第二章 第九十一話 〜避難と対峙〜
「何だって!?」
「くっ……みんな、最低限の荷物を持って、直ちに領主城へと避難してください! 私は一足先に門へと向かいます! はぐれないように手を握ってください! いいですね!?」
僕たちは同時に頷く。それを確認した神父様は即座に外へと走っていった。
みんなは二階でカバンなどを持ち階段を駆け下りる。忘れ物がないか確認したあと、教会の扉に鍵をかけた。
あたりはもう、暗くなりかけている。すでに他の人たちも避難が始まっていた。多くの人が領主城へと向かっている。町中にはただならぬ空気が漂っていた。
「私はチロとネネと手をつなぐから、リベルとセイクルで手をつないで。手を離したらだめだよ。強く握って!」
フィオが二人と手をしっかりつなぎ留める。それを見て僕も右手を差し出した。
「セイクル、行こう」
「……うん!」
彼女の左手と手をつないで固く握りしめた。お互いに緊迫した状態だから汗ばんでいる。
「大丈夫? 痛くない?」
「大丈夫――平気……!」
滑ると危ないからより一層力強く握りしめた。ひまわりのブレスレットが揺れる。
領主城前は当然のようにすごい人だ。
「この城の周りは結界法術で守られている! 皆のもの、慌てずゆっくり入るんじゃ!」
城の扉の上、バルコニーでバル爺が叫んでいた。
城の塀に入ったあたりで、僕はみんなに声をかけた。
「じゃあ、行ってくるよ」
四人がこちらを見た。
「分かった! リベル、頑張って!」
「リベル、頼んだよ!」
「帰ってきたら一緒に寝ようね」
三人が勇ましく応援してくれた――が。
「リベル――行かないで」
彼女は一人だけ泣きながら両手で僕の手を握りしめた。大粒の涙がポタポタ石畳の上に落ちる。
それを見た僕の体が勝手に動き――セイクルを両手で抱きしめた。
「大丈夫。セイクルとみんなは僕が守る。だからちょっと行ってくるよ。何かあったら、必ず駆けつけるから」
背中をポンポン叩いて体を離す。さらにそのあと三角巾越しに頭をポンポンと優しく叩いて四人に笑顔を見せた。
背を向けた僕は門へと走り出した――この町と大事な人たちを守るために。
「遅くなりました!」
「来たか! リベル!」
ギルド長がこちらを見た。
「状況は?」
「最悪だ。畑の奥の門のあたり、見えるか?」
僕は遠くを見る。すると今までに見たこともない数の赤い点が犇めいていた。だけど、前回と違ってクモだけじゃないように見える。
『ダーク=ヴィジョン』を使ってまじまじと見つめた先には――シカ、クマ、オオカミ、ヘビ、サル、コウモリ、カエル……ありとあらゆるモンスターが蠢いていた。
「一体どれだけの種類がいるんですか!?」
「分からん……周囲全てのモンスターを集めたよりも多いかもな……ヴォル! そっちはどうだ?」
ふと左を見ると、神父様が右手を敵に向けてかざしていた。
「いけます! 『結界法術・五重壁』!」
ヴン――!
門の前に広大な五重の光の壁が、敵に対して立ちはだかった。
「すごい……」
僕も含めて冒険者たちもギルド職員も兵士たちも感心する――が、ギルド長は腕を組んで誇らしげだ。
「どうだ! ヴォルはすごいんだぞ!」
鼻高々に自慢する彼女。はい、ごちそうさまでした。
すると赤面する彼氏がヤケクソ気味に叫んだ。
「け、結界はこの門を中心として緩やかに弧を描いています! そして、結界一枚につき一箇所ずつ、チグハグに大きな穴が開いています! 敵の侵入を制限している間に撃破する形です! いっぺんに結界ごと破られても困りますからね――あんなふうに!」
バリィィィン!!
向こう側の門の結界が破られた。門を通り抜ける敵と壁を乗り越える敵が押し寄せる――
ドゴオオオン!!
そんな中、巨大な四本のツノのウシが門壁ごと吹き飛ばした。




