第二章 第九十八話 〜港町の赤い空〜
「うえええん――リベル――リベル!!」
セイクルが僕に泣きながら抱きついてきた。
「よく頑張ったね――」
相当怖かっただろうに。僕も彼女の体を力強く抱きしめた。
「「「うわあああん――リベルー!!」」」
三人も僕に泣きながら抱きついた。みんなのくしゃくしゃな顔が愛おしい。
「みんなもよく頑張ったね――」
僕は城内の周りを見渡し絶句する。おびただしい血の量。あちこちに横たわる犠牲者。削り取られた壁や床。目をつぶりたくなるような光景が広がっていた――
(山であの穴を見つけた時、自分の予感が当たってしまったと感じたんだ――)
「なんだ……この巨大な穴……まるで何かが地下へと這い出ていったような――」
僕は急いでその場所まで『バスター』で走っていき、辺りを確認する。すると、掘り返した土や岩は山となって、穴の周りを取り囲んでいた。
「『グラスプ』!」
僕の手から光る縄を出し、巨大な竪穴へと垂直に降りていく。やがてその穴に傾斜が生まれ、歩みを進めると、そこは水平な『トンネル』へと続いていた。
「『バスター』!」
僕は全速力で駆け出した。途中の岩や根をはじき飛ばしながら。嫌な予感が当たってしまった。
この進路は領主城の方向だ――
――僕は自分の唇を噛み締めた。もう少しで大切な人たちを失うところだった……
いや、セイクルたちだけじゃない。よくも無関係な町の人々を殺してくれたな……絶対に許さない……!
「みんな、聴いてくれ。僕はこれからあのデカブツとカラスにトドメを刺しにいく。もう、この領主城は危険だ。いつ崩れてしまうかも分からない。今すぐ外に出て避難しておいてくれ」
「リベルは……?」
不安そうな泣き顔が四つ並ぶ。
「僕なら大丈夫。だから行ってくるよ。いい子にしていてね」
それぞれの荷物を持たせて、外庭へと誘う。僕はみんなの頭をポンポンと優しく叩きつつ微笑むと、手を振りながら距離を取った。
僕は目をつぶり一度、深呼吸した。そして目を開けて奴らが飛んでいった方向へ向き直り、怒りの形相で叫んだ。
「『バスター』!」
ドン――!
左肩を前にして加速し城を置き去りにする。庭から門をくぐり、町並みが自分の体に差し迫る。
僕はそのままの勢いを保ったまま、右と左の屋根の煙突に向けて、それぞれ右手と左手をかざして叫んだ。
「『グラスプ』!」
ビュッビュッ――!
二本の光の縄が煙突に巻きつくのを見計らってから、瞬時に巻き戻す。僕の体が引っ張られるのを感じると、跳ぶように思い切り石畳を蹴った。
グオン――!
反動で自分の体が宙に浮かぶのを感じると、僕は『グラスプ』を解除した。すると自分の体は屋根を越え――
僕は朝焼けの町を飛んだ。
ぶっつけ本番だったが上手くいってよかった。余裕があったら色々試せただろうが、あいにくそんなものはない。
僕の体はゆっくりと逆上がりのように回っていた。視界はより明るくなってきた空から、赤く染まった町へと変わった。
やがて雪の結晶のようなマークの建物――教会の向こうに、醜悪で巨大な塊を見つけた。
中央広場に敵がいる――
(今、一体何が起こった――?)
「は? ブベッ――」
シルクハットとステッキが吹っ飛んだ。
『グレイヴディガー』の頭に俺ちゃんの体が思い切り打ちつけられたからだ。
ガシャン! ゴリッ! ズズン……!
壁やらガラスやら色んなものがぶつかってきた。途中によく分からん光る壁もあったが、それも割れて崩れた。
城から空中に放り出された俺ちゃんの体より『グレイヴディガー』の巨体の方が速度が上だったらしく、先に追い越された。
反動でグルグル回りながら飛んでいった自分は上下感覚も分からなくなり、そのまま飛行も何もできず、ただひたすら世界が回るだけだった……
ズドドドン!!!
先に『グレイヴディガー』の方が着地したらしい。轟音が鳴り響くのが聞こえたのち――
「グアッ!」
自分の体は転がりながら、石畳に全身を打ちつけてしまった。砂ぼこりの味がする。
割れたゴーグル越しには、赤く歪んだ世界が見えた。




