第二章 第九十四話 〜攻防一体〜
「「リベル――」」
防御する間もなく関節が捩じ切れた。巨大牛の背中を僕の頭が転がっていく。視界の天と地が交互に入れ替わる。油断した――
意識が混濁する中。
耳元で、無機質な声が響いた。
脳裏に、うっすらと光る文字が浮かび上がる――
【ヒア(遍聴)】
【バスター(穿爆)】
完全に意識が遠のく前に――間に合え――!
「リベル! くそっ! 魔法力がないと回復も意味がない!」
「よくもリベルを! 必ず殺してやる!」
二人が巨大牛に襲いかかろうとした瞬間――
カッ――!
自分の体が光り輝き、離れていた手足と首が接合した。すぐさま目を見開き、地面を踏みしめ叫んだ――
「『バスター』!」
ズドン!!
石畳と土が吹き飛んだ。僕は左肩を前に突き出して巨大牛に向かう。すると敵もこちらに瞬時に向き直り、急加速して突進してきた。
「ブモオオオ!!」
二つの力がぶつかり合う――
ドゴン――!!!
あまりの衝撃に地面が石畳ごと抉り飛んだ。
「ギイイィィ!」
「ゲコオオオォ!」
モンスターたちが吹っ飛ぶ。
「キャアアアア!」
「イヤアアアン!」
キャサリン以下も吹っ飛ぶ。
「な、なんだあ!?」
「敵が飛んでったわよ!」
「味方も飛んでったけどな……」
幸いアルトたちはもう少し遠くだから大丈夫だったらしい。
「なんという衝撃! レティア! 大丈夫ですか!?」
「ああ! 俺は大丈夫だ! しかし、リベルはどうなっているんだ?」
「詳しいことはあとにしましょう! まずはこいつを斃すことが先決です!」
「そうだな! 行くぞ!」
「『バスター』!」
「ブモオオオ!!」
ドゴン――!!!
再び二つの力がぶつかり合った。またしても周囲の地面が抉れながらお互いに膠着する――だが、今回は様相が違っていた。
「『結界法術・打』!」
ズドン!
「ブモオオオ!?」
神父様が結界法術の『盾』というより『グローブ』のようなもので殴った。巨体がよろめく。さらに――
「『スカーレットスラッシュ』!」
ザン――!
空中からギルド長が背中に斬撃を与えた――その刹那。
ボッ――ゴォォォ!
緋色の炎がモンスターから立ち上った。
「ブモオオオォォォ!」
体を振り、もがき苦しむ巨大牛。しかし炎は長時間、消えなかった。
僕らは一度距離を取り、相手の様子を伺う。
「二人ともすごいですね! まさかそんなことができるなんて」
「すごいのはそっちだろ。本気で死んだと思ったぞ」
「全くです。心臓に悪いですよ」
「あはは……すみません。しかしギルド長……」
「ん? なんだ?」
「技名に自分の名前を入れるなんてかわいいですね」
「ば、馬鹿! こ、これは子供の頃から使っている技名で……」
「プッ……クク……」
「ヴォルまでも笑うな!」
「ブモオオオ!!」
与太話を聞いていたのか、巨大牛が怒り心頭に発し、鼻息が荒くなる。
するとみるみるうちに、敵はさらに巨大化していった――違う! 『二本の後ろ脚で立ち上がった』!
「ブモオオオ!!」
ブオン! ブオン!
厳つい二本の『腕』を振り回し、三人の前に襲いかかってきた。予想外だが相当素早い上に、掠っただけで首が飛びそうな力を感じる。
神父様とギルド長は防戦一方だ。接近戦にも手慣れた様子で乱撃を繰り出してくる。
「ならばこれだ! 『バスター』!」
僕は突進で奴を吹き飛ばそうとする。しかし――
「ブモオオオ!!」
ドゴン――!!!
態勢を変え、向こうも突進することで相殺された。
「つ、強い!」
「埒が明きませんね!」
「上にも対応しているぜ」
三人が対応に苦慮する。
(何かいい方法はないか――手段が足りない時はどうするんだ――創意工夫――『想像力』――?)
僕は神父様の方を見た。彼の両手には攻撃用の『盾』がある。
「そうか! もしかして! 二人とも、援護を頼みます!」
僕はそう言うと『バスター』で巨大牛に向かって走り出した。
「リベル! むう……分かりました!」
「おい! うん……やるしかねえ!」
「ブモオオオ!」
奴が突進の迎撃態勢に入った。しかし、僕は寸前で斜め左前に進路をずらした。すかざす右前脚で殴りにかかる巨大牛。だが、それも計算済みだ。
「『テア』――」
光の爪が左手から『三本』伸びる――
さらにまだ僕の攻撃は終わってはいない。
「『ブレード』!」
三本の『テア』を左腕のすぐそばに沿うように伸ばす。ちょうど『盾』を装備するように。
「ブモオオオ!?」
敵の右前脚は止まらない。三本の爪は空中に浮かぶ両刃の『剣』だ。
ズバアアア!!
攻防一体の『テアブレード』が巨大牛の右前脚をスライスした。




