??歳・19
「やったー! またアタシがいちばーん!」
「私はまた二番だ」
二、三時間ほど、私とルミレイは部屋の娘とすごろくのようなゲームをやっていた。
「ぐぬぬ……」
「焦んないでいいですよ、ルミレイ様。アタシも謎巫女様も、ゆっくり待ってますから」
「ず、図に乗るでない! 我はちょっと調子が悪いのじゃ!」
「ルミレイ、今のは子供のかんしゃくみたいでみっともないぞ」
「そっ、それは……申し訳ございませぬ」
「アタシはぜんぜん気にしてないですよ。それよりせっかくだから、ルミレイ様も楽しんでください。お二人とこうして遊べるの、アタシとっても嬉しいんです!」
「ふ、ふむ……そうじゃな。負けが続いたからか、少し心のゆとりがなかったかもしれぬ」
二人に諭され、大人しくなったルミレイは再びサイコロを振る。
部屋の娘はクルヒという名だ。最初はガチガチだったが、話したらすぐに打ち解けて、こうして一緒にゲームを楽しめる仲となった。
ルミレイがようやく上がったところで、私はクルヒに声をかけた。
「クルヒ、窓の外を見てくれないか」
「了解でーす。どれどれ……」
彼女は立ち上がり、窓へと向かう。そして窓枠から上半身を出して外を眺めた。
「うーん、まだけっこういますねぇ。うわ、指差された」
「まったく、レ……謎巫女どのが我らに干渉するなと訴えたというのに。しつこい連中もいるものじゃ」
「けどけど、ウチの前は警邏隊の人が守ってくれてるから、もう騒ぎにはならないんじゃないですか? それにそろそろ夜ですし、出待ちの人たちも家に帰るかも」
「だといいんじゃがなぁ」
私はクルヒの言葉を聞き、ふと疑問に思った。夜が近い割には、窓から入ってくる光は明るいままだ。確かに、それくらいの時間ではあるはずなのだが……。
「なあ、今何時だ?」
私が訪ねると、クルヒは窓から離れる。
「あー、すいません。アタシの部屋って時計なくて。下の店にはあるんで、ちょいと見てきますね」
そうしてクルヒが一歩踏み出したときだった。カーン……、カーン……と、ゆったりした鐘の音が外から響いてくる。
「あっ、七時の鐘だ。素晴らしい間で鳴ってくれましたね。手間省けちゃった」
「ほう、もうそんな時間か。遊んでいると時がたつのは早いものじゃ」
「し……七時?」
おかしい。夜七時の暗さじゃない。
それとも北極近くの国のような、いわゆる白夜みたいな現象でもあるのだろうか?
私はたまらず立ち上がり、窓の外に身を乗り出した。キャーッ、と下から歓声だか悲鳴だかが聞こえてきたが、それを無視して空を眺める。
……太陽の位置に違和感がある。
この大府に来る道中で見た限り、太陽は南側に進んでいたように思えた。が、今太陽は北にある。私が方角を色々勘違いしてない限り、これは妙だ。おかしい。
「どうなされました? 謎巫女どの」
ルミレイが尋ねてきたので、私は逆に問いただした。
「……あのさ、ここの太陽って、北から昇って南に沈む?」
「はい。もちろんでございます」
「でも、いま夜七時なのに、北に太陽があるんだけど」
「それは……ええと……不思議なことなのでしょうか?」
「七時なんだから、そりゃ北側に太陽ありますよ」
ルミレイもクルヒも、「なんでそんなことに疑問を?」といった態度を見せている。
私は仮面の下に手を突っ込み、眉間をつまんだ。
話の前提が、私と彼女たちでかなりずれている。察するに……どうやらこの世界の太陽絡みの現象は、地球のそれとはだいぶ異なっているようだ。
さて、事実を知るには、どこから聞き出せばいいだろう?
にわかに頭を悩ませていると、窓の方から涼しい空気がふわりと漂ってきた。クルヒも気づいたようで、宙に手をかざす。
「あ、冷えてきましたね。どうします? 窓しめちゃいます?」
「そういえば……夜になると冷えるんだっけか。いや、でも低地だけの話だったような……?」
「謎巫女どのの仰るとおり、低地の夜は極寒の地となりまする。が、高地であってもその影響は受け、ゆえに裏日が昇ると同時に冷気が押し寄せてくるのです」
「うらび? それって太陽のことか?」
「ええ、二つ目の太陽の名でございます」
「二つ目!?」
――なるほど、なんとなくわかった。
この世界には太陽が二つあって、たぶんそれが等間隔で空を巡っているのだろう。
ひとつが沈むと、もうひとつがすぐに昇る。それを延々繰り返しているから、ずっと明るいのだ。
「ってことは……この世界の夜は暗くないのか」
「夜が暗くない? ううむ……それは、なにかの比喩でございましょうか」
「窓を閉じるから暗いってことじゃないですか? そのほうが寝やすいし」
やはり、『一日中太陽が空にある』という認識で間違いないようだ。
「昼と夜はどうやって区別してる? やっぱり冷気か?」
「そのとおりでございます。先ほども申しましたが、裏日が出る時間帯に一気に冷え込みますゆえ、それが夜の訪れと認識しておりまする」
普通の人間からすれば、私はよほど変な質問をしているのだろう。クルヒはこちらを見て、大きく首を傾げていた。
「……謎巫女様って、地下の洞窟とかで生まれ育ったんですか? そんなことも知らないなんて」
「これっ、無礼じゃぞ! このお方は――」
「いや、だいだい合ってるよ。ずっと狭いとこに引きこもってたから、世界のことを何も知らないんだ、私は」
――宇宙人が宇宙を漂流する私と明美を捉え、その記憶を元に作り出した世界。それがこの造化六花だ。
地球を模してはいるようだが、まったく違う環境の惑星のようだし、なにもかもが同じとならないのは当然のことだろう。
ま、明美と宇宙人が創ったという割には、面白そうな世界じゃないか。ヤツの元にたどり着くまで、当分退屈せずにはすみそうだ。
そうして気分を切り替え、私はクルヒに向き直る。
「では、そろそろお暇するとしよう。世話になったな、クルヒ」
「えっ……もう行っちゃうんですか?」
日が沈んだら動こうと思っていたが、どれだけ待っても外は暗くならない。その事実をようやく認識できたので、ここを出て行くことを決めたのである。
すると、ルミレイも立ち上がって意見を言ってきた。
「お言葉ですが、この家に泊まってもよろしいのではありませぬか? まだ外には我々目当ての者がうろついておるようですし、動くなら朝方のほうが……」
「そうですよ! ウチのお母さんも食事用意するって言ってましたし、隣の部屋には寝れる場所もありますから!」
「そうか。なら夕飯だけ頂いて、その後に出よう。これ以上厄介になると、この家に迷惑がかかるかもしれないからな」
私は窓の外――向かいの建物の屋根を見た。やはりまだ、忍たちがこちらを監視し続けている。
連中が私に敵意を持っていた場合、寝込みを襲ってくるかもしれない。そうなったら、クルヒとその家族は口封じとかで殺される可能性もある。
なんの根拠もない推測にすぎないが……この世界で目覚めてからの私は、色々と冴えている。直感も当たる気がするから、とりあえずは警戒するに越したことはないだろう。
そうした今後をクルヒの母親に話すため、私は二人を連れて階下へと降りていった。




