表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第三部
131/174

??歳・45

 最初の夜に気づいたが、今の私は睡眠を取る必要がさほどない。寝ようと思えば寝れるが、一、二週間ほどなら問題なく起き続けられる。


 そのため、夜の間は勉強や事務の時間に充てた。

 なにせ、やらねばならないこと、学ばなければならないことが、山のようにあるのだ。他人が絡む仕事は皆が起きている昼に済ませ、一人でできる作業は夜に行うのが、効率がいいに決まっている。


 大抵の場合、夜間活動は当然室内で行う。が、たまに気分転換で外に出たいときもあり、そうした場合はいつも決まった場所に来ていた。



 そんなわけで今、私は私の像の天辺にいた。

 山の頂上に聳えている始祖の像、その頭の上、つまり髪のつむじのあたりに、胡坐をかいて座っているのである。


 夜の冷気は高い場所にはこないから、多少の風が吹くとはいえ、過ごしやすい。

 こんなところに登れるのは立場的にも身体能力的にも私だけだから、完全に一人になれる状況というのも落ち着く。いい座布団を持参してきてるから、長時間座ってても平気だし。


 周囲を回る光の玉や虹の後光は消えている。最初に像を登ったときに判明したのだが、私が触れて命令すればライトのオン・オフを自在に操作できるのだ。

 だから、今は周囲の風景がよく見える。大府を浅く取り囲む山脈はもちろん、はるか彼方に聳える黒の御柱までも。



 私がすべてのレイ族――ミドリ国を治めるようになって、三ヶ月ほどが過ぎた。

 この世界で目覚めてからは、四ヶ月と少しといったところか。


 統治の具合は、正直なんとも言えない。

 人材育成や憲法制定など、長期的な視野から見て重要なものに力を入れているので、まだ目に見える結果がほとんど出ていないのだ。

 多少の経済政策が効果をあげてはいるが、行政の制度変更による混乱や不満といったマイナスもあるし、ほとんどの民は生活が良くなったとは感じていないだろう。


 とはいえ、大きな成果はないものの、一方で大きな問題もない。

 民は未だに私を熱狂的に支持しており、地方の諸侯たちも文句を言わず従っている。アケミ族との衝突は空橋以来起こっていないし、奴隷にいたってはそのほとんどを国で保護できた。

 軍事的な争いは一切なく、不幸な人間は着実に減らせている。大きなプラスはないが、マイナスの多くを消しつつある――と考えれば、統治はまあまあ上手くいっていると言えなくもない。


 そもそも、『国家百年の計』というやつを私はやっているのだ。

 数ヶ月で目立った成果が出ないのは当たり前であり、だからこの方向性は間違ってないはず。マニュアルとブーストされた頭脳のおかげで、いまや私は政治の超専門家なのだし、統治のレベルだって普通の政体には有り得ないほど高い。


 自信を持っていいと思う。

 地球の歴史から見ても、今の私ほどの政治家はいなかったはずだ。始祖の名にふさわしい振る舞いが、できているはずなのだ。



「…………でも、やっぱりお前の助けが欲しいよ、明美」


 遠方にかすんで見える塔を見ていたら、ポロリと弱音が出た。

 アイツが後ろで支えてくれるなら、もっと全力で突っ走れるのに――と、ないものねだりをしてしまう。


 残念だが、まだ塔には行けない。


 塔周辺の土地には、アケミ族の中でも好戦的な国が栄えている。

 聞いた話によると、アネモネのような人間離れした肉体を持つ戦士も少なくないそうだ。しかも、連中は塔を異様に大事にしているとかで、無許可で近づく者はアケミ族でさえも容赦なく殺されるとのこと。


 そうした話をエメから聞いて、私は塔に力押しで挑むことを諦めた。

 普通の人間なら何万人立ちはだかろうと平気だが、アネモネクラスとなると話は違う。彼女並み、あるいはそれ以上の強さの敵がゴロゴロいるとなれば、さすがに今の私でも危ない。


 戦いに負けた場合、私は確実に食われて死ぬ。

 そうなったら、ミドリ国は終わりだ。私ありきの統治構造となっているから、すべてが崩れてしまう。

 社会情勢がぐちゃぐちゃなところをアケミ族に攻め込まれたら、レイ族そのものも終わってしまうかもしれない。


 国の統治は私一人でどうにかできそうだし、危ない橋を渡ってまで塔に行く必要はないだろう。

 だから、まずは焦らずに足場固めをしていこうと思う。他のアケミ族から塔周辺の国の情報を入手し、そいつらのことをもっと把握できれば、戦わずに済む道が見つかるかもしれないからだ。


 というわけで、明美と会うのはしばらくお預けとなる。でもって今は国内統治に忙殺されてるから、アケミ族との外交に手を出すのはもうしばらく先になるだろう。


「はぁー……」


 鬱屈した気持ちを吐き出し、あらためて明美のいる塔を見る。

 そうして気分を入れ替え、視線を手元のタブレットに戻し、私は収録されているマルクスの資本論の続きを読み始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ