第二章 第八十九話 〜太陽の腕飾り〜
「今日は楽しみね! リベル!」
「そうだね。セイクル」
今日、僕はセイクルと一緒に買い物に向かっている。理由はギルド長と神父様に行ってこいと言われたからだ。よくよく考えると、僕はこの町のことを、まだあまり知らない。日も浅いし、教会と冒険者ギルド、学校くらいしか行ってない――あ、鉱山もあったか。
昨日は巨大蜘蛛と戦った場所の調査で、そこに一人で赴いた。しかし僕が見る限り、何もおかしな点はなかった。
念のため、クモ用の魔術殺虫剤を噴霧、塗布、燻煙。それは他の生態系などには影響がないもので、学長がこの前の事態を受けて作ってくれたらしい。魔術ってそんなこともできるんだね――
そんなことを考えていたら、お店が立ち並ぶ場所に足を踏み入れていた――と言っても、教会からすぐ近くだからだ。
このベルグハーフェンの町の立地は港から始まり、上へ上へ、さらに海から山へと続いている。沖から堤防、桟橋、砂浜のある港。そこから石段やスロープを伝って上っていくとあるのが中央広場。その山側の真ん中にあるのが教会。中央広場では市場が円形に設置されていて、新鮮な海の幸、野菜や果物、パンなどの穀物が売られている。教会から分かれる二つの緩やかなカーブを描く坂は、その他の工芸品やレストラン、喫茶店などが立ち並んでいる。
そこを抜けると右手に冒険者ギルド、左手には学校、そして中央には領主様のいる城がある。その傍らには商業ギルドや各種役場、兵士の詰所がある。そこより先には強固な門と塀があって、さらに向こうには大きな道があって、その最中に鉱山や畑などが広がっている。さらにその奥にも門と塀がある――そんな感じだったと思う。
「どうしたの? ボーッとして」
隣のセイクルが僕の顔を覗き込む。ここは工芸品店だ。
「あ、いや、この町の地理を説明していて――」
「説明? 誰と?」
「こっちの話――セイクルは何か欲しいものとかある?」
「え? いやあ……リベルがくれるものだったらなんでも……ゴニョゴニョ……」
「なんて? 最後の方、聞き取れなかった」
「あーもー! なんでもいいわよ!」
うーむ。とはいえ、僕も女の子に贈り物したことない――それどころか、誰にも何も贈ったことがないなあ。タイとかカツオとかはあるけど。
「うーん……あ?」
腕組みしながら思案していると、ふと、黄色とオレンジのひまわりがデザインされた、白い紐のブレスレットが目に入った。
「これ……セイクルだ」
「え……?」
「セイクルにぴったりだ。君のオレンジの三角巾、そして白い太陽の模様。ひまわりと似合っているよ」
そう言って彼女を見ると顔が真っ赤になった。たぶんいいものを見つけたと思ったんだろう。
「お姉さん、これください!」
僕はお店の女の人に声をかけた。
「あらあ? お姉さんだなんて、上手ね。こんなおばさんに対して」
いや、綺麗に着飾ったキツネの獣人の方を見ても、年齢なんて分かんないし……
「お嬢ちゃんへの贈り物? そのまま着けていくかい?」
「はい」
「じゃあ値札取っておくからね……はい」
僕はブレスレットをお姉さんに渡された――あ、そうか! これ、僕がセイクルに着けるんだ!
「セイクル、左手出して。利き手は右でしょ?」
「う、うん――」
左手を差し出すセイクル。僕は手を取ってブレスレットを着けた。
「よし! とても似合っているよ、セイクル」
「う、うん……ありがとう、リベル。大切にするね……」
トマトよりも真っ赤になった彼女に僕は頷くと、店のお姉さんへ決済機能のついたギルドカードで支払いした――
――この夜、港町ベルグハーフェンの鉱山、その道を挟んだ山の奥の奥。カラスのマスクを着けたそいつは何やらひたすら作業を行なっていた。
「『ダブルスパイダー』は残念だったが、港町のインフラは邪魔できた。たまたま都合のいい場所に大洞窟があってよかった。おかげで鉱山の人間どもは処分できた――間接的なアプローチは有効だったと言える。
次は大詰めだ……魔界で育てていた『アイツ』をこの町に解き放ってやる。見てろよ、金髪のガキ! アハハハハ!」
山中全てが星の数を超える赤色の目で覆われた。
ただ一点、星も通さない巨大な漆黒を除いて。




