第二章 第八十四話 〜毒を以て毒を制す〜
「ぐあああああ!!」
僕の背側から、左肩横、右肩下、左脇下、右臀部に液体を注入されている!
「『ダブルスパイダー』の毒は獲物を内側から溶かす『溶解毒』、麻痺させる『神経毒』、激痛を与える『発痛毒』などが含まれているんだ。さあ、のたうち回りながらドロドロに溶けて死ぬがいい! アハハハハ!」
暗闇で耳障りな声が響き渡り、自分の体に異物感が増していく。このまま溶かされていってしまうのか……
――あれ? よく考えたらおかしくないか?何か液体を注入されている感じはあるけど、それ以上でも以下でもない気がする。虫刺されで大きく腫れた程度の違和感。
『溶解毒』は? 『神経毒』は? 『発痛毒』は? 感じないぞ!? まさか――
「お前……なんで平気なんだ……?? ありったけ毒は流し込んでいるはずだぞ!? 何なんだ!? お前は!!」
カラスの方が狼狽している。声しか分からないが、この漆黒でも表情が見えるように感じる。
「ふっふっふ、あーっはっはっは!!」
僕は高らかに笑った。
「な、何がおかしい!」
「これが笑わずにいられるか。僕はその『ダブルスパイダー』よりも、『遥かに極悪な生物兵器で耐性を得たから猛毒が効かないんだ』!」
「えっきし!」
「セイクル、何よ、その芸人みたいなくしゃみは」
「いや、分からない――風邪かな?」
「ずっとリベルたちが帰ってくるまで一人で寝ないで祈りのポーズし続けているんだもの。一旦、横になりなさい!」
「でも……」
「這々(ほうほう)の体で帰ってくるのにアンタが倒れてたら笑顔で『おかえりなさい』が言えないでしょ! ほら、寝た寝た!」
「はぁい……」
「そんなものがこの世にあるわけがない!」
「残念だったな! まあ、僕でもそう思う……」
「だ、だが、この強靭な糸からは逃れられまい! このまま縊り殺してくれる!」
ミシミシミシッ!!
「ぐあああああ!!」
『パラライズ』と『ポイズン』があるから毒は効かないが、それ以外はどうにもならない。首と四肢が引きちぎられ、絞め殺されそうになる――
ゴキッ! ベキッ! ミリミリ――
「ああああああ!!」
頭も手足もあらぬ方向を向いている!
痛い! 痛い! 痛い! 痛い!
ブチブチブチッ!!
串刺しになった鋏角を中心として、僕の体は六つのパーツに分断され、さらに胴体も四つに引き裂かれて床に捨てられた。
「アハハハハ! ざまあみろ! アハハハハ!!」
カラスの嗤い声がこだまする。間際に見えた十六の目も嗤っているかのようだった――
意識が混濁する中。
耳元で、無機質な声が響いた。
脳裏に、うっすらと光る文字が浮かび上がる――
【グラスプ(扼殺)】
【ダーク=ヴィジョン(闇視)】
僕は心の中で『リカヴァー』を起動した。
「あああああ!!」
九つのパーツがひとつに組み上がっていく。
「な、なんだ!? 何が起きた!?」
敵が困惑している。蜘蛛は正面で身構えていて、カラスは離れた場所で浮いていた。もはや鮮明に丸見えだ。すかさず僕は両手をカラスに向けた――
「『アロー』!」
ドドドドド!!
「なにっ!? 守れ! 『ダブルスパイダー』!」
言うより早く巨大蜘蛛が身を挺した。横っ腹に無数の光の矢が突き刺さる。
「グオオオオ!!」
敵が悲鳴を上げたのもつかの間、すぐに頭と尻から糸を僕目掛けて射出した。
「へえ、二箇所から糸を出せるんだ――」
と口に出した瞬間、ぐるぐる巻きにされてしまった。
「フン! 馬鹿め! 『ダブルスパイダー』、そのまま滅多刺しにしろ!」
「キシャアアア!!」
糸を巻き僕の体を引き戻し、同時に四つの鋏角をこちらに差し向けた。だが、その技はもう効かない――
「今度はこちらの番だ!」
僕は自分の手足を動かす。すると『スキル』のおかげでブチブチと、いとも簡単に糸が切れてしまった。さらに次の手段で畳み掛ける。
「『グラスプ』!」
両手を鋏角目掛けて伸ばしたあと、光る縛鎖を巻きつかせた。包帯のように四箇所を封じる。
「キシャアアア!?」
慌てて後退する巨大蜘蛛。だがもう遅い。
「さすがにそんな太い鋏角だと扼殺もできないだろうからね。でも動きは制限できたから、これが有効だろう! 『シザー』!」
僕は素早く突進しながら両腕を前に向けて、光る巨大な挟を出現させた――
ザンザンザンザン!!
巨大蜘蛛の四本の毒の顎を切り落とすことに成功した。




