第二章 第九十五話 〜銀髪の魔女〜
「ブモオオオォォ!?」
巨大牛が悶絶する。四枚に開いた右前脚が揺れるたびに激痛が走るのだろう。
「二人とも! 今です!」
「分かりました!」
「任せろ!」
神父様は地上から左脇腹を、ギルド長は空中から右肩のあたりを狙う。
「ブモオオオ!」
四本のツノを振りかざし、二人を寄せ付けまいと暴れる。確かにそんな状態でも掠ったら致命傷は免れない――だが、一瞬隙ができた。
「『バスター』!」
僕は敵に向かって高速で突進した。三本の『光刃』を装備したままに。
右前脚を失い防戦一方ゆえ、もはや間に合う道理はない――
ズゴオオオン!!
巨大牛は腹から下半身にかけて、バラバラになりながら絶命した。
「やりましたね! リベル!」
「お前、すごいな!」
神父様とギルド長が駆けつける。だけど、僕は喜んでいなかった。
「僕はこのままモンスターの群れを突っ切って、最後尾まで駆け抜けます。どうも嫌な予感がして――」
「分かりました! あとは任せてください!」
「気をつけて行って来いよ!」
「はい!」
僕は『バスター』で敵を吹っ飛ばしながら高速で駆け抜けた――
「ふむ。やりますね、リベル」
玉ねぎ頭を揺らしながら、彼女は子どもたちの戦闘を観察する――といっても、さすがに巨大牛のせいで体がバラバラになった時は肝を冷やしていた。
地上の敵たちの数は徐々に減っている。このままいけば、殲滅もできる――あくまで、このままいけばの話だが。
「ギャアアア!」
「キィキィ!」
モンスターの飛行部隊が押し寄せてきた。空を埋め尽くし、こちらに向かっている。
「私の方へ来てくれるのは好都合ですね。これで思う存分、暴れることができますから」
彼女がそう言うと、自分の髪を留めている銀色のシュシュが徐々に光りながら消えた。
ハラッ――
長い銀髪が壁上通路の上に解かれた。さながら銀色の絨毯のようでも、鈍色の鎖のようでもあった――そして体を覆っていた髪が分けられ、豊満な高身長の美しい女性が姿を現した。紫色のルージュが輝き、同色のハイヒールが「コツン」と鳴る。
どこからともなく紫色の幅広いウィッチハットを取り出すと、頭の上にちょん、と載せた。
「パチン」と指を鳴らすと銀髪から飛び出たほうきが体の周りを一周し、背後に滞空すると、『銀髪の魔女』はそれに脚を組んで腰掛けた。
「久しぶりだね、この姿は。相変わらずナイスバディだ。まあ普段からアンチエイジングは心がけているからね――」
「ギャアアア!」
「キィキィ!」
敵部隊が空から間近に迫ってきた。高速でくちばしや爪、牙で襲いかかってくる。
「煩い蚊蜻蛉だね。これでも喰らいな」
「パチン」とまた指を鳴らすと、再びほうきが出現した――ただそれが百本ほどあるだけで。
「行きな。バン――!」
彼女が右手の人差し指で撃つ仕草をすると、ほうきが敵の群れ目掛けて高速で追跡を始めた。直線で、あるいは弧を描いて。
「ギャアアア!!」
「キィ!」
瞬く間に次々と撃ち落とされる的。制御を失い地面に落ちていく。
「ある程度引きつけないと、味方の上に降ってくるからね。あとは別にこちらから来なくても、相手から来てくれるんならその方がラクだしね」
彼女は脚を組み腰掛けながら、頬杖をついて戦局を見つめた。




