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第二章 第八十二話 〜鉱山の不審〜

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 転げ跳ねながら『アロー』と『テア』と『スティング』を繰り返したから、さすがに息切れがひどい。

 立入禁止区域の扉は破られていた。かんぬきも折られている。ついこの前、この場所で会話した、あの坑夫はもういない。

 クモの糸が落ち着いてきたのか、多少坑道が見やすくなってきた。だが、見えない方が良かった。壁と底にはドス黒い赤色が染み付いていたから。

 だが、途方に暮れているわけにはいかない。原因を排除しない限り、また同じことが繰り返されてしまう――

 

 僕は最下層を流れる川を見つめた――カエルと戦った場所だ。流れはザーザーと音を立てている。おそらくこの先に何かがいる。

 自分のヘッドランプやカンテラ、その他の装備を坑夫の遺品と同じ場所に隠した。もし他のクモが戻ってきた時に荒らされないようにと。

 そして川のそばに立つと、そこめがけて飛び込んだ。

 

ドボン!!

 

 相変わらず流れが速い。あっという間に流されてしまう。だが僕にはこれがある。

 

「『スウィム』!」

 

 流れに逆らい上流――坑道の奥を目指す。

 カエルと戦った場所を過ぎるとさらに流れが激しくなった。岩もあり滝のようになっている。こんなところをクモもカエルも泳いできたのか。

 因みに通常のクモであっても一日くらいは水の中にいても生きている。ゲジゲジやムカデに至ってはもっと平気だ。トイレに流すと下手するとそのまま上ってくる。 

 却ってこの流れのおかげで先に進めるのは皮肉だな。これが鍾乳洞の濡れた岩肌とかであれば、おそらく無理だっただろうから。

 

 

バシャン――!

 

 僕は滝の上に空間を見つけ、そこに降り立った――いや、降り立ってしまった。

 音が反響し、そこが広大な空間だと感じた瞬間、赤色の星空がプラネタリウムのように姿を現した。

 しかし、そこにブラックホールが見えた。一箇所だけ相当な大きさのブラックホールが見える。すると、巨大な赤色の目がこちらを向いた――?

 数が多い! なんだこれは? 何個ある――十六!?

 

「おっと、虫けらが一匹迷いこんだようだ――?」

「な、な、喋った!?」

「クモが喋るわけないだろう。そもそもお前のレベルに合わせて喋って『やって』いるんだ。感謝しな」

「誰だ! 姿を現せ!」

「フツー、そう言って姿を現すと思うか? まあ俺ちゃんは特別に見せてあげるけどな」

 そいつがそう言うと、十六の目のさらに上空の闇に紫色に光る空間が現れ、丸いカラスが登場した。黒いシルクハット、丸いゴーグル、燕尾服。ステッキを持って浮いている。さながらペストマスクのようだ。


「……なんだお前は?」

 そいつを睨みつける。

「なんですぐに死ぬやつに素性を明かさなきゃならないんだよ。馬鹿なのか?」

「坑夫をどこにやった!」

「ほとんどは生きたまま苗床になって、その後はエサになったよ。邪魔だったし、都合も良かった」

「都合……?」

 僕は両の拳を握りしめながら話を続ける。

「おっと、それは分からなくていいことだ。しかし、お前どうやってここに来た? かわいい子たちがいただろう?」

「斃したよ」

「……は?」

「斃したって言ったんだよ」

「なんだって? どうやって!」

「こうやってだよ! 『アロー』!」

 

ドドドドド――!

 

 天井、壁、床の赤色の星が徐々に消えていく。カラスの余裕な顔が引きつった。周囲のクモどもは文字通り蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うが、僕の両手は止まらない。

「クソが! おい、こいつを殺せ! 『ダブルスパイダー』!!」

 

 カラスの怒声に応じ闇に浮かぶ十六の目が、怒り狂いながら襲いかかってきた。

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