第二章 第八十六話 〜港町の領主〜
「ん……んん……ふぁああ……」
僕は目を覚ました。まだ意識がぼんやりする中、上体を起こして背伸びをした。寝すぎたのか、それとも寝足りないのかは分からない。
よくよく周りを見渡すと、今自分がいる布団は教会の二階の寝室、一番奥の場所に移動されていた。普段は僕の寝る場所は二階に上がって右の手前で、チロがその隣だ。
おそらく神父様は僕がずっと目を覚まさないから、邪魔にならないようにそうしてくれたのだろう――そもそも、一体いつまで寝ていたんだ?
僕は『コンフォート』で身を清める。布団もキレイにして畳んで仕舞った。カーテンを開けると、日が差し込んでいる。そしてゆっくり階段を下りた。
「おはようございます――あれ? 誰もいない」
するとテーブルの上に書き置きを見つけた。頑張って読むと――
「リベル、起きたら冒険者ギルドに来てください。今日はあなたが眠ってから四日目です」
と神父様の文字が記されていた。おお、学校の言語学もまだそんなに自信はないけど、何とか読めたぞ。これも学校の授業の賜物か……というか、そんなに眠っていたのか。確かにあの巨大蜘蛛との戦いは相当疲れたもんな――あれ? 下の方に何か書いてある。
「「「「リベル、おはよう!」」」」
それは僕への挨拶だった。何気ない言葉でも嬉しく思う……?
「愛しのリベルへ」
「ふざけんなフィオ!」
「起きたら男同士で語ろうね」
「眠たい」
「……」
途中から落書き帳になっていた。
軽く何か食べて、冒険者ギルドに向かうか――
「おはようございます!」
僕は冒険者ギルドの扉を開けた。
「あ! リベルさん! 意識が戻ったんですね!?」
受付のお姉さんと他の職員たちも勢いよくこちらを向いた。僕は手を振ってそれに応えて、お姉さんの場所に歩いた。
「ようやく戻りました。どうやら三日ほど眠っていたみたいで……」
「仕方ないですよ。リベルさんが鉱山から出てすぐに状況を教えてくれたおかげで、迅速に対応ができました。ありがとうございます」
「結局あのあと、僕は力尽きて寝ちゃったんですが、色々どうなったんですか?」
「はい。まずはリベルさんがまだクモが残っているかもしれないとのことを受け、あとから合流した学長と、冒険者ギルドの総力を挙げて、徹底的に調査と殲滅をしました。その結果、少なくとも坑内の安全は確保いたしました。
次に、坑夫の遺留品についても調査を実施し、クモなどの脅威は残存していないとのことで、遺族の元へ返しました。もちろん、とても残念な結果でしたが、服や装備などが帰ってきたのは、せめてもの救いかと思います」
「――やはり、生存者は――」
「いませんでした。犠牲者の数は百十二人に及びます」
「そうでしたか――」
「つきましては、鉱山全体を一次的に閉鎖することも考えましたが、また何らかのモンスターや脅威が発生しても困るので、警備と調査をしつつ、また採掘が再開できるような体制を整えようとしています」
「なるほど――」
「君が英雄かね?」
僕は声のする方を見た。ギルドの階段の上から小柄なシルクハットとモノクルをかけ、小太りの年老いた男性が、ステッキと階段の手すりを支えとして下りてきた。その上にはギルド長と神父様が立っている。
やがて僕に近づいてきて、右手を差し出した。僕も彼にならって右手を出して握手した。
「あなたは……」
「儂はこのベルグハーフェンの領主兼商業ギルド長、バルタザール・ポルテじゃ」




