第二章 第九十九話 〜中央広場の戦い〜
仇敵を見据えた僕は空から教会の雪のマークへと左手をかざした。
「『グラスプ』!」
光の縄が僕らが普段暮らしている住処の屋根へと絡まった。それを確認して左手を巻き戻し、体を急降下させる。だがこのままだと教会に激突してしまう。
クン――
ピンと伸びた縄を左手でムチのようにしならせる。すると若干、軌道が変わり――
スタッ――
雪のマークを避けて、僕の体は中央広場へと降り立った。
ムクッ――
巨大な『蟲』が立ち上がる。そして『元凶』も身を起こし、よろよろと飛び上がった。
「クソが……何なんだ……お前は……!」
割れたゴーグルの間からこちらを睨みつけてきた。だが、睨むのはこちらも一緒だ。
「それはこっちのセリフだ。お前は一体何なんだ……罪の無い人々を散々殺めやがって!」
両拳を血が滲むほどに握りしめる。絶対に許しはしないが、情報も欲しい。
「俺らは……ただ……自分の居場所が欲しいだけだ。だから……戦って……勝ち取るしかないだろうが……!」
「……平和的な解決法はなかったのか?」
「あるわけねえだろ……やっとの想いで楽園に辿り着いたら、そこはダニに汚染された場所だったんだからよ……!」
(何だ? 一体何の話をしている?)
「だから……俺らは……お前らダニを一掃して……平和な世界を……取り戻すんだ! 行け! 『グレイヴディガー』!」
ゴアアアオオオ!!
元凶の号令で『蟲』の体から無数の鋭い『棘』が出てくる。そしてそのまま僕に向かって首を振り回してきた。
ブオン――!
僕は距離を取って避ける。こんな大振りなものは喰らわない――と思っていた。
グオン――!
今度は器用にも尾の方をこちらに振り回してきた。眼前に『棘』が襲いかかる。しかし、そんなものが今の自分に効くわけがない――
「『テアブレード』!」
三本の光る爪が僕の右腕のそばに浮かぶ。そして――
「『テアブレード』!」
左腕にも三本の光る爪が浮かんだ。これで合計六本の『盾の剣』が完成した。
「うおおお!」
ガリガリガリガリ――!
『蟲』の棘を刮げ落とす。だが、本体は相当硬く、刃が通らない。
「何だその刃は! そんなもの『ダブルスパイダー』の時はなかっただろうが!」
空中で地団駄を踏むカラスマスク。『蟲』は再度起き上がり『構え』の姿勢に入る。
「お前に教える義理はないね――」
僕は仇敵に向かって走り出す。その速度に奴の目が慣れた一瞬を突き、叫んだ――
「『バスター』!」
ドン――!
急加速して『蟲』の腹に差し迫った。
「何っ!?」
カラスが焦る。勢いを保ちつつ、僕は大きく口を開け、叫んだ――
「『バイト』!」
光の『顎』が自分の眼前に現れる。
ガギン!!
しかし、棘は無くなったものの、依然として体は無事だった。
「どれだけ硬いんだよ!」
「ふうっ……残念だったな! 『グレイヴディガー』の装甲は魔界でもピカイチだ! そのまま潰してしまえ!」
グラッ……
巨塔がこちら目掛けて倒れてくる。僕は急いで横に向かって『バスター』で逃げた。
ズズン……!
一進一退の攻防が続く。先ほど『バイト』を選んだのは、この方角への『バスター』だと海に落としてしまうからだ。それでは斃せない確率が高い。もしまだ生きていて、泳いでどこかで悪さをしに行くとも限らない。ここで確実に仕留めなければ。
「どうした? 怖気づいたか?」
カラスにも焦りの色が見える。この膠着状態を打破するためにはどうしたらいいんだ――?
(怖気づく? 僕にはそんなものはないはず。だが、心のどこかでそう思っていたのかもしれない)
「ハッ、確かにその通りかもしれないな」
ダダダダ――
僕は巨体に向かってまっすぐに走り出した。
「へっ! ついにヤケになったか! トドメを刺せ! 『グレイヴディガー』!!」
ゴアアアオオオ!!
『蟲』も口をこちらに向け、まっすぐに突っ込んできた。無数の『牙』が開かれる。
「うおおお! 『グラスプ』!」
ビュッビュッ――!
自分の両手から出た光る縄を『牙』に引っ掛けた。そしてそのまま引き寄せて――
「ぐあああ――!」
ズタボロになりながら『蟲』の口内への侵入に成功した。




