??歳・65
行きに四時間ほどかかった道のりを三十分で駆け抜け、私が乗る車は巨人たちの元へと到着した。
「レイ様! やったのかっ!?」
こちらが車から飛び乗るなり、アマリリスが叫ぶように尋ねてきた。空の光の網目模様が消えているから、彼女たちはそれで施設の異変に気づいたのだろう。
私は仮面を装着し、頷いて答える。
「ああ、ゲートキーパーはもういない。レイ族とアケミ族は以後、争いを強いられることは一切ないだろう」
「――そうか。セキュリティが解除されたから、事態が大きく動いたのはわかっていたが……あんたの口から聞けて、ようやく安心できた。……解放されたのだな、私たちは」
心底安心したようで、アマリリスは天を仰いで大きく息を吐いた。他の巨人たちも同様で、中には涙を流している者もいる。
再びこちらを向くと、アマリリスは片膝をついて頭を垂れてきた。
「あらためて、レイ様に最大限の敬意と忠誠を捧げよう。やはり、あんたは神だった。あのゲートキーパーを倒すだなんて、あまりにも偉大すぎる。その場に立ち会えた私たちは、歴代の巨人の中でもっとも幸運だと言えるだろう」
他の巨人も同じく跪き、口々に私を称える。
「ああ、マジですげぇぜ! 世界を支配する化け物を倒しちまうなんて!」
「きっと、凄まじい激闘だったのだろうな。おそらくは神話を思わせるほどに」
「なあレイ様、あたしたちが渡した武器は役に立ったかい? それなら、死んだ私たちの同胞も報われるってもんだが」
そう問われ、私は頭をフル回転させた。嘘はつきたくないので、事実と矛盾しない言い回しを必死に考える。
「…………そうだな。あれは重みが凄くて、持っていて実に安心感があった。武器として頼りがいがあったよ」
車の座席の脇に載せていた激重バットを取り出し、掲げてみせる。
「そうか! そりゃあよかった!」
私の言葉をいいように解釈し、巨人たちは喜んでくれた。
……気が重い。
民の統治においても、こんなあからさまな嘘などついたことはなかった。根掘り葉掘り聞かれたら、いつか絶対にごまかしきれなくなるだろう。その前に、もっとうまい言い訳を考えておくべきかもしれない。
「ところでレイ様、よく車を動かせたな。それはゲートキーパーじゃなきゃ操作できなかったのに」
「ん? ああ……実は、どうやらやつの力の一部を奪えたらしいんだ。で、色々できるようになった」
私は車の方を向き、後ろに手をかざした。無人の車はすぐにバックし、私が手を上げると同時にストップする。
おお~、と巨人たちが感嘆の声をあげた。
「凄いじゃないか! ってことは、ステージセットの施設すべてを操れるのか?」
「……どうだろうな。今はまだ、なんとも言えん。少なくとも、人形兵の制御はできないようだが」
「そうなのか。それができれば、だいぶ楽になったはずだが……いや、簡単な機器を操れるだけで、十分凄いか」
『――玲様、他に何か操作して見せますか? たとえば後ろにある大きな門とか』
頭の中に声が響いたので、私はかすかに首を横に振った。
『わかりました。やめておきましょう』
その答えを聞き、ホッとする。
すでに状況をごまかすのに精一杯なのだ。あまり派手にやりすぎると、ボロが出そうで怖い。
――というわけで、イクマは今、人間の姿をしていない。
ここに到着する前に体を粒子に分解させ、例のビー玉のような金属球――ジェネレーターに収まっているのである。
最初はびっくりしたが、その状態でも汎用粒子とやらを操り、電子機器の操作や他者の鼓膜を震わせて声を伝えるといった行為ができるらしい。
ゲートキーパーとイクマの関連性が悟られたらまずいので、私たちは話し合い、当分はこの形でいくことにした。
ジェネレーターを私が所持していれば、問題なくイクマは力を発揮できる。なので、汎用粒子を用いるだけならば、差し当たりは問題なく働いてくれるだろう。
私は巨人たちに向き直り、話を戻した。
「で、肝心の人形兵だが、これから約半日後に施設から放たれるらしい。見境なく人間を攻撃するよう命令されているから、なんとしても私らが殲滅しなくちゃならん」
その言葉に、アマリリスは息を呑む。
「……半日か。なら多少の余裕はあるが、どうする? 当初の予定どおり、普通の人間たちとともにここで戦うのか?」
「ああ、そうしたい。それと巨人タイプの人形兵もいるようだから、そいつらはお前たちに任せたいと思う。大丈夫か?」
「もちろんだ! ゲートキーパーとの戦いで役に立てなかったぶん、暴れさせてもらおう!」
巨人たちはそれぞれ喜び勇み、気合を入れている。
――もう戦争は起こさせないつもりだから、彼女らがまともに戦うのはこれが最後となるだろう。戦士としての誇りを満たし、悔いを残させないためにも、アマリリスたちには重要な局面を任せたいと思う。
当然、だからといって死なれては困るが……そのへんは後でイクマと話し合うとするか。
「よし、それじゃあ私はレイ族たちの元へと戻る。お前たちはどうする?」
そう尋ねると、まずアマリリスが答え、後に他の巨人が続いた。
「私はレイイート軍のところへ行く。話したとおり連中には借りがあるから、ゲートキーパーが倒された事実を伝えなければならん」
「アマリリス以外はここに残るぜ。といっても、勝手に戦いを始めたりはしないから安心しろ」
「そうそう。ボスはあんただからな」
「人形兵が一斉に襲い掛かってこない限りは、レイ様が戻ってくるまで待機していると約束しましょう」
それらの言葉を聞き、私は頷く。
「わかった。じゃあ一旦別れるとしよう。というわけで、しばらく一緒だ、アマリリス。私もレメレニアに会いにいかなくちゃならんからな」
「了解した。――今、低地には骨も凍えるほどの吹雪が吹き荒れている。ともにその嵐を乗り越えていくとするか。朋友たちに、これ以上ない朗報を届けるために」
まずは低地へと降りるべく、私とアマリリスは門を通って北へと向かった。




