第二章 第九十話 〜破られる平穏〜
「うふふふふ……」
夕方食事のあと、セイクルはとてもゴキゲンだ。よく息が続くと思うくらいずっと笑っている。さっきなんかトイレに行って帰ってくるまでの間にも笑っていた。これは今日寝る時に耳栓をした方がいいだろうか……
「いいなー、セイクルばっかりずるい」
「仕方ないよ。たぶんどこかで安定剤を打たないとおかしくなると思ってたから」
「今日は眠れるかな……」
めちゃくちゃな言い草だが、本人はそれにも全く気付いていない。
「大丈夫だよ。ちゃんとみんなの分もあるから」
僕はカバンの底をゴソゴソと探し始める。そしてフィオ、チロ、ネネ、それぞれに紙袋を渡した。
「え!? 何これ!?」
「僕の分もあるの!?」
「ネネの分も?」
「そうだよ。開けてみて」
三人が中身を取り出した。
「「「うわあ!」」」
「まずフィオ。君のは二つのリボン。大きなかわいい耳が特徴的だからね。
チロの分は入門編の画材セット。何か他の本と悩んだけど、好みもあるからね。今回は実技の授業からヒントを得て、それにしたよ。
ネネには枕。これすごくて、膨らませることもできるし、しぼんだら小さくなるんだ。しかも丈夫でツノでも穴が開かない。持ち運ぶのも便利なんだ」
みんな目を輝かせている――
「どう? 似合う? チロ?」
「かわいいよ、フィオ。似合っている」
「チロも画材セットカッコいいね」
「Zzz……」
いや、一人はもう寝た……何にせよ、みんな喜んでくれたみたいだ。
「おや、みんな、プレゼントをもらったみたいで――良かったですね」
神父様がエプロンを外しながらやって来た。僕はまたカバンからゴソゴソと紙袋を取り出した。
「はい、これ、神父様に」
「え……私に、ですか……?」
「そうです。開けてみてください」
神父様は慎重に紙袋を開けた。するとそこから一対の赤と青のイヤリングが出てきた。
「これは……?」
神父様とギルド長のペアイヤリングです。お互いがお互いを想うように。
ブアッ――!
神父様が泣き出した。
「ありがとうございます、リベル! 二人で大切にします! 子どもたちみんなの分もありがとうございます! あとで何かお返ししますから――」
「いえ、神父様やギルド長にもお世話になっていますから」
「ただ――」
「ただ?」
「そこまで気が回るのに全然肝心なことには気付かないんですね……」
「……?」
何のことだろう? と首をかしげた――と思った瞬間。
カンカンカンカン――!
けたたましい音が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
「な、なに!?」
「どうしたの!?」
「こわい……」
「これは非常事態の鐘! 何事ですか!!」
みんなが一斉に教会の扉から外を覗く。他の町民たちも家の外から顔を出した。皆驚き戸惑っている。
カンカンカンカン――!
中央広場の海側の近くの無人の物見櫓から鐘の音が再度響く。
ザーザー――
するとスピーカーから男の人の声が聞こえてきた。
「緊急事態! 緊急事態! モンスターの群れが山間部より大勢押し寄せて来ている! 兵士及び冒険者は町の門を至急守れ! 町民は直ちに領主城へ避難せよ!」




