断章:姫岸咲希という女
姫岸咲希は、目立つ。
本人が望むかどうかとは関係なく、ただそこにいるだけで視線を集める。
育ちの良さが滲む姿勢。手入れの行き届いた髪。整った顔立ち。健康的な血色。探索者として鍛えられた体幹。
そして、男子高校生の視線というものがどこに吸い寄せられるかを、残念ながら俺はよく知っている。
彼女は、自分が恵まれていることを知っている。
知っていて、それを恥じてもいない。
だからこそ厄介だった。
姫岸咲希は、持っている。
家も、金も、名前も、身体も、才能も、立場も、他人から向けられる期待も。
そのうえで、まだ欲しがる。
力が欲しい。
情報が欲しい。
仲間が欲しい。
俺の技術が欲しい。
俺が人に見せずにいたものまで、自分の手が届く場所に置きたがる。
それでいて、奪うつもりはないと言う。
押し付けるつもりもないと言う。
ともに頑張るためだと、真っ直ぐに言う。
そして気づけば、こちらが断る理由を、ひとつひとつ丁寧に潰されている。
だから、怖い。
悪意のある欲望なら、まだ逃げ道がある。
けれど彼女の欲望は、善意の顔をしている。
彼女を見ていると、たまに、自分がみっともなく感じてしまう。
それでも、彼女に必要とされたことを、俺はいまだに少し誇らしく思っている。
——去年の文化祭で姫岸咲希にスカウトされ、生徒会の防災啓発ポスターを描いた絵画部部員談
本編は基本的に主人公たる咲希視点で描かれますが、
それ以外の視点から見た短いテキストをたまに挟ませていただきます。
本編と同時更新しますので、気軽にお楽しみください。




