第二章 第九十二話 〜港町の共闘〜
「これは……マズいです。何なんですか? あの巨大なウシは!? 五重になっているとはいえ、結界に耐えられるか分かりません……!」
「僕が行きます!」
バッ――!
「リベル!」
「無茶するな!」
神父様とギルド長の声も置き去りに、門壁の上から飛び降りる。かなりの高さだ。十メートルくらいはあるだろうか――
「『スティング』!」
ザクッ――!!
両手から光の槍で地面を刺し、着地の衝撃を和らげる。その後、第一の結界の穴へ走り出した。
「すごい……」
上から見ていた連中が呆気にとられる。危うく俺も同じセリフを言うところだった。
「おい! ボサボサすんな! リベルに続け!」
「「「お、おお!!」」」
他の冒険者と兵士たちが門壁の階段を下っていく。俺もそれに続こうとしたが――
「レティア!」
ヴォルに呼び止められた。
「な、なに?」
「リベルからプレゼントです」
「プレゼント……?」
ヴォルはポケットから赤と青のイヤリングを取り出した。
「お互いの色を着けましょう――レティアには青色の、私には赤色の」
「いや、嬉しいけど、こんなことやっている場合じゃ……」
「だからこそです。ほら」
お互いにお互いのイヤリングを着けた。ヴォルの左耳と俺の右耳に。めちゃくちゃ恥ずかしい。
「結婚指輪にはもう少しあとですが、せっかくリベルがくれたんです。このイヤリングを着けて頑張りましょう!」
「ああ、そうだな……って、結婚指輪!? それってどういう――」
「おぬしら、早う行かんか」
「「うわあ!!」」
いつの間にか学長が背後に立っていた。
「全く。結界やその他は私に任せて、ヴォルフレイグとスカーレティアは暴れて来なさい。この町を頼みましたよ」
それを聞いて、俺とヴォルは頷いた。
「ばあちゃん! いくぜ! 『ドラゴナイズ(竜化)』!」
自分の体が変化していく。
手と足に鋭い爪が生えて、腕や脚には赤紅色の鱗で装甲を纏う。頭部にはこめかみのあたりから後ろに向かってなびくようなツノが二本生えた。そして背中にも翼が出現し、目の前に向かって一扇ぎさせた。
「私も久々にやりますか! 『ルーピナイズ(狼化)』」
彼は普段からかけている眼鏡を外すと、光となって宙に消えた。
するとみるみるうちに体が巨大化し、倍以上の大きさになる。衣服は破れ、腰のあたりしか残っていない。
「その姿を見るのは子供の頃以来ですね。思えばずいぶん成長したものです。あれだけわんぱくてしょっちゅうイタズラばかりしていたのに――」
昔の黒歴史を語りだしたババアは放っておいて、俺とヴォルは門壁から跳んだ。一方は翼、もう一方は脚を使って、第一の穴へと向かった。
「そろそろ始まるか……」
僕は第三の穴に到達するあたりまで辿り着いた。その向こう側には果てしない赤色の目が広がっている――四本のツノを持つ巨大牛も控えていた。
ついに自分と接敵し、直接戦闘になる。
「ビィイ!」
両のツノをこちらに向けたシカが突っ込んできた。前にギルド長と一緒に戦った時よりも速い!
「『スティング』!」
ズドン!
そいつ目掛けてかざした左手から、光の槍で頭蓋を突き刺す――が。
「ビビィィイ!!」
その状態でさらにこちらへ押し込んできた。効いていない? 違う! 意にも介していないんだ!
「くそっ! 『スティング』!」
ズドン!
右手から放たれた槍は敵の下顎を貫通した。そのまま脳内をグルグルとかき回す。
「ゲボッ」
ようやくシカを斃した――と思ったら今度はクマが襲いかかってきた。
「グオオオォオ!」
大きな口を開け、突っ込んでくる。シカほどではないが速い! 僕はそいつに向かって両手を水平に大きく開いた――
「『シザー』!」
光る鋏で両断する――つもりだったが、左右の爪と指、腕を犠牲にして動きを止めた。その間にも大きな口で食いちぎろうとしてきた。
「『バイト』!」
ザンッ――!
首から上を失ったクマは力なく崩れ落ちた。
「さすがにここまでやれば行動不能になる――!」
シュッシュッシュッ!
カエルの長い舌を躱した――!
ヒュン! ヒュン!
今度はサルだ! しかもサルが他のモンスターも飛ばしている――
「いくらなんでも数が多すぎる――!」
ズバズバズバッ――
バキバキバキッ――
突然、数十体以上の敵が斃れた。
「えっ……」
僕はその光景を目の当たりにし、呆気に取られてしまった。
なぜならその先には翼を広げた『竜』と、大地を踏みしめる『狼』がいたからだ。




