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明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第三部
159/174

??歳・73

 無数のコンクリート片で埋まった階段には、千人以上の人形兵が殺到していた。この下に向かうには瓦礫を撤去しなければならないが、その前に彼女らを一掃する必要があるだろう。


 私はため息を吐き、激重激長バットでそいつらをなぎ払った。一度の打撃で、数十人の頭が吹っ飛ぶ。


(はぁー……、やだやだ。こんな、まとめて害虫駆除するみたいなやり方……)


 気が滅入る。

 感情も痛みも持たず、寿命は数日という人形兵たちだが、彼女たちを雑に殺しまくるのはきつかった。だからこそ、さっきは丁寧に一体ずつ頭を潰してたのだが……。


 しかし、この選択肢が最良なんだから、しょうがない。

 階段の下では敵との戦いが続いているかもしれないのだ。娘たちがピンチに陥ってるかもしれないし、一刻も早く駆け付ける必要がある。


 私は心を押し殺し、ジェットで地面すれすれを飛び回りながら、そうして人形兵たちを処理して回った。



 一分半ほどでその場の人形兵を殲滅し、階段を埋め尽くしているコンクリート片の撤去作業に取り掛かる。激重バットを手放し、私は素手で瓦礫をポイポイ後ろに放り投げていく。


 スーツの人口筋肉の力が上乗せされているからか、瓦礫の撤去作業はすいすい進んだ。自分が通れるだけの隙間ができたところで、その中へと急いで飛び込む。



 階段内部はそこそこ広く、床から天井までは五、六メートルはある。

 私はその天井すれすれを飛び、驚く兵たちの頭上を突き進む形で奥へと向かった。


 進みながら気づいたが、皆に混乱や恐れはなく、落ち着いている。向かう先からは戦いの物音なども聞こえてこないし、どうやら状況は収束しているようだ。


 一応そのまま飛び続け、巨人の姿が見えたところで私はジェットパックを逆噴射させた。空中でブレーキをかけ、そのまま階段へと着地する。


「し、始祖様っ!?」


 最寄りにいた兵士が驚いて声をあげ、その場の人間が一斉にこちらを振り向く。

 ライフルを持った兵たちに、ティレ、味方の巨人たちがいて、奥にはゾンビめいた巨人の死体が散乱していた。

 壁際では一人の巨人が腰を下ろし、メノウによって手のひらに包帯を巻かれているようだが……。


「ティレ、状況を簡潔に説明しろ」


 私が命じると、彼女はすぐに答えた。


「攻めてきた敵はすべて倒しました。現在二人の巨人が階段下にて、敵の増援を警戒しています。こちらに死者はなし。重傷は巨人一名のみで、軽傷は十数名です」


 実にわかりやすい報告を聞き、私は心の底から安堵した。どうやら、死人なしで乗り切れたらしい。そして手で口元を隠し、小声で尋ねる。


「……イクマ、これで終わりか?」


『はい。私は主要戦力をすべて喪失しました。外周区画には二百人ほどの人形兵が残っていますが、それらを自動行動に切り替えます。あなたがたの勝利です』


 ふぅー……、と、ようやく安堵の息を吐いた。

 仕切ってた本人が負けを認めたのだから、この戦いは終わりだ。戦闘態勢を完全に解いて問題ないだろう。


 私は汎用粒子に命令し、パワードスーツの具現化を解除した。黒い鎧がふわりと無数の粒子と化し、溶けるように消えていく。

 続けて、周囲を見渡しながら大声を出した。


「皆、安心しろ! 敵戦力はほぼ壊滅し、増援もない! 戦いは我々の勝利に終わった!」


 一拍置き、歓声が広い階段内に響き渡った。


 安全地帯だったここに奇襲がかけられたのだから、その場にいた人間は生きた心地がしなかっただろう。巨人人形兵の死体は十体もあるし、相当な激戦が繰り広げられたに違いない。

 最初にここにいた非戦闘員も、駆けつけた巨人や兵士たちも、本当によく頑張ってくれた。


「お、おい、レイ様よ。壁から出てきたドでかい敵はどうなったんだ? すげぇ地響きが何度も聞こえてきたが」


 巨人の一人が心配そうに尋ねてきたので、私はさらりと答える。


「大丈夫だ、ちゃんと倒した。顔面を一発ぶっ叩いただけだが」


「……ハハ、マジかよ。あれを倒しちまうか」


 笑うしかない、といった表情を巨人は浮かべている。

 ざっと互いの状況確認を終えたところで、私は負傷している巨人の元へと向かった。


「アマリリス。お前がやられるとはな」


「……ああ。自分でも情けない」


 彼女はぐったりと壁に寄りかかって座っているが、言葉ほどに意気消沈している様子はない。すると、怪我の手当てをしているメノウが声を荒げた。


「こ、この方は、私を庇ってくださったんです! 敵の巨人が投げた大斧を、素手で受け止めてくれて――」


「お前さんだって、気絶したやつを必死に引っ張ってたじゃないか。弱いのに、懸命に戦っていた。そうした勇気ある者を救えたのなら、戦士冥利に尽きるといったものだ」


「アマリリスさん……」


 なるほど。どうやら名誉の負傷ってやつだったらしい。


「二人とも、よくやってくれた。おかげで死者を出さないっていう私の目的も、なんとか達成できた」


 私が礼を言うと、メノウとアマリリスは照れ臭そうに笑った。

 こうして巨人と共闘できたのは、この戦いの最大の収穫かもしれない。彼女たちは普通のアケミ族とは一線を画しているし、今後のレイ族との関係は良好なものとなるだろう。


 すると、「レイ様!」と私を呼ぶ声があった。レイ族で私をそう呼ぶのは、今のところ一人しかいない。


「ああ、無事でなによりでございます! とんでもない激闘だったとお聞きしたゆえ、心配しておりました!」


「お前も怪我はなかったようだな、ルミレイ」


 声をかけると、彼女は嬉しそうに何度も頷く。


「はい! レイ様や兵たちのおかげで、かすり傷ひとつありませぬ!」


「けど、ルミレイさんも手柄をあげたんですよ」


 横からメノウが言った。


「下の異変に真っ先に気づいて、退避を皆に促したのが彼女でしたから」


「ほう、そうなのか」


 ルミレイは仰け反るように胸を張り、にんまりと笑った。


「なっはっは、さすがはレイ様! 我に手柄を譲ってくださるとは、お心が広い!」


「へ?」


「十数分前、『階段下方に気をつけよ』と、突如我の頭の中であなた様の声が響きました。ゆえに我は急いで確かめにいき、防壁が崩されかけている事実に気づいたのでございます。神の力の一端が戻られたゆえ、声を遠方へ飛ばすことが可能となられたのですね!」


 ……たぶん、イクマの仕業だな。

 おそらく、ガチの奇襲だと大勢の死人が出るから、ルミレイに警告を与えることで対応する猶予を与えたのだろう。


 なんて返事しようか考えていたら、待っていた人間がようやく来た。


「始祖様、ご無事でなによりです! まったく心配はしておりませんでしたが」


 ルミレイと同じで真逆な発言をしてきたのは、レイランである。私はすぐさま彼女に命令を下した。


「レイラン、まずは全員を地上に出そう。敵は上にも下にもいないから、警戒は一切しなくていい。階段の入り口はでかい瓦礫でほとんどふさがってるが、それは私がこれからどかすから、その後で――」


「む、そういう力仕事なら我々に任せてくれ」


 横から口をはさんできたのは、巨人たちだった。


「でかい石をどかせばいいんだろう? あんたがやるような仕事じゃない」

「そうそう、アマリリス以外は元気だからな。敵がいないなら、他にやることもないし」

「……本当は皆、上の巨大な敵の死にざまを見たいだけなのですがね。よろしいでしょうか? レイ様」


 私は苦笑しつつ答えた。


「わかった。なら、でかくて重い瓦礫だけでいいから、片付けてくれ。その後は自由に行動していいが、あんまり遠くには行かないでくれよ? 今後のことも話したいし」


 巨人たちは良い笑顔で頷き、階段をずんずんと登っていった。


「ってことでレイラン、巨人たちがでかい瓦礫をどかしてくれるから、その後に小さいのを兵たちに処理させてくれ。最低でも、馬車が問題なく通れるくらいには」


「承知いたしました。始祖様はどうなされますか?」


「私は最後に怪我人と一緒に行く。下からの奇襲に怯える人間もいるだろうしな」


「姉妹たちへのご配慮、痛み入ります。では!」


 軽く会釈し、レイランはティレなどと一緒に階段を走って登っていった。

 それらの背中を見送り、再びルミレイが口を開く。


「そういえば、そろそろレイイートの軍が来る頃ではございませぬか?」


「だな。ま、人形兵の小さい集団がちらほら残ってるみたいだから、レイイートにはそいつらの処理を任せるとしよう」


「なんとご寛大な。戦功を譲って差し上げるとは、レメレニアとやらは泣いて喜ぶでしょうなぁ」


「あと、サファを受け取りに行かなきゃいかん。そいつらと一緒に来るはずだから」


「あのアホウは役に立ったのですか? 何ゆえアケミ族の長にあれを任せたのか、我はよくわからんのですが」


「うーん……ただの嫌がらせに終わっちゃったかもな……」


 先が分からなかったからレメレニアの精神に負荷をかけようとしたのだが、この状況なら一切その必要はない。むしろ、逆に貸しを作ってしまったかもしれない。

 ……なにかで埋め合わせでもするか。

 このままじゃエメが言っていたとおり、二国間関係にこれまで以上の亀裂が入ってしまう。


 私は壁に背中から寄りかかり、レメレニアの機嫌の取り方をのんびりと考えた。

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