??歳・66
とてつもない吹雪が吹き荒れる中を、私とアマリリスは小走りで進む。
場所はステージセットの台地の外、北西に位置する高地への道中。
『夜間は低地全域が極寒の嵐に包まれる』という現象を、私は自分の身でもって体感していた。
高度はほぼ海抜で、だだっ広い平野だから、寒さと風の強さは半端ではない。
吐いた息が瞬時に凍りつくくらいだから、マイナス四、五十度を軽く越えているのではなかろうか。
さらに、吹き荒れる風には思った以上に水分が含まれており、すでに全身がびしょ濡れだ。常に体を動かさなければ、あっという間に凍って動けなくなってしまうだろう。
一番冷たいのは足元だ。元より足首までが浸かる浅瀬なのだが、ここの水は海と同じ不凍液ゆえに、凍りつかない。そのためこの極寒の中で水に浸からなければならず、自然、体温も下がる。なんの対策もしてない私は、すでに靴の中は完全に水浸しとなっていた。
常人なら、宇宙服レベルの重装備がなければ数分で凍死しかねない状況であり、どう考えても人が住める環境ではない。これまで人類が低地を徹底的に避けてきたのは、至極当然と言える。
ただ、地獄のような環境なれど、周囲の風景は美しかった。
猛吹雪の中には銀色に輝く粒子が大量に混じっており、地上の惨状とは対照的に空は快晴。
そのため白い雪風と銀の粒子が太陽に照らされ、まるで光の奔流の中にいるかのようだった。
レイ族の一部地方には、余命幾ばくもない人間はあえて低地に赴いて自殺する――という風習がある。
書物でそれを知ったときはドン引きしたものだが……この神秘的な風景を見て、認識が変わった。なにせ、この光の流れに乗れば魂が天国的な場所にたどり着きそうな気が、私でさえもするのだ。人々が同様の思いを抱くのは、なんらおかしくないと言える。
たぶん大丈夫だろうと高をくくって普段着のまま来たが、とりあえずは問題なく耐えられている。服が半ば凍りついてパリパリで、靴が水を吸って重く、走りづらい程度か。
息をずっと止めているので、仮面の内側――まつ毛などは凍り付いておらず、視界にも問題はない。
隣のアマリリスも、さほど重装備ではない。撥水仕様っぽいレインコートとブーツを着用しているくらいで、普通の人間なら凍死しかねない低温環境を平然と耐えている。
さすがに呼吸は止められないようで、顔全体には霜がついているが。
吹雪は一貫して南から吹いており、北に向かっている私たちは常に背中を押される形となっている。ゆえに、たいして力を入れずとも速く走ることができ、体力の消耗はほとんどない。
突風のせいで声が流れるため、私たちはずっと無言のまま進む。
アマリリスは方向感覚に自信があるとのことで、彼女についていけば問題なく目的地に辿り付けるだろう。
そのようにして約三時間、私たちは低地の吹雪の中を突き進んでいった。




