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明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第三部
134/174

??歳・48

 雪の結晶の形をしている造化六花だが、レイ族はその上の部分(一陸)全体と左上の部分(六陸)の東端を領土としている。


 つまり、六陸の右端以外はアケミ族の領土なのだが、その国は大陸中央や右部分に住むアケミ族とは別個の国であり、伝統的に戦を好まない。

 ゆえに長い歴史において、あちら側から攻め込まれたことはほとんどなかった(こっちから攻めて反撃にあった経験は、幾度もあるらしいが)。


 エメやレイランたちと話し合い、私はまず、この国の長にコンタクトを取ると決めた。平和と安定を国是としているようだから、レイ族とアケミ族を束ねて治めるという私の理念に、多少は耳を傾けてくれると判断したためだ。



 エメを送り出すことが決定してから、およそ一週間後。


 六陸におけるレイ族領土とアケミ族領土の境には、渦巻状の山脈がある。山と谷の高低差が大きく、山間部と低地が交互に折り重なるという複雑な地形であり、ゆえにその一帯は住みやすいとは言えない。そうしたことからアケミ族もここには深く侵入せず、互いの領有権は曖昧なままとなっている。


 そんな辺鄙な場所――ミドリ国の端の端、山のふもとに私はいた。

 隣にはサファとレイラン、そして目の前には干草に乗った旅装のエメがいる。


「んじゃ、ちょっくら行ってきます」


「ああ、頼んだ。けど、くれぐれも無茶はするなよ。お前に死なれるのが、私にとって一番の損失なんだからな」


「了解っす!」


 私の激励に、エメははにかんだ顔で答えた。当然、アケミ族の領土に入るのだから、今は仮面をつけていない。

 そんな彼女に、レイランは穏やかに言った。


「エメよ。始祖様に次いでレイ族を治める者として、僕も君の健闘と無事を祈るよ。あれこれ懸念の声はあったが、君はそうした雑音をものともせず、始祖様の期待に応えようとしている。僕はそんな君に、素直に敬意を払いたい。だから戻ったら、是非酒でもおごらせてくれ」


「お酒かぁ。あんま飲んだことないんで、初心者に優しいのを用意しておいてください。もちろん、高級なやつね」


 エメの軽口に、レイランはフッと笑う。


「いいだろう。君を評価し、かつアケミ族への殺意が薄い人間はけっこういるから、そうした者たちと一緒に飲み交わそうじゃないか」


 レイ族とアケミ族がこうして談笑をするのは、私にとって実に喜ばしい。

 だが、いい場面に横から水を差すやつがいた。


「お酒って、あんなクソまずいの、どこがいいんですかね。酔っ払いもバカみたいだし、臭いし、わざわざ一緒に飲む意味なくないですか?」


 当然、サファである。


「――サファおばさん、空気!」


「あっ……よ、読めてなかった?」


「ぶち壊してたよ」


「そ、それは失礼しました。まことにごめんなさい、レイさん、レイラン様」


 ぺこりとサファは頭を下げる。レイランは眉と眉を寄せているが、気に障ったのは空気云々ではなく、別のところのようだ。


「僕は別に構わないが、しかし君の始祖様への呼び方はどうにかならないのか? アケミ族だから始祖様と呼べないのはわかるが、名前呼びにしても敬称はしっかり使ってくれたまえ」


「えっ、でもレイさんがそれでいいって……」


「レイ族の前では、普通に様付けのほうがいいんじゃないか、とも言ったがな」


 私が軽く睨むと、「そーいや、そうでした」とサファは縮こまる。

 その様子を見て、馬上のエメは苦笑いを浮かべた。


「……すいません、レイ様。あたしがいない間、叔母をお願いします」


「わかってる。こっちの心配はしなくていいから、お前はお前の役目を果たしてくれ」


 エメは頷き、干草の手綱を手に取る。


「じゃ、名残惜しいけどそろそろ行きます。絶対朗報を持ち帰るんで、期待して待っててください」


 噛み締めるようにサファや私の顔を見ると、エメは馬首を巡らせてアケミ族の国へと向かった。

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