??歳・71
ジープに乗ったゾンビ巨人(そのまんま車弓巨人と命名)は、その後も定期的にやってきた。
しかし、あちらがでかい矢を放つ前に私が同じ物をぶち込んだので、先ほどのように兵が危険にさらされることはなかった。
同時に三体の車弓巨人が来たときは肝が冷えたが、それらも先制攻撃で潰せたので損害はなし。余裕がなかったため二体をヘッドショットで殺したので、味方の巨人の楽しみを奪う形となってしまったが。
ただ、現状には大きな問題がひとつある。
それは、私が車弓巨人の到来を警戒するために、周囲への監視を余儀なくされることだ。つまり、他の敵は他の味方に倒してもらうしかない。
この時点で、『すべての敵を私が倒す』という選択肢は非常に取りづらくなった。それをやるなら警戒する必要がないように、『巨人以外の味方をすべて安全地帯の階段に押し込める』という戦法を取らなければならないからだ。
そして通常の人形兵の数は徐々に増加しているため、いよいよ兵が使う矢や弾が心許なくなってきた。
弓矢と槍で戦っていた左右の隊は、すでに火縄銃オンリーの編成に切り替えている。湯水のように使ってきたせいか、矢はすでに切れてしまった。
現在、正面からの敵を担当するのは、狙撃隊ではなく巨人たちだ。弓矢持ち通常人形兵を先んじて倒しにいっていた巨人らが戻ってきたので、車弓巨人への対処ともども、彼女たちに前方の敵すべてを任せていた。
嬉しい誤算だったのが、こちらの巨人が敵の通常弓兵を殲滅してきてくれたことだ。小集団にいたのはもちろん、大部隊の後方に控えていた弓兵さえも徹底的に仕留めてきてくれたらしい。なんでも、「全然反撃してこなかったから、作業のように潰しまくった」とのこと。
もしかすると、イクマが「大部隊に弓兵をつけるのはやりすぎかも」と判断し、あえて巨人たちに倒させたのかもしれない。
弓兵が一人でも残っていたら厄介なので、斥候を出してその確認をする必要はある。が、ともあれこれで大部隊との戦いが凄まじく楽になった。火縄銃の部隊は盾を構えなくていいから、攻撃に全力を注げるだろう。
昨日イクマから聞いた話が正しければ、通常人形兵の数は約四万で、巨人人形兵の数は五十五体のはずだ。
で、今現在、前者は二万五、六千ほど、後者は三十三体を討伐している。
最初の戦闘中の会議から二時間半ほどが過ぎたが、倒したのは全体の半数ちょいといったところか。
あちらの大部隊がもうじき到着するから、それで一気に残敵を減らせるだろう。が、レイイート軍が到来する前に倒しきれるかどうかは微妙だ。イクマは「ぎりぎりを攻める」とか言っていたから、不可能ではないと思うが……。
敵の大部隊は左右に完全に別れており、壁際から迫るそれらはすでに一キロほどの距離にいる。
迎撃には大量の火縄銃を使う予定であり、すでにそのための編成は終えていた。右と左で二千人ずつの部隊となっていて、予備隊も含めればほぼすべての兵が参加することになると思う。
敵の数は膨大なので、ここまで節約してきたとはいえ、火縄銃の弾が足りるかどうか不明だ。足りない場合は巨人たちに任せるか、兵を全員階段内に避難させて私が掃討するしかない。
弾を使いきったところで敵の数もわずかなら、槍でトドメを差させてもいいが……さすがに危険か。
ともあれ判断が難しいところなので、随時状況をよく見て指示していくしかないだろう。
正面にて車弓巨人二体による襲撃を乗り切ったとほぼ同時に、左右から迫る敵の大部隊がこちらの射程距離に入る。
そして、火縄銃による一斉射撃が始まった。
左右の自軍部隊には、『最前列の百数十人ほどが同時に弾を放ち、撃った者は列の最後尾に回って弾を込めなおす』という戦術を実行させている。それを繰り返せば、ほぼ絶え間なく射撃を続けられるだろう。
このやり方だと、少しずつ着実に部隊は後退していく。そして敵は恐れを知らない人形兵なので、どれだけ仲間が倒れようと前進をやめない。
双方はおそらく同じくらいの速さで移動し続けるので、距離を保ちたいこちらとしては都合がよいと言える。
後退するにも当然限度があるが、階段手前までくるあたりでちょうど弾がなくなるよう、計算してあった。その時点で敵がどれだけ残っているかは不明だが、ともかくあとは階段の中に逃げ込めばいいだけので、こちらも無駄がない。
私とメノウが別々に計算し、ほぼ同じ結果が出たので、この距離設定に大きなズレはないはずだ。
車弓巨人への警戒を続け、耳をつんざく無数の銃声音を聞き続けること、およそ三分。
ようやく、私はひとつの誤算に気づいた。
火縄銃は発射の際に黒煙を出す。が、あまりにそれが同時発生したために、火縄銃部隊周辺が煙で覆われてしまったのだ。
これは良くない。実に良くない。
左右に展開している味方はもちろん、その奥にいる敵部隊さえも、私から見えなくなってしまうからだ。微妙な判断を必要とする状況だというのに、こうも視界が悪くては、戦況の把握ができなくなってしまう。
すぐに思いついた解決策は、汎用粒子を使うことだった。
夜の低地を渡ったときのように大量の空気を操れれば、溜まった黒煙など簡単に上空へと散らせるだろう。
しかし、今はそのときと違ってイクマのサポートがない。やるなら、私が単独で汎用粒子を操らなければならない。
前方を警戒しつつ、私は必死にイメージを練った。大量の風がぶわっと吹く情景を思い描き、それを強く念じる。
……が、うまくいかない。
ジェネレーターは反応しているようだが、風が発生する気配がまるでなかった。
さらに歯をぐぎぎと噛み締め、額に青筋が浮くほどに力を込めるものの、それでも手応えはなし。
苛立ちと焦燥感に駆られていると、頭の中で声が響いた。
『……玲様、見てられないのでアドバイスをします』
イクマの声にハッとし、私は耳を傾ける。
『おそらくあなたの場合、もっと具体的な物体をイメージしたほうがやりやすいと思います。この場合なら、とてつもなくでかい扇風機とか、そんな具合に』
……でかい扇風機か。なら、それを出現させたい場所をしっかり目で見ないとダメだろう。
「イクマ、今だけ正面から攻めないでくれるか? 今だけでいいから」
『……しょうがないですね。一分間だけですよ』
確約を得たので、私はすぐさま振り向いた。
そして黒煙が溜まっている二つのエリアの右側を凝視し、そこの上空に巨大な扇風機がある様を思い描く。羽のプロペラが何枚かあって、それが水平にぐるぐる周り、空気を上へと押し流していく――そんなイメージを。
頭の中で、スッと何かが通る感覚があった。
光る粒子が空気中を川のように流れ、脳内で扇風機を思い浮かべている場所へと向かっていく。
それらは実際にプロペラの形を取り、そして回り始めた。直径二、三十メートルほどの扇風機――というか送風機が超高速で回転を始め、下の空気を上へと一気に送り込む。
――できた。うまくいった。
銃から発生した大量の煙が、みるみるうちに上空へと吸い込まれていく。周辺の視界が一気にクリアになり、驚いている兵たちの顔さえもはっきり見えた。
しかし、喜んでばかりもいられない。もう軽く二十秒ほど過ぎたし、まだ左側の部隊の黒煙がたっぷり残っている。
私は右の扇風機を維持しつつ、左側にも同じイメージを膨らませた。
これまで手こずっていたのが嘘のようにそちらも成功し、粒子の巨大な送風機が出現した。地表に溜まった煙が急激に吸い出され、上空へと放出されていく。
左右の上空に現れた巨大送風機を維持するため、私は頭の中の変な感覚を必死に覚えこんだ。
見なくてもいいように目をつぶったりして慣れ、汎用粒子を操る流れを意識に染み込ませる。
ある程度維持できる見込みができたので、私は思い切って視線を正面に戻した。もう約束の一分を過ぎているし、煙よりも敵の巨人が投げてくる銛の対処のほうが重要だったからだ。
汎用粒子の感覚はまだ、左右それぞれに伸びている。とりあえずは問題なく機能し続けているらしい。
ふーっ、と息をついてリラックスしつつ、私は集中力を維持した。
まだまだ前方からは敵が来るだろうが、そいつらを処理しつつも、後ろの送風機のことを忘れちゃならない。凄まじく難しいが、徐々に慣れてきたし、今の私の高性能な脳ならきっとできるだろう。
今もさっきも、左右の部隊は火縄銃の連射を続けている。
娘たちの働きに報いるために、私も踏ん張らなければ。




