??歳・17
中に入って通路を少し進むと、円筒状の小部屋に出た。
そして通路の終わり際には小さな籠が置いてあったので、言われていたとおりにその前で服を脱ぐ。なんでも、測定は全裸じゃないと受けられないらしい。
素っ裸になって部屋の中央に立つと、周囲の壁面が光り出し、波打つように色や形を変えていった。おそらく脳波測定のために、脳へ映像による刺激を与えているのだろう。具体的にどういう仕組みで脳の状態を測定しているのかは不明だが。
一分ほど経過し、壁の光が収まった。
外でチーンという音が鳴ったので、服を着て靴を履き、出口へと向かう。
「レ、レイ様……」
ルミレイが唖然とした顔をしている。
変な数値でも出たかと思って壁を見たら、そこにあったのは『100』、『100』、『100』というキリのいい三つの数値だった。
ルミレイはもちろん、レイカンやその従者たちも、数値と私に驚きの眼を交互に向けている。
……うん、私への近さを測るテストなんだから、私が受けりゃ満点になるに決まってるわな。
偉業を為したかのように見られてるけど、なんも自慢できねぇ。というか、こんなのを誇るほど人の評価に飢えちゃいないぞ、私は。
どうせなら0、0、0とか、あるいは振り切って10000、10000、10000とか出れば面白かったのに。このシステムも明美が作ったんだろうが、アイツにはそういうユーモアがない。
と、個人的に「なんだかなぁ」感を抱いていたら、ルミレイが突如高笑いを発した。
「なーっはっはっはっ! どうじゃ帝よ! 100ひとつでさえあり得ぬのに、それが三つじゃ! このような測定結果、常人が叩き出せるわけがあるまい! これこそが、レイ様が偉大なる母君であらせられるという、紛れもない証! わかったら、さっさと御方にひれ伏すがよい!」
自分のことのように得意気になっているルミレイを、帝レイカンはじろりと睨みつける。
が、すぐに脱力して軽く息を吐くと、私に向き直って膝をついてきた。
「……度重なる無礼をお許しくだませ。神授秤があのような結果を出した以上、あなた様は間違いなく我らの神。ゆえに、当代帝レイカンはこのとおり、始祖様に忠誠をお誓い申し上げまする」
「……そうか、ありがとう」
なんて言えばいいのか、さっぱりわからない。
偉そうにするのは性に合わないし、かといって対等な感覚で応じるのも立場的には間違ってる気がする。
ともあれ、私は話を先に進めることにした。
「さっきの話は覚えてるな? 黒の御柱に行くために、色々協力してほしいんだが」
「心得ております。まずは、現地に詳しい者を呼び寄せるとしましょう。かの地はアケミ族が支配しているゆえ、場合によっては戦も必要になるかもしれませぬが」
「……い、戦に?」
その可能性はまったく考慮してなかった。
「ご安心くだされ。始祖様のためとあらば、兵たちは命を惜しまず戦うでしょう。私は帝として、幾千幾万の屍の山を築こうとも、あなた様を黒の御柱へ送り届けてご覧に入れまする」
そんなレイカンの言葉に、ルミレイも同調する。
「うむ、その心意気や良し。我も巫女として、兵たちの鼓舞に努めるとしよう。始祖様のために命を散らせる幸運を、戦場で戦う者たち――いや、全レイ族に示さんがゆえに」
「お、おい、ちょっと待て。戦争をする前提で話を進めるんじゃない」
覚悟が決まってるのか、下々の命をなんとも思ってないのかは知らんが、大勢が死ぬことをそんな自然に受け入れないでくれ。
「ともかく……まずは情報収集だけでいい。だから事情に詳しいやつを集めて、私に会わせてくれ。だから、勝手に戦争の準備を進めたりするなよ。そんなことしたら怒るぞ」
私の言葉を聞き、ルミレイは息を呑んだ。
「もっ、申し訳ありませぬ。戦がレイ様の意にそぐわぬとは、露知らず……」
一方のレイカンは落ち着いている。
「承知いたしました。では仰せつかったとおり、まずはご要望の者を召集するに留めましょう」
……ふと、気づいた。
レイカンから刺さる気配が、衰えるどころか強まっている。むしろ、覚悟を決めたかのような切羽詰まった感情すら感じる。これは、もしかすると……。
そうして言葉に出来ない危機感を覚えていた私だったが、突如、バタバタと足音がこちらに近づいてきた。
「と、殿! 殿っ!」
見ると、赤い甲冑を着た一人の兵士が駆け寄ってきていた。
「何事だ、騒々しい」
レイカンが睨みつけると、兵士は息を整えながら真上を指差す。
「像が……始祖様の像が、とんでもないことになってます!」
兵士に導かれ、私たち一同は巨像の土台内部から外へと出た。そして鳥居のあたりまで来たところで百八十度ターンし、真上を見上げる。
私はあんぐりと口を開けた。
なにもかもが真っ白だったはずの像に、色が着いていた。毛や瞳の部分は黒く、唇は薄い桜色となり、肌も私と同じ色に染まっている。おまけに、よく見たらほくろまで再現されてる。まとっていた薄布は目の覚めるような真紅で、なんとも鮮やかだ。
それだけなら、まだいい。私をそのまんま巨大にしただけだし、恥ずかしいがギリ許容範囲ではある。
だが、そうではなかった。
始祖というか私をかたどった像は、新たに光る玉と虹を備えていた。
像の周囲にふわふわと光る巨大な玉が七つほど浮いており、頭の後ろにはくっきりした虹が現れている。
――目の前にあったのは、ド派手にライトアップされた私だったのだ。
なんとも言えない気分になり、私は心の中でひたすら明美に呆れた。
なんてギミック仕込んでんだ、お前……。
自分の姿があんなになって、私はどう反応すりゃいいんだよ。やりすぎてギャグ空間に片足突っ込んでんだけど?
虹は刻々と色を変えて輝いており、私似の像は首のあたりが派手な色に染まっている。おそらく、背中側はもっと酷いだろう。とんだ『ゲーミング私』だ。
考えるまでもなく、さっきの測定結果に反応してこんなことになったのだろう。しかし……マジでなにしてくれてんだ、明美のやつは。
もしかしてアイツ、実は普通に起きてて、なんらかの形で私を観察してるんじゃなかろうか? 昔からヤツには、こうやって私の度肝を抜かす趣味があったし。
ともかく、そんなことを思うほどに私は戸惑ってしまっていた。
当然レイ族の皆もびっくり仰天してるんだろうが、困惑度ならぶっちぎりで私が一番だろう。
そして気づけば、周囲の人間は誰一人例外なく、像に向かって土下座をしていた。
建物内にいた者たちが全員出てきたようで、思いのほか数が多い。百人近くはいるだろうか。
…………やれやれ。
なんかもう、マジでやれやれって感じだ。
――明美。お前はいったい、私にこの世界でなにをさせたいんだよ。




