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明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第三部
102/174

??歳・16

 玄関まで戻って靴を履き、外へと出る。そして屋敷を出てすぐ右に曲がり、そこから建物沿いにしばらく歩く。

 レイカンが先頭を歩き、私とルミレイがその後に続き、その周囲を兵士たちが囲む形で一同は目的地へと向かった。


 彫像土台内部は広大な空洞ではあるが、中央に巨大な柱が立っている。

 それを挟む形で横長の屋敷が二つ建っており、聞いたところによると入り口側が帝が住む皇城で、奥が財宝や重要物を収めた宝物殿となっているらしい。

 私たちの目的地は、中央部の柱だった。その根元はこれまた空洞となっていて、例の測定器が内部にあるとのこと。


 柱の根元にたどり着き、レイカンたちは足を止めた。壁にはドアのような切れ込みがあり、その隣にはアルファベットの単語が三つ、間を空けて刻まれている。

 ルミレイはドアを指し示し、説明を始めた。


「これが、我らが『神授秤』と呼ぶ神の遺構にございます。中は小さな小部屋となっており、入った者は容姿等を機械に見定められ、そうして始祖様への近さを示す値――相似値が算出されるのです」


 これも、おそらくは明美が作ったものだろう。しかしその存在意義が理解できず、私は首を傾げた。


「……よくわからないんだが、そんな数値を測ってなんの意味があるんだ? 美人の度合いを数値化する、といった用途しか思いつかないんだが」


 ルミレイはやや考え込み、言葉を選ぶように答える。


「ええと……これまで幾度も申し上げましたが、我らレイ族は、始祖様を太古の時代より崇拝して参りました。ゆえに、高い相似値を持つ者は神に近い存在とされ、尊ばれてきた歴史があるのです。その慣習は現在までも続いておりまして、全レイ族は十四歳となった年に神授秤にかかることが義務付けられております。その者の相似値を測定し、身分や地位を確定させるために」


「それってつまり……相似値が高いほど、社会から色々と優遇されるってこと?」


「さようでございます」


 ルミレイは慇懃に頷いた。

 ……言われてみれば、レイカンはけっこう私に似ている。ルミレイほどではないだろうが、痩せていれば相似値とやらは高い数値が出そうだ。


「ちなみに、神授秤では三つの項目が審査されるのですが、基準がわかっているのはひとつのみなのです。レイ様ならば、お読みできるのではないでしょうか」


 そう言って、ルミレイはドア近くの英単語を手で指した。そこには上から、『Appearance』、『Electroencephalogram』、『Genetic code』という表記があった。


「外見、脳波、遺伝子、と書かれている」


 私が単語を読み上げると、ルミレイを含む周囲の人間たちが息を呑んだ。


「が、外見はわかるのですが、『のーは』と『いでんし』とはいったい……」


 ルミレイが尋ねてきたので再度答えようとする。しかし、ふと気づいた。


(……待てよ。これ教えたら、彼女らの社会にでかい影響を与えるんじゃないか?)


 今まで意味不明だったということは、脳波と遺伝子の値はこれまで重視されなかったはずだ。けど、私がここでそれをはっきりさせたら、その状況はひっくり返るかもしれない。


「んー……そうだな。内面に関わる要素、とだけ言っておこう」


 そんな答えでお茶を濁し、別の質問をぶつける。


「で、これの値は数値で表されるのか? 近いほど高い数字が出るとか?」


「はい、おそらく最大値は100で、最低値は0だと思われます。我が一年前に測ったときは――」


「ルミレイよ」


 レイカンが、唐突に口を挟んできた。


「口頭だけで説明してもわかりにくかろう。ここはひとつ、貴様が試してきてはどうだ? そうして数値を示せば、始祖様もご理解しやすいはず」


「――ふむ、一理ある。ではレイ様、しばしお待ちくださいませ」


 ルミレイは軽く私に一礼し、ドアへと手を伸ばす。

 タッチされた直後にドアは自動で開き、彼女はその中にためらいなく入っていった。見ると、奥は円筒上の空間になっている。明美のメッセージが残されていた部屋とそっくりだ。

 すぐにドアは閉じ、その枠が真っ赤に発光しだした。使用中であることを示しているのだろう。


「測定は一分ほどで終わります。それまでは、私が巫女に代わって説明いたしましょう」


 レイカンは視線を英字に向け、解説を始めた。


「測定結果は三つの文字列の下に、それぞれ表示されます。どれも、おおよその平均点数は50です。なので外見の項目ならば、50が出せれば普通の見た目、ということになります」


「なるほど」


 どうやら中間値が50となるよう、あらかじめ設定されているらしい。


「では、各々の項目の説明を。上段は唯一判定基準が明らかとなっておりまして、始祖様の像に似ている者ほど高い数値となります。他の二つは未だに不明なので、一般的に相似値は上段項目の数値しか扱われません。美人ほど社会的地位が高いのは、そういうわけですな」


 となると、レイ族の社会は私のいた社会に比べて、はるかに美形が優遇される構造となっているのだろう。逆に言えば、不細工の肩身の狭さも比じゃないのだろうが……。


「中段は上段以上に数値に差が出やすいのですが、基準がはっきりしておりません。内面に関する要素と推測されておりますが……こちらは彫像のようにわかりやすい手本がなく、測定結果を分析しても傾向がはっきりしないため、正直、我々は匙を投げてしまっています」


 「とはいえ」、とレイカンは続ける。


「先ほど始祖様は、『のうは』と仰いましたね? 知らぬ単語ですが、それはおそらく、脳に関わりのある言葉なのでは? つまり、中段は始祖様の脳に近いほど、高い数値が出る」


「……さあ、どうだろう」


「そうして態度を明確になさらないのは、社会への影響を考慮されてのことですか? もしそうならば、民を治める者として謝意と敬意を示しましょう。確かに、いまさら事実をはっきりさせたところで、無駄な混乱が起きるだけでしょうからな」


 ……やはりこの女、けっこう頭が回る。

 何も言っていないのに、こちらの意図をそこまで察するとは。バカ殿ではなかったらしい。


 と、そのタイミングでドアの赤い光が消えた。測定とやらが終わったのだろう。


「では、巫女が出てくる前に下段の説明を。こちらは上段、中段と違ってほとんど数値に差は表れず、九割九分九厘が49から51の間に収まります。つまり個人差がまったくと言っていいほどになく、ゆえに、これが重視されたことはありません」


 この測定機械は、レイ族のみが使うことを前提とされているはず。だから50点が彼女たちすべての平均値なのであって、けっして50点だから私より遠い、というわけではないはずだ。たぶん、レイ族以外の人間が測定を受ければ、断然低い数値が出るはず。

 ふと興味がわき、私は別の質問をした。


「この測定、アケミ族とやらが受けたことはないのか?」


「記録にある限りでは、皆無です。そもそも相似値の測定の場という以上に、ここは始祖様にまつわる神聖な遺跡ですので」


 そういえば、アケミ族とはめちゃくちゃ仲が悪いんだっけか。

 捕虜を連れてきて試しに測定させたこともないとなると、本能的な嫌悪感すら抱いているのかもしれない。


 などと考えていたら、壁からチーンという音が鳴った。電子レンジの温めが終わったときの合図みたいだ。


 周囲の人間が一斉に英字に目を向けたので、私もそちらを見る。

 すると、上から『90』、『72』、『50』という数字が赤く浮かび上がっていた。どうやらこれが、ルミレイの測定結果らしい。

 レイカンの配下たちから、「おぉ~」と歓声があがる。なかなかいい数値ということなのだろう。


「上段が70を越えていれば、巷では美人とされます」


 レイカンがまた解説してくれた。


「80以上となると数年に一人いるかいないか、といった領域です。さらに、90越えは千年の歴史において、わずか四人しか確認されておりません。90が三人で、91が一人です。まあ、すぐにその記録は更新されそうですが」


 そりゃまあ、私なら100出るわな。というか出なきゃおかしい。


 ガーッ、と扉が開き、中からルミレイが出てきた。彼女はすぐに測定結果の数値へと顔を向ける。


「お! 中段が1上がっておりまする! ノーハとやらが、レイ様に近づいたようです!」


 ルミレイは飛び跳ねて喜んでいる。まあ、まだ若いから数値の変動はあるのだろう。

 というか、私にいかに近いかを測っているようだが……何歳のときの私なんだ? ルミレイが高得点ってことは、十四、五歳くらいだろうか? あるいは年齢関係なしに、私の生涯の平均値とかを参照してる?

 そのへんの基準によっては、今の私だと100は出せないかもしれない。


 息を整え、ルミレイはあらためて私に向き直った。


「では、これらの項目の説明を致しましょう! まず上段ですが――」


「それは朕が解説して差し上げた。もう、測定結果のおおよそは理解しておられる」


 レイカンが冷たく言い放つと、ルミレイはがくりと肩を落とした。


「そ、そうか……。我に代わっての説明、ご苦労じゃった」


「ともかく、次は私の番だろ? もう入っていいのか?」


 尋ねると、ルミレイたちは揃って頷いた。


「レイ様ならば、我の数値を優に超えることは間違いありませぬ! どうかその結果で、あなた様の尊さを頑固者にわからせてやってくださいまし!」


「まずは結果を見させていただきましょう。まあ私とて、前人未到の数値が出ることは覚悟しておりますが」


 ……やれやれ。

 いかに私に近いかを試すテストに、私自身が受けることになるとは。


 高揚や覚悟など一切無く、むしろ少々しらけた思いを抱きながら、私は測定器のドアへと向かった。

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