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第二章 第八十八話 〜港町の人格者〜

「なんですって!?」

「どういうことだ!? リベル!」

 神父様とギルド長が同時に椅子から立ち上がり両手でテーブルに手を置く。二人とも仲がいいな。夫婦って似てくるって言うけれどもどうなんだろう。

「神父様とギルド長は知っていると思うのですが、僕は前まで深海に住んでいました。そしてそこで僕は敵意を持った魚人、巨大な殺人蟹、巨大遺跡規模のアンコウや人魚の姿を模したヒドロ虫などと戦いました。共通点は『黒いもや』でした。やつらは死んだあと、必ず『黒いもや』となって消えるのです」

 ギルド内がざわついている。そもそも深海に住んでいた人間なんているわけがない――という当然の疑問から始まっているからだ。

「今回は子グモども、さらに巨大蜘蛛と戦いました。僕は疲れ果てて気を失ってしまいましたが、その後一体どうなったのでしょうか?」

「私やレティア、学長が残りのクモを斃した時は死体があったはずなのですが、後ほど再度確認した時には何もなかったそうです。しかし、坑内が『黒いもや』で満たされていたということは、そこにいた全員が覚えています。つまり、深海でも鉱山でも何らかの関連性がある、ということですか……?」

「おそらくそうかと思います。ただ、はっきりとしたことは言えませんが……」

 もしかしたら偶然かもしれない。だが、可能性はある。さらには、この先似たような事例も続いていくのかもしれない――

 

「ふむ。少なくとも、より一層の警戒は必要なようじゃ。領主としては、町内の避難経路の確認や連絡を密にしよう。避難場所はベルグハーフェン城でよい。食料などの物資の備蓄も常日頃からしておるでな。ただ商業ギルドとしては、鉱山の坑夫が亡くなってしまったことは相当な痛手じゃ。これでは魔法鉱石が採掘できない。町のインフラにも影響が及ぶ。徐々に人材を育成するにしてもタイムラグは否めんじゃろうて」

「そこで冒険者ギルドとしては、臨時クエストとして鉱山採掘を盛り込むことにした。もちろん、この前よりは採掘量は減るが、ないよりはあった方がいい。分かったな? お前ら」

 聞き耳を立てていた他の職員が返事した。

「そしてリベル。すまないが、鉱山の奥、その巨大蜘蛛と戦った場所を念入りに調査してくれ。我々では役に立たない。この前のとまとめて報酬も出す」

「あ、いえ、そんな報酬なんて……」

「いかんぞ。リベル殿。『報酬』はともに『むくわれる』と書くが、それ相応のものを用意せねばならん。『報酬とはありがとうの対価』なのじゃ。ありがとうも『有り難う』と書くが、『あることがむずかしいほど特別なこと』なのじゃ。因みにありがとうの対義語は『当たり前』じゃ。じゃから『ありがとうの質や量が増大して、報酬という形になる』のは自然なことじゃ。それが本当の意味で『当たり前』じゃ」

 

 僕の脳味噌は殴られたような衝撃を受けた。まさか『報酬』や『ありがとう』という言葉にそんな意味が隠されていたなんて。神父様も人格者だと思っていたが、バル爺は同じくらい、いや、それ以上のとてつもない人格者だ――

 

「……まあそういうわけだから、リベル、報酬はもらってくれ。例えばセイクルと二人で買い物に行くとか――」

「え? なぜセイクルの名前が出てくるんですか? 他のみんなと一緒じゃダメなんですか?」

「「ハァー……」」

 なぜか神父様とギルド長は特大のため息をついた。

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