第二章 第八十話 〜鉱山の不気味〜
地下一階――気配がない。
地下二階――気配がない。
地下三階――気配がない。
地下四階――気配がない。
地下五階――気配がない。
エレベーターの中から外を慎重に確認して、そのまま次の階層へ降りる操作を繰り返す。手動の各階停車だ。
僕はこの異常の原因が一番奥深く――カエルと戦った付近にあると感じていた。
その理由はどの階層でも引きずられた跡が、このエレベーターに集まっていること。
さらに階層を下りるにつれて、どんどん黒いもやが濃くなっていることだ。もともと暗い坑内なのに、不気味さは増すばかりだ。
地下六階――気配がない。
地下七階――気配がない。
地下八階――気配がない。
地下九階――気配がない。
地下十階――気配が――
ガァン!!!
突然天井に大きな音が響き渡った。エレベーター全体が揺れる。
ガン! ガン! ガン!
上から幾度となく叩かれる。このままだとかご自体が危ない。そう判断した僕は咄嗟に十階の入口に転がりこむ。すると次の瞬間――
バチンッ!
かごが落ち――
ガシャアッ!!
安全装置が働いて――
ギギギギガガガガガっ!!!
エレベーターが止まった音が響いた。僕は縦穴を確認しようと、わずかに身を乗り出した――
シュルシュルシュル!
――!!
粘性を帯びた黒いもやが自分の体中に纏わりついた。しかし即座に『テア』で切り刻み、どうにか完全に動けない事態は回避する。僕はもやが飛んできた方向を睨みつける。
そこには赤色をした目が八つ、暗闇に浮かんでいた。
こいつがエレベーターのかごを襲った正体――つまり巨大な『クモ』だ。他は見えにくいが目の感じから察するに、前回のカエルの大きさくらいはありそうだ。
だが敵がこいつ一匹だとは、到底思っていなかった。なぜなら引きずられた跡は『無数に』あったからだ。縦穴にいるそいつにも留意しつつ、坑道の奥を振り返って見えてきたものは――
星の数ほどの大小様々な赤色の目だった。
僕は思わず鼻で笑ってしまった。
「……ああ、とても綺麗だね――『アロー』!!」
ドドドドド!!
片っ端から片手で光の矢をぶち込んで横に飛び込み前転をする。カンテラを持ったままだからやりにくいが、そんなこと言っている場合ではない。
シュルシュル――!
糸を躱しつつ『アロー』で反撃する。少しでも数を減らさない限り何もできない。物量には物量だ。しかし、敵も馬鹿じゃない。
シュルシュルシュル!!
ひときわ大きい八つの赤色の目――エレベーターかごを襲ったやつがこちら目掛けて黒いもや――『糸』を飛ばす。
「『テア』!」
両足から生成した光の刃で切り払った。クモがたじろぐ。
というかそもそも口から糸出してないか? とんでもないな!
通常クモは主にお尻の先端の出糸突起から糸を出すけど、こいつは口から出している――ヤマシログモのように。タチが悪い。
「まあそんなことを言っている場合じゃない! 『アロー』!」
ドドドドド!
「ギィヤアアア!!」
八つの赤色の目は消えて黒色に戻った。




