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明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第三部
158/174

??歳・72

 左右から迫る敵の大部隊に射撃を敢行し始めてから、およそ二十五分がたった。


 視認による大雑把な計算だが、その銃撃によって敵人形兵の一万二千人ほどを仕留めている。

 四万人まではもう少しだが……残念ながら、倒しきる前に自軍の弾が尽きそうだ。二つの部隊はどちらも階段手前まで後退しており、すべての兵が残弾ゼロとなるまで十分とかからないだろう。


 私の汎用粒子による空の送風機は、いまだ維持できている。

 あれから五回ほど車弓巨人の襲撃があったが、それらに銛をぶち込みながらも、問題なく送風機は回り続けた。あと十分程度なら、苦もなく持続できるはず。


 一応、順調とは言える。


 火縄銃の部隊はいい働きをしてくれているし、死人はおろか怪我人さえ一切出ていない。

 やはり、味方の巨人が敵大部隊の弓兵を先んじて排除してくれたのが大きかった。おかげでこちらが遠距離から一方的に攻撃し続けることができ、これほどの大規模戦闘にもかかわらず死者を出さずに戦えている。


 ただ、懸念はあった。車弓巨人が来るペースが、明らかに落ちていることだ。

 これまで倒した敵巨人は四十五人であり、あと十人残っている。大部隊同士の戦いが始まってからはほとんど姿を現していないし、これはもう温存しているとしか思えない。

 通常サイズの人形兵は残り数千人のはずであり、もう戦いは終盤に入っていると考えていいだろう。

 となると、最後の最後でその十人を一気に投入してくるのだろうか? パドックの上から周囲を観察するに、正面はもちろん、左右の大部隊の後ろにも巨人の姿は見えないが……。



 突然の知らせが入ったのは、そうして敵の最終戦力を推し量っていたときだった。


「始祖様っ! 階段から――階段の下から敵がっ!」


「なにっ!?」


 報告に来た部隊長の知らせに、私は正面への監視も忘れて振り向いた。


「ま、まだ突破はされていません! しかし、敵の死体で築いた防壁に何度も衝撃が来て、おそらくは今、敵が突破を試みている最中かと!」


 まさか――巨人!? 最後の十人はそちらに回したのか!?


 どうする? 私が行くべきか?

 だがそれだと、まだ地表に車弓巨人が残っていた場合、地表にいる部隊が犠牲に――。


 突如、真後ろから鈍い轟音が響いた。遠くにでかい隕石でも振ってきたかのような衝撃であり、私は思考をぶった切られて反射的に振り向く。


 はるか彼方――中間区画へ到る大壁を突き破り、化け物が出現していた。


 蜘蛛じみた無数の足があるものの、上半身は人間で、全身は鉄色。身長は大壁の軽く二、三倍はあるから、東京タワーくらいには高いだろう。


 そして、私はようやく思い出した。イクマが、「玲様でも手こずる超大型サイズの人形兵も出します」みたいなことを言っていたのを。

 忙しすぎて完全に忘れていたが――あれが、その超大型サイズのやつか!


 複数の足を連動して動かし、デカブツは滑るように移動を開始した。

 当然、まっすぐこちらに向かってきてるが、パッと見そこまで速くはない。二十キロほど先にいるから、ここに到着するまで早くても十数分はかかるだろう。しかし――。


 まずい。非常にまずい。

 あれは私が一人で戦うしかない敵だ。あんなのと戦闘を行えば周囲の地面がめちゃくちゃになるし、味方が近くにいれば高確率で巻き添えが出てしまう。


 かといって、階段への奇襲に対処しないわけにはいかない。緊急度も危険度もそれが一番高いし、放置すれば確実に大勢死ぬ。

 通常人形兵の大部隊も、まだ左右合わせて二千人は残っている。火縄銃部隊が弾切れまで粘ればあと半分は減らせるだろうが、果たしてその戦闘を継続させるべきだろうか?


 頭を全力でフル回転させ、私は現状の最適解を必死で探し出す。


 三秒ほどで結論を出し、私は仲間たちに向かって大声を張り上げた。


「アマリリス! 巨人全員を率いて階段に向かってくれ! おそらくそっちから巨人が来る! ティレは狙撃隊を率いてその援護を! その他の人間は全部、あとから階段の中へ退避! 入り口を私が崩して敵が入れないようにするから、その近辺からは離れるように!」


 一同はその指示を聞き、すぐさま動き出した。

 六人の巨人が一斉に階段へと全力疾走し、ティレ率いる狙撃隊がそれに続く。

 火縄銃の部隊とその予備隊は計四千人近いが、レイランや部隊長たちがうまく取りまとめ、戦闘を行っていない者から順次階段の中へと駆け込んでいった。


 私はまだ動かない。

 可能性は低そうだが、車弓巨人が現れないとも限らないからだ。前方への監視を続け、味方がすべて階段の中に逃げ込み次第、行動を開始するとしよう。


 完全に忘れてたせいか、汎用粒子による送風機は消えてしまっている。この力を使えば、もっといいやり方があるのだろうが……娘たちの命がかかっている以上、不確実な方法に頼るわけにはいかない。私にできることを、着実にやっていかねば。



 十分が経過し、兵たちの階段内への退避が完了した。火縄銃部隊が最後まで粘ってくれたので、敵大部隊の進軍速度はさして速くなっていない。


 階段下に人がいないことを確認し、私はその周囲の壁や屋根を激重バットで破壊していった。一分ほどかけて通路を瓦礫で埋め尽くしたので、通常の人形兵ならばよほど時間をかけて掘り進めなければ下へは侵入できないだろう。


 一息つき、視線を南――塔の方へと向ける。

 蜘蛛っぽい超大型人形兵は、すぐそこまで迫ってきていた。近くなったから、山のような巨体のでかさが嫌でも分かる。例えるなら、『東京都庁並みの建物が変形して動き出した』といった感覚だろうか。

 ともかくとんでもない大きさであり、あれとこれから自分が戦うという事実がピンとこない。


 しかし……イクマの話によれば、あのデカブツは半分機械で半分人間らしいが、どうも信じられない。辛うじて人の原型が上半身に見られるとはいえ、アケミ族がベースなのかどうかも不明だし、どう考えても人間の域を逸脱しまくっている。

 まあ、化け物じみているおかげで、躊躇なく殺せそうではあるが。


 床が抜けるかもしれないので、階段付近で戦うわけにはいかない。できれば残った敵大部隊の掃討をしたかったが、その暇はないだろう。


 なので、とりあえず私はその場を離れ、ずっと待機していたパドックの屋根へと戻った。そして置いてあった車弓巨人の矢――銛を手に取り、それを連続でデカブツ目掛けて投擲する。


 相手までの距離は軽く二、三百メートルを越えており、銛は軽く弧を描く軌道で敵の腹のあたりへ向かっていく。だがその攻撃は、ガキィィンという金属音とともに弾かれた。

 投げた五本はそうして立て続けに跳ね返され、デカブツの複数の脚に当たりながら地面へと落ちていった。


 ……硬い。

 やつの体は全面を金属質っぽい物質に覆われているのだが、あれは見た目どおりの硬さのようだ。


 となると、直接頭部に攻撃を加えるしかないか。

 目や鼻、口といった器官はなく、あの中に脳があるのかも不明だが、他に弱点は見当たらないのだ。とりあえずは頭を攻めるとしよう。


 しかし高い位置にあるから、銛は投げても頭に届かない。やるなら私が直接登って、激重バットでぶったたくしかあるまい。

 叩き潰すにしても、全力フルスイングを何回当てればいいのか、見当もつかないが。


 激重バットを持ち、パドックの屋根から右に飛び降りる。まずは、やつが私を優先して狙うのか、それとも無視して真っ直ぐ進むのかを、見極めなければならない。


 右斜め前方に向かって走り続けると、デカブツは明らかに私の方を向いて足を止めた。そして無数にある足の一本を振り上げ、それをこちらへ勢いよく振り下ろしてくる。

 すかさず真横に飛び、どうにか私はその攻撃をかわした。

 威力としては、十階建てビルの屋上から小型クレーンを落とした程度――といったところか(昔、当たりかけたことがある)。


 ともあれ、デカブツが私を狙っていることははっきりした。こちらを無視して階段を攻められるのが最悪のパターンだったので、それを回避できたのは良かったと言えるだろう。

 ……いや、こいつはイクマが操ってるはずだから、そこまで悪辣なことはしないか。


 再びの足降ろし攻撃を避けつつ、私は目の前の巨大な化け物に意識を集中させる。

 階段下から奇襲を仕掛けてきた敵は、他の人間がどうにかしてくれるだろう。そっちの心配はとりあえずしなくていい。今はもう、このデカブツをできるだけ早く倒すことだけを考えるべきだ。


 近くのパドックに飛び乗り、そこからさらに敵の足を経由して頭部へと向かおうとする。

 が、足の一本に飛び移ろうとしたら、タイミングよくその足を超高速で持ち上げられ、私は思いっきり蹴っ飛ばされる形となってしまった。


 上空に数メートル打ち上げられたものの、どうにか空中で姿勢を整え、地面に両足で着地する。

 後ろに飛んで敵の追撃を避け、再び別のパドックの屋根へと飛び乗る私。


 ……ふむ、困ったな。敵の上に乗れない。


 頭に直接攻撃を食らわせたいのに、ひとっ飛びではそこに届かない。

 高度的に敵の足部分を足がかりにして登るしかないが、それをやると超反応キックで迎撃されてしまう。


 蹴られるのを覚悟で足にしがみついて、そこから這い上っていけばいけるか? いや、それだと長い腕のほうで対処されそうだな……。叩き落とされるだけならともかく、握り締められたらまずい。死にはしないだろうが、力の強さによってはそのままずっと拘束されてしまうかもしれない。


 三本の足が同時に振り下ろされたので、私はすぐさま後方へと飛び退く。パドックの天井は容赦なく踏み潰され、音を立てて崩れていった。


 よし……汎用粒子を使うとするか。

 まださっぱり使いこなせてないが、うまくいけば一発で敵の眼前にいける。一か八かで飛び乗るのを繰り返すより、よほど時短になるだろう。


 そんなわけで少々距離を取り、敵を正面に見据えて精神を集中する。


 ――さて、どうするかな。

 さっきみたいな送風機をイメージするか? もっと小型で威力の強いものを具現化できれば、私の体を上空百メートルくらい浮かせられるかもしれない。

 じゃあそんな物体を頭に思い浮かべて――。


『玲様、提案なんですが』


「うおっ」


 いきなり声がしたので、驚いてしまった。


『具体的なイメージがいいとは言いましたが、まだまだ抽象的です。もっとはっきりした現実の物体を思い浮かべてください。例えば、手触りや重さを想像できるような、身近な道具などを』


 デカブツの追撃が来たので、真横に飛んでどうにか回避する。


「お前……攻撃するのかアドバイスするのか、どっちかにしてくれよ」


『そうしたら、また談合とかやらせとか言って、玲様のやる気が削がれちゃうじゃないですか。こっちだって色々複雑で難しいポジションなんです。理解してください』


「そ、そうか……」


 イクマはイクマで、『やりすぎないよう苦戦を演出する』という課題を抱えている。

 勝手にやってることだから私が考慮してやる必要はないのだが、たぶんそれなりに苦労してるのだろう。

 なら、後で労ってやるとするか。――もちろん、こちら側に死者が出なければの話だが。


 デカブツの妙に勢いを増した踏みつけ攻撃をかわしつつ、私はイメージを膨らませる。

 ……手触りや重さを想像できるもの、か。

 それってつまり、私が使った経験のある道具とかだよな? けど、空を飛べる道具なんて縁が……。


 いや、あった。うってつけの装備があるじゃないか。


 ジェネレーターが私の思念に反応し、勢いよく粒子を放出する。それは私の体にまとわりつき、黒い鎧を形成していく。


 ――かつて宇宙や月でテロリストと戦ったときに装着していた、黒いパワードスーツ。

 気づけば、私の首から下はその装甲によって覆われていた。背中をチラリと見ると、やはりジェットパックも再現されている。だったら――。


 私の指先の操作と脳波イメージを受け取ったようで、ジェットパックの推進機関が一気にガスを噴出した。重力が反転したかのごとく私の体は宙に浮き、みるみるうちに加速していく。


 軽々と十数メートルの高さまで来たところで、正直私は焦った。かつてのパワードスーツには、ここまでの飛行能力はなかったからだ。今は激重バットも持っているというのに。


 スーツの重量感は変わらないから、おそらく推進力が桁違いに高くなっているのだろう。よく見れば細部にけっこう違いがあるし、そもそもヘルメットがない。

 というか、イメージだけでこんな複雑な機械がポンと出てくるのは不自然なのだが……まあ、今はどうでもいいか。


 デカブツが手を振り上げ、ハエを叩くかのように私を攻撃してきたので、さらにジェットを噴かして軽くよける。

 性能を確かめるために空を適当に飛び回るが、まるで無重力下にいるかのようだ。加速や制動は実に滑らかで、自由自在と言っていい。

 まさに今、私はアイアンマン並みの飛行能力を手に入れたのだ。


 こちらが手の届かない上空にいるため、デカブツは私を見据えたまま沈黙している。遠距離攻撃手段は持っていないらしい。

 ――なら、さっさと終わらせるとしよう。


 私は再び汎用粒子のイメージを練りこんだ。シンプルな内容だからか、今度もジェネレーターは即座に反応してくれた。

 右手に持つ激重バットに粒子が集まり、金属の棒がぐんぐんと伸びていく。質量も増してるようだが、それに比例して背中のジェット噴射の勢いも増していった。


 長さ二十メートルほどになった激重バットを携え、私は一旦後方へと飛ぶ。そして十分な距離を取ったところで、デカブツへと一直線に向かった。

 全力噴射を命じているためか、とんでもない重さの武器を持っているにもかかわらず、ジェットの加速が凄まじい。音速に達していてもおかしくない速さだ。


 弾丸のような勢いで空を駆け、私は伸ばした激重バットをデカブツの顔面へと叩きつけた。

 ――跳ね返ってくる、重々しい金属質の手応え。


 一旦上空に上がって見下ろすと、敵は太い首が九十度後ろに折れ曲がり、顔は中央からぐにゃりと激しくへこんでいた。まるで、中身すべてが金属の塊だったかのような破壊痕だ。

 そして、デカブツは轟音を立てて崩れた。

 蜘蛛のような無数の足をめちゃくちゃに折り曲げ、人間の形をした上半身は後ろに仰け反る形で倒れる。


 まともな生き物じゃないから、どう死亡判定すればいいかわからず、私はそのまましばらくデカブツを空中から見下ろした。


 ……ピクリとも動かない。

 死んだということでいいのだろうか? トドメの差し方も分からないから、これ以上どうしようもないのだが……。


 ま、いいだろ。動き出したら動き出したで、そのときに対応すればいい。

 私は方向を変え、味方の兵たちが篭る階段へと全速力で向かった。

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