【遥希】公園ボートと美術館の後に
「デートみたいだね」
と優芽がいうから
「え、デートだよね?」
と答える。
公園のボートを必死で漕いでるんだけど、なかなかうまく進めず汗だく。
日差しもそこそこ強いので、早めにボートハウスに戻って、ランチにした。
「このあと美術館だけど、見たいものある?」
優芽に聞いたら
「流水梅柳文薪絵螺鈿鏡箱が気になる」
「え、なんて?」
「りゅうすいうめやなぎもんまきえらでんかがみばこ」
だって。
なんか難しい物体?
箱?
優芽の好みはときどき、独特というか不思議。
「あとはね、適当に見て回ろ、はるくんは? 何が好き?」
そんなの優芽が好きに決まってる。
……なんて軽く言えたら場が和みそうなのに、そういうのがな、言えないんだ。
「そうだな、見てみないとわかんねーけど」
スマホで美術館のホームページを眺めつつ、あ、これか優芽が言ってる箱。
写真がない分、どんなものか目で見て確かめたくなるんだな。
「だよね、わかんないかもね……」
優芽の言い方が少し、微妙なんだよな。
最初の頃はもっとストレートな言い方してた。
最近は、気持ちがここにないような、どこか上の空というか、ああそうだ
「冷めてる」感じなんだ。
再会して居酒屋で会ったときなんかもっと無邪気で笑顔いっぱいでさ、もっと、明るかった。
中学生のときのイメージから変わったというか、もともと大人の優芽って、こんな感じだったのかわからない。
もしもそれが、俺がなにか足りないからとか、楽しませてやれてないとか?
だとしたら困る。
どうしたら優芽が喜ぶのか?
凪とマリオカートしてるときは、いつも楽しそうだったのに。
あ、もしかしたら凪に会えなくてさみしい?
変な意味じゃないとしても、2人仲良かった。
最近、みんなで飲み会もやってねーし。
俺たちって、最初から「みんなで」遊ぶってのが当たり前みたいなとこがあって。
ふたりきりは夜だけでいいのかも?
なんて考えてみた。
だけど当分、無理かな。
結菜ちゃんがそれに乗ってきてくれるのかは疑問だよな。
凪と優芽のことを、ほぼ「黒」だと思ってるみたいだから、優芽とも話してる様子はないし、やっぱ避けられてるんだよな。
美術館では、優芽と手をそっとつないでみた。
嫌がることもなく、キュッと握り返してくれるし、俺の考えすぎなのかもな。
なんだろう、明日は仕事だし、送っていかなきゃならないんだけど、帰したくない。
心の奥底にしまいこんだつもりのモヤモヤと違和感とが、少しのきっかけで、飛び出してきそうで、なんていうか……不安?
なのかな?
いや、不安というより、恐怖なのかもしれない。
このまま、穏やかなときが続くだけでいいのに。
いつまでこのままでいられるんだろうと、恐怖を感じるなんて、これってどういう状態?




