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明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第三部
156/174

??歳・70

 十数人の人形兵へ、ミドリ軍が放った矢が隙間なく浴びせられる。

 弱ったそいつらへ槍を持った兵士たちが慎重に近づき、トドメを差していく。


 私たちが拠点としている階段周辺――その左右では、現在そうした旧時代的な戦いが行われていた。銃の弾薬を節約するため、あえて弓矢と槍によって敵を処理していたのだ。


 経験の少ない兵ばかりだが、敵が小さくまとまってくれているため、とりあえずはうまくいっている。槍持ちには熟練兵を当て、死に掛けの敵の反撃に注意するよう徹底させているし、今のところ負傷者はいない。

 この調子なら矢が尽きない限り、安全な戦いを続けられるだろう。


 正面から来る人形兵は私が担当していた。

 と言っても、巨人たちから譲り受けた激重バットでひたすらに敵の頭をホームランするだけなので、まったく苦はない。普通に槍で攻撃されるが、直撃しても私の体には傷ひとつつかないし、ほとんど無視して吹っ飛ばしまくっている。


 ――人形兵に痛覚があるのかは、不明だ。ないとは聞いているが、なんかの間違いで痛みを感じる個体がいてもおかしくはない。

 ともあれ、こうして頭を一撃で潰せば、苦痛に襲われる間もなく一瞬で死ねるだろう。そう思えば、ある程度は心を痛めずに殺せた。

 ゾンビめいた顔をしていても、やはり娘(っぽい相手)を殺すという罪悪感が完全に消えはしなかったが……。


 そうして向かってきた敵を連続で倒し、ひと段落すると、後ろから私を呼ぶ声が聞こえてきた。


「始祖様! 階段の封鎖作業が完了しました!」


 品のある声の響きからして、レイランだろう。私は次の敵が遠くにいるのを確認し、彼女の方を向く。


「うまく塞げたか?」


「はい。幅の広い階段ですが、馬車の荷台や敵の死体を積み重ね、どうにか。とはいえ、戦いが進んでさらに人形兵の躯が増えているようなので、作業を続行したいと思うのですが、いかがでしょう」


「そうだな、念には念を入れよう。じゃあ死体を階段へ運ぶ作業を続けてくれ。状況が変わるまでは、それをずっと継続して構わない。ただ、さっきも言ったが安全第一で頼む」


「はっ! 承知しました!」


 張りのある返事をし、レイランは走ってその場を去った。


 今現在、私たちは階段の中を安全地帯として、非戦闘員などを待機させている。

 だが、外周区画から低地へと通じる出入り口は複数あり、そうした道を経由すれば、敵が階段の下から攻めてくることは十分ありえた。


 ゆえに、私は階段途中を障害物で埋め尽くすことで、そうした奇襲を未然に防ぐ策を考えたのである。

 手が空いている者は多いし、帰りは別の道を使って低地へ降りればいい。階段を塞ぐための物資――敵の死体は次々増えているし、この作業をやらない理由はなかった。



 作戦を変えてからおよそ三、四十分後、派遣した斥候たちが帰ってきた。

 彼女たちの報告によると、やはり奥に進むほど敵の密度が高くなっているらしい。弓兵がそれに比例して増えてくることも然り。

 だが最奥に控える大隊に大きな動きがあり、なぜか左右に真っ二つに分かれて進軍しているとのこと。

 Yの字を上下逆さにしたコースで二手に別れたようで、正直、私には意図がわからなかった。真っ直ぐこちらに来ない理由も、せっかく集めた部隊を二つに分散させた理由も、見当がつかない。


 一番ありえるのは、大部隊の後ろにさらなる戦力を隠しているパターンだ。例えば、これまで一人も出てきていない巨人の人形兵とか。斥候たちは大部隊手前までしか偵察できなかったらしいので、その可能性は決して小さくない。



 私は再び指揮官級を集め、そうして斥候たちの報告を聞きながら作戦を練っていた。正面の敵は二人の巨人に任せているので、なにも心配はない。


 が、そうして次の対応策を練っているときだった。私の耳が、大きい物体が高速で迫ってくる音を突如捉える。


 バッとその方向を振り向くと、目でもそれを確認できた。

 ――矢だ。

 長さ三メートルはあろう巨大な矢が、斜め上空から思いっきりこちらへ飛んできていたのである。

 落下予想地点を目で追い、ぞくりとした。このままでは、階段近くに待機している予備隊のど真ん中に落ちてしまう。


 私はすぐさま全速力で駆け出した。

 約二百メートルを七、八秒で駆け抜け、部隊手前で一気に飛び上がる。そして落ちてきた矢を、体当たりするかのような勢いで空中キャッチした。


 兵を踏みつけないよう地面に着地し、あらためて矢――というか銛を凝視する。

 そう、大きさと見かけは、漁で大魚を仕留めるのに使うような銛に似ていた。だが全体は金属製であり、おそらく重さはニ、三十キロは下らない。とてもじゃないが、普通の人間に扱える代物ではないだろう。となると――。


 視線を陣地正面に戻すと、三、四百メートル前方にでかいシルエットが見えた。

 目を凝らし、それが昨日私が乗ったジープのような車で、上には一人の巨人がいることに気づく。凄まじくでかい弓を持っており、やつが今の銛を撃ってきたのはあまりにも明白だった。


 こちら側の巨人が雄たけびを放ちながらそれに迫るが、敵の乗る車は真横に進路を変えてスピードを上げたので、追いつけない。

 一方で、車に乗る巨人は高速で運ばれつつ、弓を天に向けて構えた。二射目を撃ってくる気らしい。


 私はどうするべきかを把握し、さっきの銛を持ったまま部隊の人混みを駆け抜ける。そして前方に誰もいなくなったところで、全力で銛を敵目掛けて投擲した。


 私が投げた銛は地面すれすれを一直線に突き進み、巨人が乗る車に見事に直撃した。

 それで車は大破したようだが、直前に敵は矢を放ってしまっている。空を弧を描いて進むそれは、右の部隊へ落ちるコースを辿っていたため、私は再び全力ダッシュで飛び出す。


 さっきと同じようにして矢――もとい銛をキャッチし、私は被害を未然に防ぐことに成功した。


 破壊した車の方を見ると、そちらへ味方の巨人二人が猛然と向かっていっている。

 敵の巨人は健在で、残った銛を弓につがえようとするが、こちらの巨人の攻撃のほうが速かった。どでかい斧が遠くから投げられ、それがゾンビじみた巨人の上半身に突き刺さったのである。

 二人の巨人もすぐさま追いつき、死に掛けている敵は入念にトドメを差された。


 私は鹵獲した銛を手に、会議をしている場に急いで戻った。


「レイラン、狙撃隊を集めて正面に回せ。今からは、正面から来た普通の人形兵はそいつらに処理させる」


「はっ!」


「ティレはその部隊の指揮だ。同じような車の敵が来た場合、また味方の巨人に戦ってもらうから、彼女たちに弾を当てないよう徹底しろ」


「承知しました」


「他の部隊長は、それぞれの部隊に密集しすぎないよう伝達してくれ。飛んでくる矢はすべて私が防ぐが、着地する場所がないと兵を踏んづけてしまうかもしれん」


「はい!」

「御意にございます!」


 私が手を叩くと、彼女たちは一斉に動き出した。さらに、私は前方へと声を張り上げる。


「リリーっ! ガーベラっ! 車に積んである敵の矢を持ってきてくれっ!」


 名を呼ばれた巨人二人はこちらへ戻りかけていたが、私の指示を聞いて車の方へと戻る。

 そして、すぐに銛を持って戻ってきた二人に、私はそれらを受け取りながら再度指示を出した。


「さっきみたいのがまた来たら、初手は追いかけなくていい。私がこいつをぶっ放して車を破壊するから、その後で敵の巨人を仕留めに向かってくれ」


「オーケーだ。面白くなってきたな!」

「ふふ。こちらに残って正解でしたね」


 巨人の二人は実に嬉しそうな顔をしている。

 ――実を言えば、車ではなく敵の巨人そのものを狙っても、ほぼほぼ命中させられると思う。

 が、でかい車のほうが確実だし、味方の巨人に武勲を立てさせたいという気持ちもある。とりあえずは、車狙いで問題ないだろう。


 ……しかし、イクマめ。


 今のどでかい矢の攻撃は、なかなかに危なかった。私が気づいて防げなければ、高確率で死人が出ていたに違いない。

 ともあれ、あいつが本気なのはわかった。気を抜けば、本当に味方に死者が出てしまうだろう。


 私は入手した五本の銛を持ち、近くのパドックへと飛び乗った。

 車のゾンビ巨人の射程は不明だが、おそらく私のほうが長い。だからあちらが撃つ前に見つけられれば、先制攻撃で潰せるはずだ。


 周囲には大筒型の建物が無数に並んでいる。私は神経を集中し、そうした光景をひたすらに見据え続けた。

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