれていた。
……まったく。一匹狼だった私が、こうも盛大な見送りをされるようになるとは。
自らの数奇な人生にいまさらながら苦笑しつつ、私は軽く手を上げて一同に謝意を伝える。
「では、行ってくる!」
それだけ言ってスーツのスラスターを噴射し、一気に上空へと飛び上がった。
そして眼前に聳える黒い塔を眺め、あそこにいるであろうヤツに向けて呟く。
「――待ちくたびれたか? でもお前が言ったんだからな、子供たちを助けてあげてって。私はその約束を果たした。だからいい加減、お前が隠してることを教えてもらうぞ」
瞬時に加速し、私は塔へと全速力で向かった。




